八ッ場ダム開発と堂本暁子知事


日本消費者連盟 富山洋子



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■八ッ場ダムへの負担金支出差し止めを求めて住民訴訟

 2004年11月29日、千葉県民53人が堂本暁子知事らを相手取り、八ッ場ダムに県が負担金を支出するのは違法だとして「県の負担金の支出差し止めなどを求める」訴訟を、千葉地裁に提起した。
 この訴訟に先駆けて、9月10日、1都5県の住民合わせて5293人が、「八ッ場ダム建設事業に対する負担金の支出差し止め等を求める住民監査請求」を各自治体の監査委員に提出しており、県内では、「八ッ場ダムをストップさせる千葉の会」(中村春子代表)の呼びかけで約1300人が請求、私もその一人となった。
 この監査請求は、治水に関する負担金支出差し止めについては、「知事の裁量権が及ばない」として却下、利水に関する負担金差し止めなどについては、「水需要の予測は合理性がある」などとして棄却された。私も、これを不服として、前述の訴訟の原告となったが、この訴訟は、堂本知事の県政を問う大きな足がかりになると捉えている。


■堂本知事の選挙公約は雲散霧消

 堂本知事は、2001年県知事に就任、三番瀬の埋め立てを中止して環境派知事として脚光を浴びた。しかし、その後の変節ぶりは、知る人ぞ知るである。しかし、国会議員であった時からの動き方を検証してみれば、さもありなんと思える節があるが、少なくとも、沼田前知事よりましではないかとの判断はあった。
 さて、堂本氏は、知事選に立候補した時、「特に、環境の視点から公共事業はもちろんのこと、あらゆる政策を見直し、女性の感性で、保育や福祉政策を充実したい、と考えています。東京集権から千葉主権への大変革です」と表明した。知事選の最中は、常磐新線沿線開発について、「鉄道が通るから大規模開発をするというバブル的発想は根本的に改めることが時代の要請です。鉄道と一体型の大規模開発は凍結し、環境、財政、農業、まちのあり方などの観点から県民と情報を共有して広く議論を行い、勇気を持って計画の根本的な見直しをしていくべきです」と文書公約した。しかし、そういう公約は雲散霧消である。
 その他の施策についても枚挙に暇がないが、私は、その訴訟の原告の一人になっている八ッ場ダムについて述べたいと思う。


■八ッ場ダムは、治水・利水両面で不要に

 八ッ場ダムは、1952年、治水と首都圏の利水を目的として計画(群馬県長野原町利根川の支流、吾妻川の中流部に建設)が浮上した。その後、吾妻川の酸性問題で一時立ち消えになったものの、1964年に酸性中和工場が完成、ダム問題が再燃、1965年には、水没予定4地区で、反対期成同盟が発足、ダム反対運動が展開された。
 私が八ッ場ダムの問題点を知るようになったのは、1970年代、東京の水を考える会等を通じてである。
 当時は、東京の水不足が喧伝されていたが、ダム建設地域での「10年殺し」というやり方も聞いていた。 いずれ水底に沈むのだからと、地域の基盤整備や活性化を封じて、地域がじわじわ疲弊するのを待ってダム建設計画を進めるのだという。
 私は、その頃、他の地域を犠牲にしなければ成り立たない都市構造、そしてそれに依拠している私たちの暮らしを問わねばならぬとは受け止め、生活者として節水に務める努力はしたが、とりわけ反対の取り組みをしていたわけではない。
 長野原町においては、八ッ場ダム計画が浮上して以来、10年どころか50年にわたる地元の方々に強いられた精神的、身体的苦痛を共有できなかったことに忸怩(じくじ)たる思いである。
 1980年代には、水需要の増大が想定されていたが、1990年以降は、都市用水(水道用水+工業用水)の需要は、ほぼ横ばいであり、今や、八ッ場ダムは、治水、利水両面から考えて不要なものである。そして、水需要についていえば、たとえ水不足が想定されていたとしても、まず、社会・産業・暮らしにおける浪費構造を見直すことが先決であると考える。


■ヒトを含むいのちを大切にしたいからダムに反対

 2003年9月、私は、誠に遅蒔(おそま)きであったが、八ッ場ダムの水底に沈められようとしている川原湯温泉をはじめて訪れた。この訪問では、現地での全国自然保護連合の総会とあわせて「八ッ場ダムを考える現場交流会」が開かれ、地元の「国土交通省に約束を守らせる会」(守らせる会)の役員4人の方々等を交えて意見交換した。
 守らせる会は、02年3月結成された。01年6月住民と国交省の間で補償基準が妥結し個別に交渉が進められている現状では、表立って反対が言えない状況である。補償基準が妥結すると国交省は代替地をなかなか作らないなど、約束を次々と破っているというが、守らせる会は、約束を守らせるために、国交省や県、町との交渉を続けている。
 この交流会での「自然保護団体は、自然や動物を守るためにダムに反対しているのではないか」という「守らせる会」の方の発言に衝撃を受けた私は、次のように応えた。

 今日、吾妻渓谷などの美しい自然に接し、八ッ場ダム反対の意を一層強くしているが、それは、単に周辺の自然を守りたいためだけではない。全国自然保護連合総会で採択された「八ッ場ダムの中止を求める決議」にあるように、さまざまな理由からであるが、なによりもヒトを含むいのちを大切にしたいからである。
 ヒトは環境に生かされている生き物のひとつであり、八ッ場ダムの水底に沈められようとしている地域でもまた、その環境に包まれて多くのいのちが息づいている。その環境を拠り所にした人々の生業(なりわい)・暮らしがあり、いのちを未来につないでいる。
 ダム建設は、「公共」の名の下に莫大な金をつぎ込み、環境、いのち、生業・暮らしを破壊するものであり、私は、その建設に税金を拠出している千葉県の住民としても反対である。道路や上水道などインフラの整備が遅れているこの地域では、ダム建設されれば、それらの整備が進むのではないかとの意見があるが、そこに暮らす人々が必要としている生活・社会基盤は、ダム建設に関わりなく整備されるべきである。一方で、ダムを始めとする不必要なものはつくるべきではないが、地域の人々が暮らしの中で必要としているものを整備していくのが政治の課題であり、それがなおざりにされていることこそ問題ではないか。
 ダム予定地とされていることが過疎化を促している要因のひとつであると考えるが、ダムが建設されてしまえば過疎化は一層進み、ダムと一体となって整備されたインフラは、無用の長物になってしまうだろう。ダムに莫大な投資をする代わりに地域の活性化のための投資をさせていくことが大切である。ダムと一体となった地域の活性化はあり得ない。
 今後も腹を割った意見交換して、更に意志疎通していき、都市住民として八ッ場ダム反対の意思表示をしていきたいと思う。

 私の発言の大意は以上のようなものであったが、翌日、「守らせる会」の方から、取れたてを茹(ゆ)でたトウモロコシやリンゴの差し入れがあり、ダム建設地域の人々と、その恩恵を受けるとされている人々の間で、意思疎通を図ることの大切さを改めて知った。


■現地では無駄な投資が行われている

 現地視察では、1本10億円もするという工事用の2本の橋(いずれダムのそこに沈むもの)や、ほとんど必要とされないであろう広い歩道を両側に確保した30億円もする山の中の2本の橋などのように不必要なものが建設されている状況をつぶさに見た。工事用の立派な道路も造られている。あちこちの沢には、砂防ダムが設けられ、清水が止まり、ワサビの栽培に支障を来している例もある。
 かって県内最古の木造校舎であった長野原第一小学校は、02年9月に人里離れた山の上に移転した。屋内プールつき、エレベーターつきの小学校は、一山そっくり繰り抜いて平らにした人里離れた所に建っており、莫大な費用が投じられた。生徒はスクールバスで通っているが、もっと下の方の既存集落の一角に建てれば、生徒の通学も便利であるし、整地のための金もかからなかったのだ。
 ちなみに、小学校には不必要と思われるエレベーターは、老人福祉用への転用を予想してのことだという。この他、高所にダンプカーを引き上げるエスカレーターが設置されるなどの信じられない無駄な投資が行われている。
 このような現状を、堂本知事はどうとらえているのであろうか。


■「ビオトープ」や「エコスタック」を見て、人間の驕りを痛感

 04年5月、私は、エコツアー「新緑の吾妻渓谷と川原湯温泉」に参加し、再び八ッ場ダムを訪れた。この折には、品木ダム、中和工場なども見学し、草津に抜けた。宿泊した山木館では、ムササビの飛来も目の当たりにした。  前回訪れた時より、川原湯周辺の人家が減ってきているのには、切ない想いが募ってきた。温泉のハシゴでたっぷりとした湯量に身を沈めていると、本体工事は決して許してはならないと大きな声で叫びたい衝動にかられた。  長野原第一小学校の傍らには、石を組んだ「ビオトープ」が新たにつくられていた。ホタルを呼び寄せるためだという、沢をつぶし代わりに人工の流れをとの発想に、私は、人間の驕(おご)りを痛感する。当日は、バスの窓越しに「エコスタック」なるものも見た。木材を利用して作られた小動物たちの隠れ家(?)だという。小動物たちの安住の場を奪ったのは誰だと言いたい。  強酸性の吾妻川の水を中和させるために草津に中和工場が作られ、湯川に大量の石灰乳液が注入されている。中和生成物を沈殿させるための品木ダムは、年々、中和生成物を中心とする沈殿物で埋まってきており、水はどんよりと濁って生気がない。近い将来満杯になることが予想されるが、その際白濁水は八ッ場ダムに流れ込む。  堂本知事は品木ダムを見ていないのではないかとの疑問があったが、県知事は石原国土交通大臣(当時)と共にこのダムを視察しているという説明に怒りを禁じえなかった。県知事は、こんな水を、私たち県民に飲めというのだろうか。

■水需給やダムの実態を多くの県民に知らせていくこと

 八ッ場ダム建設事業は、治水、利水の両面から全く必要のない、むしろ災害を誘発する危険性があり、情緒あふれる川原湯温泉を水没させ、吾妻渓谷の美観を損ね、そして何よりもそこに息づいている生き物たちを追いやり、いのちを奪い、そこに築いてきた人々の営みを破壊するものである。  その建設事業に国交省の要求どおり千葉県の負担金を183億円から403億円に倍増させる議案を議会に提出し、自民党などの賛成多数で成立させた堂本知事の政治姿勢を、知事選を前にした今こそ、鋭く追及していきたい。あわせて、千葉の水需給や八ッ場ダムの実態をより多くの県民に知らせていくことが大切ではないだろいうか。

(2005年2月)





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