千葉、群馬両県の環境団体が千葉県知事に

八ッ場ダム負担金支出の中止を要望

〜千葉県自然保護連合、八ッ場ダムを考える会など4団体〜




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 「千葉県自然保護連合」や「八ッ場(やんば)ダムを考える会」など千葉、群馬両県の4団体は2002年6月21日、「八ッ場ダムへの負担金支出中止を求める要望書」を千葉県知事へ提出しました。
 八ッ場ダムは群馬県の利根川流域吾妻川に計画されています。千葉県など関東1都4県の都市用水開発や洪水調節を目的として50年前に計画されましたが、本体工事はまだ着工されていません。今では建設の必要性がないことや、自然を大規模に破壊したり、関係自治体や住民の負担が莫大になることなどから、千葉県知事に負担金支出の中止を求めたものです。
 八ッ場ダムの総事業費は2110億円とされていますが、じっさいの総事業費は5000億円を超えるとみられています。現在までの投資額は1322億円です。千葉県は、利水や治水のために約2割(19.79%)を負担するとされており、昨年度までに約260億円を支出(負担)しています。
 要望内容は次の4点です。
  1. 八ッ場ダムは不必要と考えられるので、予算支出はしないこと。
  2. 水循環の確保がさけばれ、自治体財政が深刻な危機に陥っているなかで、ダムなどへのムダな投資はすべきでない。地下水の適正利用を図ったり、節水対策を進めてほしい。
  3. ダム計画がもちあがってから50年間、水没予定地の住民はたいへんな生活困難や精神的苦痛を強いられてきた。事業主体の国と建設を促進してきた関係都県は、住民の経済的精神的損失を補償するとともに、生活再建を支援してほしい。
  4. 過大となっている「利根川治水計画」を見直すよう、国に働きかけてほしい。


 要望書を知事室に提出した後、担当課の水政課と交渉しました。
 交渉参加者は、牛野くみ子(県自然保護連合代表)、鵜沢喜久雄(追原を歩く会代表)、飯塚忠志(群馬県自然保護団体連絡協議会代表、八ッ場ダムを考える会副代表)、北澤真理子(追原を歩く会事務局長)の各氏など10人です。
 同課に要望書の内容を説明し、つぎのように述べました。
 「八ッ場ダムの目的は関東1都4県の都市用水確保と洪水調節とされている。しかし、5都県の水需要は横ばい状態だ。千葉県をみると、水道用水は横ばいで、工業用水は余っている。また、洪水調節面についてみても、ダム計画のもととなっている利根川の治水計画は過大である。したがって、ダム建設の必要性はなくなったので、負担金の支出は中止してほしい」
 これに対し、同課は次のように回答しました。
 「治水、利水の両面でダムは必要と考えている」
 「昭和22年のカスリーン台風のときのデータをもとにして利根川の治水計画がつくられた。八ッ場ダムはその計画にもとづいたもので、洪水を防ぐために必要とされている。下流の県としては洪水はきてほしくない」
 「渇水対策でも八ッ場ダムは必要だ。八ッ場ダムが建設されれば、千葉県は毎秒2.82トン(m3)の水を利根川下流で取水できることになっている。すでに、ダム建設を前提とし、川の水量に余裕があるときに毎秒0.94トンを取水している」
 「ダムの本体工事は着手されていないが、道路整備などの関連事業は以前から進められている。そうした事業費に対する千葉県の負担割合は約2割(19.79%)と決められており、負担金を毎年払っている。平成13年度は194億円支出し、平成14年度は185億円を支出する予定だ」
 つまり、事業主体である国土交通省の言い分をそのまま述べたり、「すでに多額の負担金を支出しているので、いまさら中止できない」などというものです。
 これに対し、参加者は、実際の数値などを示して、「カスリーン台風のときと現在とでは状況がまったくちがっており、利根川の治水計画は過大である」「工業用水や工業用水の需要はすでに満たされているので、新たなダム建設は不要」などとさまざまな疑問をぶつけました。しかし、水政課は、こうした疑問にはいっさい答えられませんでした。

 県財政が破綻の危機にあるなかで、このような事業は本当に必要があるのかどうかを再検討すべきです。また、このまま負担がつづけば、県民が背負うツケは莫大なものになります。
 しかし県は、そんなことはおかまいなしに、「建設が決まっているから」とか「すでに負担金を払っているから」という理由で、多額の負担金を支出しつづけようしています。「環境派」を売り物にしている堂本知事の姿勢が問われる問題でもあります。
 そんな無責任な行政によって、すぐれた自然や、たくさんの湯治客に親しまれている温泉がつぶされ、しかも地元住民の生活がメチャクチャになるのは許せません。下流都県の関係住民も、不要なダムのために多額の負担を強いられることになります。
 そんなひどい事業をやめさせるために、今後も関係都県の市民団体などと共同行動をつづけていきます。ご支援やご協力をよろしくお願いします。



要 望 書



2002年6月21日
 千葉県知事 堂本暁子  様

千葉県自然保護連合 代表  牛野くみ子
追原を歩く会 代表  鵜沢喜久雄
八ッ場ダムを考える会 代表  樽谷  修
群馬県自然保護団体連絡協議会 代表  飯塚 忠志


八ッ場ダムへの負担金の支出中止を求める要望書

 日頃、環境保全にご尽力されていることに敬意を表します。
 さて、群馬県の利根川流域吾妻川に計画されている八ッ場ダムは、地域を犠牲にし、自然を大規模に破壊してまで建設する必要性があるのか、などについて疑問があります。
 つきましては、ダムの本体工事がまだ始まっていない現在、この計画は中止すべきと考えますので、今後、八ッ場ダムへの予算支出をしないよう強く要望します。


要  望
  1. 八ッ場ダムは不必要と考えられますので、予算支出はしないでください。
  2. 水循環の確保がさけばれ、自治体財政が深刻な危機に陥っているなかで、ダムなどへのムダな投資はすべきでありません。地下水の適正利用を図ったり、節水対策を進めてください。
  3. ダム計画がもちあがってから50年間、水没予定地の住民はたいへんな生活困難や精神的苦痛を強いられてきました。事業主体の国と建設を促進してきた関係都県は、住民の経済的精神的損失を補償するとともに、生活再建を支援してください。
  4. 過大となっている「利根川治水計画」を見直すよう、国に働きかけてください。


理  由


  1. ダムの必要性はなくなりました

       八ッ場ダムの目的は都市用水(水道用水+工業用水)の開発と洪水調節です。
       しかし、都市用水についてみると、ダムの受水を予定している関東1都4県(東京都、千葉県、埼玉県、群馬県、茨城県)の水需要は、水道用水は横ばい、工業用水は減少傾向になっています。千葉県についてみると、水道用水はほぼ横ばいで、工業用水は余っている状態です。人口の伸びが頭打ちになっており、やがて減少にむかうことなどを考えると、八ッ場ダムなどの新規のダム開発は不必要です。
       つぎに、洪水調節についても、その効果は机上の計算です。ダム予定地の渓谷は洪水調節機能をもつ「自然のダム」となっており、そこにダムをつくって果たしてどれほどの効果があるか問題です。
       また、ダム建設の根拠となっている「利根川治水計画」は過大であるといわざるをえません。この治水計画は1947年(昭和22年)のカスリーン台風の洪水にもとづいてつくられたもので、八ッ場ダムなど多くの洪水調節ダムが必要とされています。しかし、この台風における未曾有の洪水流量1万7000m3/秒(群馬県伊勢崎市の八斗島地点)は、戦時中の森林乱伐によって引き起こされたものです。1999年9月15日付けの『上毛新聞』には次のように書かれています。
       「第二次世界大戦がなかったら、カスリーン台風の被害も起こらなかった。戦中の食糧難を解消のため赤城山ろくの開墾、エネルギー源のための木材の供出などで乱伐され、森林は消えていった。そこへ大雨を降らせたカスリーン台風の来襲。保水力を失った山はその水を下流に一気に流すしかなかった。大きな石、砂を巻き込みながら押し寄せた山津波が多くの人命を奪ったのだ」
       その後は森林が成長していますので、カスリーン台風と同等の雨が降っても、洪水流量はもっと小さい値になります。じっさいにその後、1万m3/秒を超えることがないのは、この森林の状況変化をはっきりと示しています。また、カスリーン台風のときは、堤防整備が大幅に遅れていたことも、森林乱伐とともに大きな洪水被害を引き起こす原因となりました。ところが、利根川の治水計画は、流域開発などを理由に、この実績流量をさらに増やした2万2000m3/秒をベースにして策定されています。
       こうしたことから、八ッ場ダムなどの治水上の必要性は架空の洪水流量によるものといわざるをえません。
       そもそも、治水・利水のありかたが世界的に変わってきています。洪水調節の効果が不確かで、ときには洪水被害を大きくすることもあるダムに頼るよりも、上流域の森林や自然を守って豊かにしたり、遊水池で氾濫を受け止めたり、川の護岸を整備したりして川と共存しよう、という考え方です。アメリカやヨーロッパなどは、こうした考えにもとづき、ダムをつくらないで自然を守ることを大事にする方向で既設のダムを壊して自然の川の流れを回復させています。日本でも、長野県の田中康夫知事の「脱ダム宣言」をはじめ、大型ダム事業の見直しが広がっています。


  2. ダムは自然環境を大規模に破壊します

       吾妻渓谷は“関東の耶馬渓”と呼ばれるほどのすばらしい渓谷美を誇っており、関東一円の住民などに親しまれています。
       しかし、ダムが建設されれば、渓谷のかなりの部分が水没します。ダム下流部分の渓谷は残ることになりますが、ダムができると水がわずかしか流れなくなります。また、吾妻渓谷は、春から夏にかけて流水の量が増え、この増水が岸壁のゴミや草木を流し、すばらしい渓谷美を形づくってきました。ダムが建設されれば、岸壁に草木が生えたり、汚れたりするので、渓谷美はだいなしになってしまいます。
       さらに、ダム建設によって天然記念物の岩脈が水没します。環境省のレッドデータブックに記載されている数多くの動植物も絶滅します。イヌワシやオオタカなどの貴重な猛禽類にも影響が必至です。


  3. 強酸性、重金属汚染の水を飲まされることになります

       吾妻川は酸性が非常に強いので、水を中和するために1日60トンもの石灰を投入しているとのことです。しかし、それでも完全に中和されるわけではありません。川をじっさいに見れば分かるように、石は茶褐色に染まっています。そんな川をせきとめてダムをつくっても飲料水などには利用できません。
       また、吾妻川には、閉山した硫黄鉱山の排水が流れ込んでいますので、ダムが建設されれば、強酸性の重金属に汚染された水を貯め込んで濃縮し、それを下流に供給することになります。したがって、首都圏の住民は、強酸性、重金属汚染の水を飲まされることになり、知らず知らずのうちに健康を脅かされる危険性もあります。


  4. 地元住民にとってよりよい選択は、ダム建設を中止して地域振興をはかることです

       大自然に囲まれた静かな温泉として多くの湯治客に親しまれてきた川原湯温泉は、ダム建設によってすべて沈んでしまいます。このほか、川原畑地区も全部が水没、長野原地区は一部が沈むなど、水没世帯数は5地区あわせて340世帯におよびます。
       水没する住民と国土交通省との補償交渉が昨年決着し、個別移転補償がはじまっています。しかし、代替地はまったく整備されていません。代替地を希望しても、代替地がまったくできておらず、自分がどこに移転するのかもまったくわかりません。また、代替地の取得価格もいくらぐらいになるのかも不明です。結局、補償金をもらって町から出ていかざるをえない状況に追い込まれており、ダム建設に伴う生活再建は困難な状態になっています。住民の苦悩は増すばかりです。
       こうしたことを考えれば、住民にとってよりよい選択は、ダム建設を中止して地域振興をはかることだと考えます。温泉街についていえば、自然豊かな現在の場所でより多くの湯治客を呼び寄せられるようにすることです。そのために必要な費用は、ダムが必要だと言い続け、地元住民に苦難を強いてきた国と関係都県が負うべきです。


  5. ダムなどへのムダな投資はやめ、地下水の適正利用などをはかるべきです

       県内の地下水事情をみると、北総地域の一部で多少の低下傾向がみられるものの、多くの地域で地下水位が回復しているといわれています。とくに、市原市の臨海地域ではあちこちで自噴がみられ、このまま地下水の利用をやめたら大地震時に液状化の恐れも高まるとさえいわれています。したがって、地下水の適正利用をはかることが緊急な課題になっていると考えます。また、水の涵養対策や節水対策などを推進したり、農業用水の生活用水への転用などもはかるべきです。
       八ッ場ダムに投じられる事業費は巨額です。関連事業費の総額は5000億円を超えるとみられ、その負担は関係住民に重くのしかかります。
       水循環の確保がさけばれ、自治体財政が深刻な危機に陥っているなかで、ダムなどへのムダな投資はすべきでありません。








知事室に要望書を提出したあと、担当課(水政課)と交渉








「追原(おっぱら)を歩く会」のみなさんがつくったタペストリー。









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