★七里川渓谷と追原ダム計画


   小櫃川(七里川渓谷)の

  追原ダム建設計画に反対

鈴 木 藤 藏
(夷隅郡市自然を守る会、千葉県野鳥の会)


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 私は、小櫃川に計画中の「追原ダム」の建設に反対する。


1.小櫃川の概要

 房総半島の中心、清澄山や元清澄山などを源流とする小櫃川は、笹川、御腹川などの支流を合流し、君津市から一部袖ケ浦市を経て、木更津市久津間で東京湾に注いでいる。本支流を併せた流路は約130キロメートルで、県内で最も長く、流域面積は約270キロ平方メートルある。本流は、清澄山の北面を源流として、その上流を七里川と呼んでいる。元清澄山の北面を源流とするのが笹川であり、本流との合流点に設けられているのが亀山ダムである。また、この笹川の君津市笹字片倉(「君津亀山少年自然の家」の下)には片倉ダムを建設中で、まもなく完成となっている。下流には小櫃堰(おびつぜき)が設けられている。


2.小櫃川流域の重要性

 小櫃川の上流域には、南房総国定公園(飛地)、県立養老渓谷奥清澄自然公園、元清澄山自然環境保全地域、三石山郷土環境保全地域などがあり、下流域には地蔵堂・藪化石帯自然環境保全地域がある。また、この上流域の自然公園地域には100年の歴史がある東大農学部付属千葉演習林があり、その全域が清澄山鳥獣保護区となっていて特別保護地区2か所がある。
 これほど自然公園や自然環境保全地域などが密集しているのは、この地域が明治以後も国有林、県有林、演習林などの公有林や共有林として管理保全されてきたうえに、豊かな森林とそこに生息する動植物、そして恵まれた景観が早くから多くの人々に認められてきたからである。それが今日、この地域を房総半島という特異な動植物の生息環境の中心としてきたのである。
 このように開発から守られ、他地域の開発が進めば進むほどこの地域の重要度は増してきている。ある人は清澄山系は“房総のへそ”と言っているが、へそであると同時に、房総半島という自然の最後の限られた場所という意味から“房総の砦(とりで)”と位置づけられる。
 流域は、宅地、ゴルフ場、土採取場や廃棄物処分場建設などの開発が進んでいる。しかし、これら上流域を中心に各種の研究や自然観察、下流域は河口干潟の鳥類や各種生物・自然海岸などの観察をはじめ、川釣りや散策など、全域でその地域の人はもちろん、多くの人々に利用され、B教育と憩いの場Cとなっている。上流域について一部で、「亀山ダムと黒滝の紅葉」「三石観音」「七里川渓谷の紅葉」などと観光宣伝しているが、亀山ダムは釣堀りと同じであり、黒滝を見るためには演習林事務所の立入り許可が必要である。上流域は観光より東大演習林を含めて自然環境の教育の場として活用すべき地域であり、さらに中流域を含めて全国的にも珍しいといわれている「南総の川廻し」(注)が見られ、里山と谷津田を合わせ、先人の自然利用の知恵や労苦、そこに生きる生物の食物連鎖、四季美しい姿を見せる豊かな植物、そして山菜など自然と人との関わりを学ぶことができる。下流域や河口、干潟については、「小櫃川河口干潟」として、今や谷津干潟と並んで数少ない日本の渡り鳥の中継地となっている。


  (注)川廻し……その地形を「川廻し地形」ともいう。川の流路の「穿入蛇
         行(せんにゅうだこう)」部分を隧道で繋いだり開削して
         流路を短略し、旧流路を新田としたもの。水田用地の確保
         を第一としたもので旧流路は遊水池同様で水害防止効果が
         ある。江戸時代後期以降行われるようになったといわれ、
         南総の各河川に多く見られる。また、谷津田の小川にも同
         様なものが多くあるほか、谷津田には人工の小川や、近く
         の沢や川から小隧道で取水したり、逆に廃水したりして水
         田耕作の安定を図ったものが多い。




3.追原ダム計画の概要

 「追原ダム」(計画諸元、型式・重力式コンクリート、堤高46メートル、堤頂長139メートル)は、小櫃川水系小櫃川総合開発事業として亀山ダム、片倉ダムと連携して洪水調節、流れの維持、水道用水の確保など多目的ダムということである。「県矢那川・片倉ダム建設事務所」で出しているパンフレットでは、洪水や農耕地の水不足を取り上げ、とりわけ過去の水害について新聞記事の写しを添えて大きく掲載しているが、この川は、先人の川廻しからこれまで大きな水害も少なく、これ以上のダム建設の必要はないはずである。1970年(昭和45年)6月の集中豪雨の被害から亀山ダム建設の必要にいたったということであるが、さらにダムの必要があるという話しはこれまでに公にはない。なお、用地買収はまだ終わっていない。


4.ダムの影響と反対理由

 清澄山系には、この小櫃川流域のダムのほかに、東に勝浦ダム、西に金山ダム、南に保台ダムや袋倉ダムなどがある。また、笹川の上流には掘削したまま工事半ばで放置されているゴルフ場や、元清澄山南側には稼働しているゴルフ場もある。これらは、完成間もない保台ダムを除いて年数も経ち落ち着きを見せてはいるが、金山ダムと亀山ダムは、釣り用ボートでカイツブリはもちろんオシドリやヤマセミは追いやられてしまっている。仮に水不足や洪水防止の必要があっても、“即ダム建設で”というのは単略すぎる。まだまだ“水はただ”という考えが当局にもあり、公共河川を自由に使用しようとしているのは大きな誤りである。私たちにも観察や研究・憩いの場としての河川利用の権利があるのである。
 ダム工事が始まるとどうなるか。各所のダム工事現場を見ると、まずダム流域の森林伐採と車両の出入りのための道路の建設と掘削で付近の自然は大破壊を受ける。景観はもちろん、目に見えることでは、雨が降れば土砂が流失し、水生動物やそれを餌にする鳥類は被害を受ける。完成すれば、コンクリートとその吹き付けの壁で草木も生えず鳥も近寄らない。養老川の高滝ダムや待崎川の保台ダムを見れば明らかである。さらに、水没地域の環境の変化、水量・水質変化からの水生動物への影響と、それ等が小櫃川全般に影響して河口・干潟の生態系にまでにも大影響を与えるであろう。地域住民の多くは、ダム建設と絡めた新道路に期待しているようで、「30年も前からの話しでいつできるか、ダム流域の道路ばかりが良くなっても前後が良くならなければ役立たない」とぼやいていた。新道路は演習林をトンネルでぶち抜く計画であり、自然破壊そのものである。
 上流域は、このように開発が進められ、自然環境の変化が心配なのに、東大演習林はこのダム建設に賛成とか。演習林のダム関連用地の面積は小さくても、この計画にこそ反対してその保全に積極的に尽くすべきである。また、七里川渓谷の上流黄和田畑札郷地区の3本の小川を中心とした谷津田は自然そのもので、ゆえに県立養老渓谷奥清澄自然公園区域である。ここも水没予定地と聞いたときは、涙の出る思いだった。自然の宝庫の人工埋没は我慢ができない。源流域の森林から、河口・干潟までの生態系は維持しなければならないし、“房総の砦”が落ちたら房総の自然は都市公園と同じになってしまう。清流と新緑・紅葉が美しく、チョウ、トンボが舞い、カジカガエルやオオルリの声が聞かれる自然豊かな文字どおり清澄な環境をいつまでも残したい。

(1998年10月)





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