八ッ場ダム関連の石灰液注入現場を見学


中山敏則



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 2003年7月6日、利根川水系吾妻川に流れ込む川(一級河川「湯川」)の石灰液注入現場を見学しました。この注入は、草津温泉街(群馬県)の一角でおこなわれています。日帰り入浴施設で大人気の「大滝乃湯」のすぐそばです。
 現場をみて、ギョッとしました。草津中和工場で石灰と粉と水が混ぜ合わされ、それが一日中、湯川に放流(注入)されています。工場に投入される石灰は1日60トンとのことです。大量の石灰乳液を注入された湯川の水は白く濁っています。川の石はどれも赤茶色に染まっています。八ッ場(やんば)ダム建設によって、こんな水を飲まされることになるのかと思ったらゾッとしました。


■強酸性水の中和を目的とし、中和工場と品木ダムを建設

 この石灰乳液注入は、八ッ場ダムの建設計画にともなっておこなわれているものです。
 建設省は1952年、群馬県吾妻郡長野原町を流れる吾妻(あがつま)川に八ッ場ダムを建設する計画を発表しました。突然の発表に水没する4地区の住民は猛烈に怒り、激しい反対運動を進めました。計画は一時中断しました。
 中断になったのは、吾妻川の水が強酸性であり、ダムのコンクリートの腐食を早め、飲料水に適さないということがわかったからです。草津温泉からの水が湯川を通して流れ込むため、吾妻川の水は強酸性です。魚も棲めません。そのため、吾妻川は「死んだ川」と呼ばれていました〈注〉

  〈注〉草津温泉は、自然湧出泉としては日本一の湯量を誇ります。ここの湯は、硫黄分が強く
    強酸性でも有名です。1円玉を1週間つけておくと、溶けて跡形もなくなってしまうとい
    われています。

 そこで建設省は、八ッ場ダム計画を中断して草津中和工場を設置し、大量の石灰液を湯川に注入しました。石灰液を注入された湯川の水を溜め込むために品木ダムも建設しました。
 この品木ダムが完成すると、建設省は1965年、再び八ッ場ダム計画をもちだし、強引に押し進めようとしました。住民は絶対反対の立場から激しい闘いをくりひろげました。しかし、建設省、県、政治家などが一体となった“兵糧攻め”のまえに苦闘をしいられました。世代交代もあって、ついに反対運動は収束し、一昨年(2001年)6月、水没する住民と国土交通省の間で補償基準が妥結しました。その後、個別移転補償が進められています。


■八ッ場ダムは強酸性の毒水を貯めることになる
 〜中和は不完全だし、硫黄鉱山の廃水も流入〜

 しかし、このダム建設は、今となってはまったく必要ないといわれています。首都圏の水需給は、水道用水は横ばいで、工業用水は余っているからです。治水対策についてみても、ダム計画の元となっている利根川治水計画は過大なもので、国交省(元建設省)自身がその見直しを進めています。  こうした必要性のほかに、八ッ場ダム計画はさまざまな問題点をかかえています。
 その一つは水質です。石灰液注入や品木ダムの建設によって強酸性の水は「ほぼ中和されている」と国交省は宣伝していますが、これは事実と違うようです。中和は完全にはおこなわれておらず、吾妻川のダム建設予定地より上流は今も強酸性です。じっさいに、川の石は今も赤茶色に染まっています。
 品木ダムも堆積が急速に進んでいます。品木ダムが寿命になったら、八ッ場ダムがその役割を担うと予想されています。
 さらに、吾妻川には、強酸性の水のほかに、閉山した硫黄鉱山の廃水も流れ込んでいます。このため、ダムが建設されれば、強酸性で重金属に汚染された水が貯め込まれて濃縮されます。私たち首都圏住民はそんな水を飲まされることになるのです。


■八ッ場ダム計画は見直しを

 八ッ場ダムの本体工事はまだ着工されていません。前述のように、水没住民と国交省の間で補償基準が妥結しました。しかしその後、国交省が強気にでて、地元住民との約束をつぎつぎと破っているそうです。このため、地元では不満の声がかなりでているそうです。下流都県の住民などが「八ッ場ダムはいらない」の声を強め、運動をひろげれば、八ッ場ダム計画を見直しさせたり中止させることは十分に可能です。
 千葉県自然保護連合は9月6、7日、さまざまな運動を進めている「八ッ場ダムを考える会」や群馬県自然保護団体連絡協議会、全国自然保護連合、日本消費者連盟などと共催で「八ッ場ダムを考える現地交流会」を水没予定地の川原湯温泉で開きます。地元住民にも参加していただく予定です。

(2003年7月)














草津中和工場。護岸の手前が一級河川「湯川」です。「白い水の投入」と書かれた立て看板には、「この工場では昼夜休むことなく、この酸性の川『湯川』に対して石灰による中和をおこなっています」などと記されています。





湯川への石灰乳液注入箇所。一日中、管から大量の石灰液が放流されています。手前が湯川の上流です。





石灰乳液を注入された湯川の写真。水は白く濁っています。石はどれも赤茶色に染まっています。





同じく、石灰乳液を注入された湯川。







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