千葉県弁護士会が
追原ダム建設計画の即時中止と
公共事業の抜本的見直しを求める会長声明
千葉県弁護士会は2000年12月20日、「追原ダム建設計画の即時中止と公共事業の抜本的見直しを求める」会長声明を発表しました。
追原ダムが計画されている七里川渓谷は、その豊かな自然に育まれた多種多様な動植物が生息し、希少動植物をはじめ、モミ、ツガ、氷河期の名残であるヒメコマツ等の原生林や自然林が残る自然の宝庫であり、県内随一の豊かな自然環境を形成しています。また、小櫃川は、流域面積約273平方キロメートル、源流から河口の盤洲干潟までの流路延長約88キロメートルの河川であり、流域の様々な生態系を支えています。
声明は、ダム建設の問題点として、必要性にはなはだ疑問があることや、環境保全の観点が不十分であること、財政面からの考察が全く欠落していることの3点をあげています。そのうえで、つぎの3点を千葉県に求めています。
- 追原ダム計画を早期に中止すること。
- 環境保護と真の豊かさの実現にむけ、アメリカで法制化されているミティゲーション制度を導入すること。
- 早期に既存の公共事業の見直しをはかるとともに、独立・中立の「公共事業再評価委員会(仮称)」を設置し、情報公開と県民参加のもとに事業の中止を含む抜本的な再検討をはかること。また、「公共事業改革条例(仮称)」を制度化し、(1)公共事業にかかる基本計画や財政計画を議会の議決事項とする、(2)科学的調査・予測・評価機関を設置する、(3)県民参加手続き規定する等、公共事業適正化の為の法整備を行うこと。
声 明 |
追原ダム建設計画の即時中止と
公共事業の抜本的見直しを求める会長声明
- 公共事業見直し論議が高まる中、本年9月21日、千葉県事業評価監視委員会は、追原ダム建設について建設中止が妥当との判断を行った。同評価監視委員会は、国庫補助を受けて千葉県が行う公共事業の有効性について見直すために設置されたものである。当然のこととは言え、その判断を評価するものである。
追原ダム建設計画は、1955年頃からダム適地性調査が行われ、1975年に建設省の補助事業としての調査が押し進められ、1995年には建設事業の採択を受けた計画であり、同年県は同車業に着手した。
追原ダム建設予定地は、県有数の河川である小櫃川源流域の七里川渓谷に位置し、付近には養老渓谷等県指定の自然公園がある。同予定地付近の黄和田畑、四方木地区には、その豊かな自然に育まれた多種多様な動植物が生息し、稀少動植物をはじめ、モミ、ツガ、氷河期の名残であるヒメコマツ等の原生林や自然林が残るまさに自然の宝庫であり、県内随一の豊かな自然環境を形成している。加えて、小櫃川は、流域面積約273平方キロメートル、源流から河口の盤洲干潟までの流路延長約88キロメートルの河川であり、流域の様々な生態系を支えている。
この為、小櫃川源流の森林が広範囲で水没する等の変化が生じるダム建設によって、広範囲にわたる自然生態系の変化や水質の変化等の影響が生じることとなり、同ダム建設による自然への悪影響ははかり知れないところである。
- 県はこの追原ダム建設について、利水及び治水の必要性を挙げる。
しかしながら、追原ダム建設については、三つの問題がある。
第一に、ダム建設の必要性自体がはなはだ疑問であると言わざるを得ないことである。主要な目的とされている利水について見ると、木更津・富津・君津・袖ケ浦4市が1980年代に予測した2000年時点の人口は、4市合計51万4000人とされていた。ところが4市の実際の人口は2000年1月時点で合計約32万7600人となっており、予測の約6割にとどまっている。治水についても、亀山ダムに加え片倉ダムが竣工したこともあり、新たなダム建設の必要性について充分な説明は行われてこなかった。このように現状を直視すると、追原ダム建設計画は、当初から「公共事業のためのダム」の色彩が強かったものと指摘せざるを得ない。
第二に、環境の保全という観点が不充分であったことである。このことは、同計画によって失われる自然に関する調査がきわめて不足していることからも言えるところであり、また、広範囲にわたる多種多様な動植物を育む生態系への影響と豊かな自然に対して、より少ない影響を考慮した代替案の検討がなさていないことからも言えるところである。
第三に、財政面からの考察が全くといってよいほど欠落していることである。総工費は約260億円とされている。一方、県債残高は1999年度末で1兆8000億円以上にものぼる。この県債残高は県の1999年度予算額約1兆6600億円をも上回る巨額に達しており、しかもこの10年間で約1兆2000億円も増加している。このように県財政が破綻に瀕しているにもかかわらず、ダム建設費の財源についてもほとんど論議されてこなかったのである。
- 公共事業については、その必要性について充分に調査検討し、常にその必要性について検証しながら当該計画を実施することが原則である。ところが、一旦動きだした公共事業についてはややもするとその検証を怠り、場合によっては中止すべき事業であるにもかかわらず同事業が強行されるという事態が生じる。県民の貴重な税金が使われ、そして県民の貴重な財産の侵害を伴って、無用な公共事業が実施される不合理は到底是認できないところであるし、国民及び県民の共通の認識でもある。
- 以上から千葉県に対し、第一に、県内における貴重な自然環境を保全し、公共事業の再点検を求める観点から、自然環境を破壊し、周辺流域に多大な悪影響を及ぼす上、利水・治水の必要性について充分な検証がなされていない追原ダム建設計画については、早期に中止するよう求める。
第二に、環境保護と真の豊かさの実現に向けてアメリカで法制度化されているミティゲーション制度、すなわち開発行為については、(1)行わないことによって環境破壊を回避する、(2)次に規模や程度を制限することによって環境影響を最小化する、(3)最後に環境の影響がどうしても避けられないものについては代替措置を行う−−という基本的な手法の導入を求める。
第三に、早急に既存の公共事業の見直しをはかるとともに、今後は県に独立・中立の「公共事業再評価委員会(仮称)」を設置して情報公開と県民参加のもとに事業の中止を含む抜本的な再検討をはかること、「公共事業改革条例(仮称)」を制度化し、(1)公共事業にかかる基本計画や財政計画を議会の議決事項とする、(2)科学的調査・予測・評価機関を設置する、(3)県民参加手続き規定する等、公共事業適正化の為の法整備を行うよう求める。
以 上
2000年(平成12年)12月20日千葉県弁護士会 会長 守川幸男
千葉県知事 沼田 武 殿
追原ダム計画に関する千葉県弁護士会のヒアリング。
左側は「小櫃川源流域の自然を守り育む連絡会」のメンバー。
12月下旬の七里川渓谷
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