八ッ場ダムを考える現地交流会




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 (2003年)9月6日と7日、「八ッ場ダムを考える現地交流会」が群馬県の長野原町で開かれました。主催は、全国自然保護連合、八ッ場ダムを考える会、日本消費者連盟、群馬県自然保護団体連絡協議会、千葉県自然保護連合、霞ヶ浦・北浦をよくする市民連絡会議の6団体です。


1.地元住民と自然保護団体が話し合い


●“孤立無援”の激しい反対運動

 八ッ場ダムは、群馬県長野原町の利根川水系吾妻(あがつま)川に計画されています。「首都圏最後の水がめ」といわれているこのダムは、51年前の1952年(昭和27年)、治水と首都圏の利水を目的に計画されました。事業主体は国土交通省(旧建設省)です。
 建設省がダム計画を突然発表すると、水没予定地の住民は猛烈に怒り、激しい反対運動を進めました。その運動は、“関東の蜂の巣城”と呼ばれたようにものすごいものでした。
 しかし、革新都政の美濃部知事がダムに積極推進の立場をとっていたこともあって、市民団体や労働組合などは反対運動をほとんど支援しませんでした。ダムの弊害があまり認識されていなかったということもあります。
 こうした孤立無援のなかで、地元の住民は運動をつづけました。しかし、建設省、県、町、政治家などが一体となった“兵糧攻め”などがつづくなかで、長い闘いに疲れ果て、補償交渉に応じるにいたりました。

 2年前の2001年6月、水没する住民と国交省の間で補償基準が妥結しました。その後、個別移転補償が進められています。しかし、補償基準が妥結すると国交省は、代替地をなかなかつくらないなど、約束事を次々と破っているそうです。


●現地住民と自然保護団体が話し合い

 今回の交流会では、水没予定地の住民の方々とも話し合いをもちました。
 最初、住民の方々は、私たち自然保護団体にたいするいろいろな疑問を率直に語ってくれました。
 「自然保護団体は、自然や動物を守るためにダムに反対しているのであって、我々住民の暮らしなどは考えていないのではないか」
 「イノシシやサルなどがたいへん増え、トウモロコシやリンゴなどの農作物を食いつくされるなど、我々はたいへん難儀をしている。これについてどう考えるのか」
 「この地域は道路や上水道などの整備がたいへん遅れている。ダムが建設されれれば、そうしたインフラも整備される。この点についてはどうか」
 などというものです。

●「人をはじめとするいのちを大切にしたいから八ッ場ダムに反対」

 これに対し、自然保護団体や市民団体のメンバーからは次のような意見がだされました。
 「人をはじめとするいのちを大切にしたいから、私たちは八ッ場ダムに反対している。単なる動物保護からではない。ダム建設は莫大な金をつぎ込み、環境、いのち、暮らしを破壊するものである。私たちは、八ッ場ダム事業に税金を拠出している下流域住民や国民としても反対である」
 「地域生活に必要欠くべからざるインフラは、ダム建設にかかわりなく整備されるべきである」
 「ダム予定地とされていることが過疎化を促している要因のひとつであると考えるが、ダムが建設されてしまえば、過疎化はさらに進み、ダム建設にあわせて整備されたインフラも無用の長物となってしまう」
 「ダムにムダな投資をするかわりに、地域の活性化のための投資をさせていくことが大切である。ダム建設と一体となった地域の活性化はありえない」
 「国土交通省と話し合う場を設定し、都市住民として八ッ場ダム反対の意思表示をしていきたい。また、皆さんといっしょに交渉の場に座りたい」
 長野県は、ダム計画をすべて中止させ、治水対策の代替えを検討中です。その長野県で長年にわたってダム反対運動をつづけてきたメンバーは、ダム問題での同県のとりくみを話しました。


●「犠牲者のでない八ッ場ダム方式」は絵空事

 国交省は代替地をつくる気がないようです。そのほかのいろいろな約束事も、履行をさぼっています。交流会では、こうしたことを率直に話し合いました。
 国(国交省)と群馬県、長野原町は、水没予定地の地元住民に対し、「犠牲者のでないダムをつくる」と文書で約束しました。その柱は、ダム湖の上に新しいまちをつくり、そこに移り住んでもらうという「現地再建方式」です。
 国交省などはこれを「犠牲者のでない八ッ場ダム方式」と宣伝してきました。代替地にできる立派な住宅のモデルをつくり、夢を見せ続けました。「やんば館」(国交省の八ッ場ダム広報センター)には、ダム完成後にできる新しい街並みの模型も展示されています。

 しかし、2年前に補償基準が妥結され、移転補償の個別折衝がどんどん続けられていますが、代替地はまったくできていません。そのため、補償費をもらった人は町からでざるを得なくなり、過疎化が進んでいます。



●約束を反故

 このほか、国交省は、地権者たちに次のような約束もしていました。

  1. 土地の面積が、公簿よりも実測が少ない場合は、公簿面積で補償する。(これは、国交省八ッ場工事事務所長と町長の公印が押された文書でうたわれていた)
  2. 建物はすべて新築補償にする
 ところが、a.については、「国に予算がない」との理由が破棄です。b.についても、じっさいの補償額はとても新築できるような額ではありません。それで、地元住民の間では、「こんなみじめなダムはない」「だまされた」などという声もだされているそうです。


2.ダム関連工事はムダづかいのオンパレード
    〜「金はいくらかかってもかまわない」〜


 2日目(7日)は、「八ッ場ダムを考える会」の飯塚忠志副代表にダム事業をめぐるさまざまな問題や「考える会」のとりくみなどを話してもらいました。
 そのあとは、現地見学会です。ダム関連工事の現場をまわりながら、ダム関連工事の壮大なムダづかいぶりや、国交省の地元住民に対するひどい仕打ちなどを説明してもらいました。


●金をふんだんに使ってメチャクチャな工事が進む

 本体工事は未着工ですが、現地ではダム関連工事がどんどん進められています。そのムダづかいぶりは相当なものです。東京都や千葉県、埼玉県など1都5県がいくらでも負担金を支出してくれることになっているので、金をふんだんに使ってメチャクチャな工事が進められています。
 たとえば、工事用の橋を2本みせてもらいましたが、これは1本10億円とのことです。ダムができれば沈んで使えない橋です。30億円の橋も2本つくられています。歩道を両側に確保したたいへん立派な橋です。


●小学校の移転先は人里離れた山の中

 昨年9月に移転した長野原第一小学校もみせてもらいました。この小学校は県内最古の木造校舎でしたが、初の代替地に移転されました。移転先は人里からかなり離れた、高い山の中です。小学校のまわりには、家などは1軒もありません。とても歩いて行けない場所なので、生徒はスクールバスで通っています。
 この新築校舎は立派な屋内プール付きです。3階建てですが、エレベーターが付いています。「エレベーターは要らないのではないか」と言ったら、「過疎化が進んで小学生がいなくなる可能性がある。老人ホームに転用できるように、エレベーターはどうしても必要」と答えたそうです。

 この小学校は、一山をそっくりくり抜いて平らにした土地に建てられています。平地にするだけでも3年余を費やす大工事で、完成までに5年かかったとのことです。莫大な金が投資されました。


●現地の状況を多くの下流住民にみてもらいたい

 このほか、高い山にダンプを載せるエスカレーターがつくられるなど、あちこちでムダづかいのオンパレードです。
 八ッ場ダムの総事業費は、1985年策定の基本計画では2110億円とされていますが、18年経過した現在では5000億円以上と試算されています。すでに関連工事で1300億円以上が支出されています。その負担金を下流都県が払いつづけていますが、最終的には、下流都県の総負担額は、たとえば東京都は940億円、千葉県は560億円、埼玉県は1050億円になると予測されています。
 これらの都県住民は、ムダな事業のために多額の金をむしりとられているのです。反対に、工事を請け負っているゼネコンは大儲けです。その大部分は東京に本社をおく大手企業です。

 現地の状況を多くの下流住民にみてもらいたい、というのが参加者の一致した感想でした。







水没予定地の住民の方々と話し合い








旅館「柏屋」の壁に表示された八ッ場ダム完成時の水没線。「柏屋」は川原湯温泉街の最も高い所にあります。








川原湯神社の下にある新源泉も見学








人里からかなり離れた高い山の中に移転した長野原第一小学校。








現地見学のあと、吾妻渓谷をハイキングしました。






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