大多喜ダム建設中止を千葉県が正式決定

〜水需要低迷が理由〜




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 千葉県は(2011年)3月4日、大多喜(おおたき)ダムの中止を正式に決定しました。理由は、人口減少や少子高齢化により水需要が低迷し、新たな水源開発の必要性がなくなったからです。治水面も、再評価により、河川改修のほうが同じ機能でコストを75億円減らせるとする結果が出ました。
    《千葉県は4日、南房総広域水道企業団の撤退で事業を凍結していた大多喜ダム(大多喜町西部田)の建設中止を正式決定したと発表した。
     県河川整備課によると、同ダム事業は治水と利水を目的として1991年にスタート。総事業費145億円の計画のうち、これまでに67億3千万円を費やし、用地買収は計画比94%の52ヘクタール、道路付け替え工事も58%の2.2キロまで進んでいた。事業費の半分は国が負担、残りの4分の1を同企業団が、4分の3を県が拠出していた。
     安房・夷隅地区の人口増などを見込んだ新たな水源の確保という当初目的に反し、水需要が低迷したことなどから2007年5月に同企業団が事業撤退を決定。ダム本体工事は未着手のまま、県は08年3月に事業中止の方針を示していた。》 (『千葉日報』2011年3月5日)

    《用地買収が難航したのに加え、同企業団は地域の少子高齢化や市町村合併といった社会情勢の変化により、新たな水源は不要と判断。07年5月に事業からの撤退を決めた。
     県は治水中心のダムに転換するための再評価を実施したが、ダムをつくるより川幅を広げる改修のほうが、同じ機能でコストを75億円減らせるとする結果が出た。県は08年3月、識者や地元自治体、住民でつくる「夷隅川流域委員会」にダム事業中止の方針を示していた。
     その後、県は約560人の地権者との協議を重ねた。「何のための事業協力だったのか」などとの不満が聞かれたというが、昨年11月に地権者らでつくる「建設対策委員会」と中止について合意。パブリックコメントを経て中止決定に至った。》(『朝日新聞』千葉版、同)
 県は大多喜ダム建設事務所を3月末で廃止です。


◆地元住民は中止発表に猛反発

 大多喜ダムは、千葉県が国の補助金を受け、事業主体となって進める「補助ダム」です。
 県は同ダムの建設中止を2008年3月に発表しました。ところが、地元住民は「中止には絶対反対だ!」と猛反発です。
 反発の理由はこうです。
     「地元はダム賛成派とダム反対派に別れ、長い間、争ってきた。苦労をつづけ、ようやく賛成でまとまった。そうしたらダムを中止するという。われわれになんの相談もなく、だ。中止を一方的に表明するとは許せない」
 大多喜ダム建設事業は、これまで約34億円の国庫補助金が投入されています。河川流域委員会(夷隅川流域委員会)で中止が了承されないと、国庫補助金を返還しなければなりません。しかし、委員会に加わっている地元住民代表が反発したため、委員会を開けない状態が続きました。

 県は約3年間、地元住民に対する説得を続けました。そして、ようやく地元の了解を得て、ダム建設の正式中止にこぎつけたのです。


◆八ッ場ダムも必要ない

 こうした経過は八ッ場ダムとよく似ています。利水・治水の両面で必要性がなくなったこと、そして地元が中止表明に反発したこと、です。

 ある土木技術者はこう話します。
     「大多喜ダムと八ッ場ダムがよく似ているというのは、そのとおりだ。大多喜ダムも、地元にとっては何のメリットもなかった。そのため、はじめの頃は反対する人がけっこういた。地権者や地元住民の間で賛成派と反対派が仲たがいをしたり、もめたりした。何年かたつうちに、ほとんどの人が賛成するようになった」

     「そうしたら2008年3月、“ダムの必要性が薄れたので中止する”と県が突然、発表した。そこで、地元住民がかんかんになって怒った。“ダムはどうしても必要”と県が言うので、反対の人たちとやりあったり、ときにはケンカをしたりして県に協力してきた。それなのに、今になって何だ! というわけだ」

     「八ッ場ダムも、千葉県にとってはまったく必要ない。水需給をみると、供給が需要をかなり上回っている。今後は人口が減りつづけるので、水需要は減る一方だ」


◆堤防強化が急務

     「治水面もみても、いま急いでやるべきは利根川や荒川などの破堤を防ぐことだ。(2010年)9月1日(防災の日)にNHKがスペシャル番組『首都水没』で放送したように、利根川や荒川の堤防は半分以上の区間で決壊の恐れのあることが判明している。国が公表した“首都圏水没”の報告書によれば、荒川や利根川の堤防が決壊して大規模水害が東京を襲ったら、最悪の場合は死者6300人、孤立者110万人としている」

     「じっさいに、利根川などの堤防は非常にもろい。土砂を盛り上げただけのものがほとんどなので、越水だけでなく、流れによって洗掘されたり、水が堤防の中に染み込んだりすることよって破堤しやすい」

     「さらに、大地震の際は液状化によって壊れやすい。じっさいに、今回の東日本大震災では、利根川の堤防もあちこちで破損した。首都圏の洪水防御上の最重要堤防と位置づけられる埼玉県幸手市の江戸川右岸の堤防も崩れた。とりあえず応急復旧し、梅雨までに緊急復旧することになっている」

     「利根川などの堤防強化がなかなか進まないのは、八ッ場ダムなどの巨大ダムに莫大なカネが投入され、堤防強化にカネが回らないからだ。堤防強化といっても、莫大なカネを投入して『スーパー堤防』につくりかえるということではない」


◆八ッ場ダムを中止しないワケ

     「八ッ場ダムも、大多喜ダムと同じように不要である。本音をいえば、千葉県は八ッ場ダムから撤退したいところだ。しかし、これまでのいきさつがある。さらに八ッ場ダムは国交省が“国策”として推進しているので、逆らえない」

     「国交省も、八ッ場ダムの必要性が薄いことは認めているはずだ。しかし、政治がからんだり、国交省官僚の天下りとか利権などがからんでいるので、工事だけは進めたいのではないか。本当に必要なら、とっくに完成しているはずだ」
 以上です。








大多喜ダムの完成予想図



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