ダム建設は中止し、地下水の適正利用を

〜「八ッ場ダム問題を考える in 千葉」〜




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 2002年3月24日、シンポジウム「首都圏にダムはもう要らない」(八ッ場ダム問題を考える in 千葉)が千葉市文化センターで開かれました。主催は「首都圏のダム問題を考える市民と議員の会」で、参加者は約100人でした。




「八ッ場ダム問題を考える in 千葉」の概要

●日 時:2002年3月24日(土) 13:30〜18:00 ●会 場:千葉市文化センター ●内 容:   1.水没予定地「川原湯温泉」からの緊急報告     ─ダム反対運動の経過と現状〜映像を通して─       ……………………………………………………川原湯館主 竹田博栄   2.八ッ場ダムの問題はこんなにある     ─必要性が失われ、欠陥がある八ッ場ダム─       ……首都圏のダム問題を考える市民と議員の会事務局  嶋津暉之   3.千葉県における今後の水需給     ─水が余りはじめた千葉県─       …………………………………………宇都宮大学名誉教授 藤原 信   4.佐倉市と周辺自治体に八ッ場ダムがもたらすもの     ─美味しい地下水が河川水へ、水道料金の値上がり─       …………………………………さくら・市民ネットワーク 中村春子   5.千葉県は地下水をもっと利用できる     ─千葉の地下水についての科学的解説─       …………………………………………………茨城大学教授 楡井 久  ●主 催:首都圏のダム問題を考える市民と議員の会



■住民は苦悩と苦痛にあえいでいる

 川原湯温泉で旅館「川原湯館」を経営する竹田博栄さんはまず、八ッ場ダム反対運動の経過をまとめたビデオ映像を見せてくれました。
 ダム計画がもちあがったは、今からちょうど50年前の1952年です。建設省が突然発表したこの計画に、地元住民は怒り、猛烈な反対運動をつづけました。1974年には、地元の長野原町長選挙で反対派が当選するまでに運動は高揚。しかし、議会での賛成派とのあつれきや、県・国による締めつけ強化により、町長は賛成にまわりました。そして昨年、とうとう補償交渉に応じました。
 しかし、代替地がまったく整備されていないために、そこへの移転ができません。住民の多くは現地再建をつよく望んでいますが、代替地がどんなところかさっぱりわかりません。それで、住民はやむなく、住み慣れた町から出ていかざるをえない状況に追いこまれているそうです。竹田さんは、「住民はどうしたらよいか、思案にくれている」「苦悩と苦痛にあえいでいる」などと語りました。


■八ッ場ダムは必要ない

 「首都圏のダム問題を考える市民と議員の会」事務局の嶋津暉之さんは、ダム建設の必要性がまったくないことを明らかにしました。
 建設目的の一つとなっている都市用水の確保については、ダムの受水を予定している首都圏1都4県の水需要の現状を話しました。1都4県の水需要をみると、水道用水は横ばい、工業用水は減少傾向にあることが、データではっきりあらわれています。
 嶋津さんはその理由として、(1)節水意識の向上などによって一人あたりの使用水量が減少、(2)人口の伸びも頭打ち、(3)水洗便所の普及率がすでに93%になっていて近いうちにほぼ100%になることから、水需要の増加要因がなくなった――の3点をあげました。そして、こうした実態から八ッ場ダムなどの新規開発はまったく不必要と強調しました。
 つぎに、ダム建設のもう一つの目的となっている洪水調節についても、それは机上の話であって、実際の洪水データにあてはめてみると、八ッ場ダムは利根川の洪水調節にはほとんど役にたたないことを話しました。
 また、利根川の治水計画は過大であるとして、次のように述べました。
 「利根川の治水計画は1947年のカスリーン台風の洪水にもとづいてつくられ、八ッ場ダムなど多くの洪水調節ダムが必要とされている。しかし、この台風における未曾有(みぞう)の洪水流量1万7000m3/秒(群馬県伊勢崎市の八斗島地点)は、戦時中の食糧難解消のための赤城山麓の開墾と、エネルギー源確保のための森林伐採によって引き起こされたものである。その後は森林が成長しているので、カスリーン台風と同等の雨が降っても、洪水流量はもっと小さい値になる。その後、1万m3/秒を超えることがないのは、この森林の状況変化を如実に示している。また、カスリーン台風のとき、堤防整備が大幅に遅れていたことも、森林乱伐とともに大きな洪水被害を引き起こす原因となった。ところが、利根川の治水計画は、流域開発などを理由に、この実績流量をさらに増やした2万2000m3/秒をベースにして策定されている。以上から、八ッ場ダムなどの治水上の必要性は架空の洪水流量によるものである」
 このほか、八ッ場ダムは、夏期には30メートルも貯水位が低下し、さらに、大量の中和生成物が流入するために水が白濁したり、藻類の異常増殖で赤色や緑色になるなど、異様な色を呈するために、とても観光資源にはならないこと。堆砂によって数十年でダムの機能が半減すること──などを話しました。


■節水対策などが必要であって、ムダな投資はやめるべき

 宇都宮大学名誉教授の藤原信さんは、千葉県の水道事業の概要や、水道水源、水需要、県営水道の経営状況、「ちば21新水道計画」などについてくわしく話し、「最近の千葉県の年間取水量は減っている。地下水をもっと有効に使えば、ダム建設への投資はまったく必要ない」と述べました。
 また、千葉県が「ちば21新水道計画」で、人口増をみこんで約1兆円の投資を予定していることについて、「知恵をだしあって、節水対策をすすめたりすることが大切であって、ムダな投資はすべきでない」と批判しました。


■ダム建設は関連自治体の財政を圧迫

 「さくら・市民ネットワーク」の中村春子さんは、佐倉市の水道事業の現状や計画、水道料金などについて話しました。
 同市の給水人口や給水量は横ばいです。2000年度(平成12年度)は、供給単価は164.31円なのに対して給水原価は190.63円になっています。つまり、水道料金よりもコスト(原価)のほうが高く、水道事業が市の財政を圧迫しています。八ッ場ダム事業に要する市の負担額は、現在計画で約8億円です。
 それで「八ッ場ダムからの受水は必要ない。ますます財政を圧迫することになるので、受水はやめてほしい」と市議会で言っても、市当局は「それはできない」の一点張りだそうです。
 中村さんは、「今後は、人口増も水需要も横ばいになる。水の涵養に努め、節水努力をしながら地下水を大切に使っていくことが何より大事ではないか。そのためにも、県条例の地下水採取規制を見直すことが必要」と述べました。


■地下水の適正利用をすすめるべき

 千葉県の地質環境研究室長を長く務められ、現在は茨城大学の教授をされている楡井久さんは、地下水を適正に利用することの大切さを訴えました。
 最初に、長年にわたる研究・調査結果から、“地盤沈下につながるので地下水揚水を規制すべき”の説はまちがいであることをデータを示して明らかにしました。
 千葉県の地盤沈下に大きく関与したのは天然ガスを溶存する化石海水の揚水であること。地下水揚水も、臨海大工場などのように許容揚水量を無視してくみあげた一部の地域では、地盤沈下につながった。しかし、どの地域でも地盤沈下の原因は地下水揚水にあるという非科学的な説がまかりとおり、地下水揚水の規制が強められた。こうした非科学的な規制を強める一方で、利根川上流や県内河川でダム建設がおこなわれ、水道・工業用水道の巨大なパイプラインの敷設がどんどん進められた──などです。
 そして、楡井さんはつぎのように述べました。
 「たとえば市原市では近年、工場の地下水揚水が大幅に減ったため、地下水位がもとにもどっている。自噴もみられる。そのため、住宅地では、水が噴出して被害がでているところもある。埋め立て地では、大地震時に液状化の恐れさえでている。つまり、地下水は適度にくみつづけないと環境を守れないということだ」
 「こうした調査研究や数値シミュレーションにもとづき、千葉県に対して地下水適正利用の必要性を何度も提案したが、採用されなかった。千葉県は、多額の金をつぎこんで地下水の先進的な調査研究をすすめながら、他方ではその成果をまったく利用しようとせずに、ダム建設などを推進するために地下水の揚水規制を強めた。つまり、千葉県は二重県政だった」
 「渇水対策も地下水の利用で十分まにあう。地下水を涵養しながら利用していくことが大事で、それは私たち科学者にまかせてもらえれば十分に可能である」
 最後に、「いま強く求められているのは、地質汚染を防止しながら、ルールをつくって地下水の適正利用をすすめること。そして、水循環を大切さを認識し、雨水を地下にかえすことである」と述べました。














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