経済効果予測は信用するな!
〜とくに銀行系シンクタンクはヒドイ〜
中山敏則
千葉国体と障害者スポーツ大会が本県にもたらす経済効果は322億円──。そういうバラ色の予測を「ちばぎん総合研究所」が(2010年)9月に発表しました。
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《千葉県は1日、第65回国民体育大会「ゆめ半島千葉国体」と第10回全国障害者スポーツ大会「ゆめ半島千葉大会」が本県にもたらす経済波及効果は322億円に達し、新たに2237の雇用が創出されるという推計結果を発表した。
大会局が民間シンクタンクのちばぎん総合研究所に調査委託し推計した。それによると、国体開催による特需(需要増加額)は、直接投資額121億円(施設整備費45億円と大会運営費76億円)、参加者などの消費額125億円を合わせた247億円になるとした。》(『千葉日報』2010年9月2日)
■ちばぎん総研の推測結果はいつも過大
しかし、ちばぎん総研が発表する経済効果の推測結果はいつも過大すぎて、当たったことがありません。
千葉国体についても、新聞がこう疑問を呈しています。
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《競技会場から離れた商店街などで選手らの姿はほとんど見られず、こうした地域にどれだけの熱気や経済効果があったかは未知数だ。》(『東京新聞』千葉版、2010年10月6日)
エコノミストの門倉貴史氏も、自著『統計数字を疑う』(光文社新書)で、シンクタンクの経済効果予測は信用するな! と述べています。
《門倉貴史著『統計数字を疑う』(光文社新書)より》
*薄れるシンクタンクの存在意義
現在、日本にはシンクタンクと呼ばれる専門的な調査機関が約300社存在する。かなりの数といえるだろう。
筆者は、シンクタンクの存在意義は、様々な経済事象・社会事象を客観的・中立的な立場にたって的確に分析したうえ、世の中に貢献するような政策提言を行うことだと考えている。
しかし非常に残念なことに、最近のシンクタンクがまとめるレポートをみると、政策提言の含まれたしっかりとした調査レポートの数が減る一方、「○○の経済効果」など、いったいこれのどこが世の中に貢献するのだろうと思ってしまうような、軽い内容の調査レポートばかりが増えてきている。
もちろん、しっかりとしたレポートを出しているシンクタンクもあるが、そうしたシンクタンクは公益法人タイプに限られる。営利法人タイプのシンクタンクでは、政策提言的なレポートに比べて、軽い内容のレポートを出す割合が増えていることは間違いのない事実だ。
なぜ、このようなことになってきたのだろうか。一番大きな要因は、日本のシンクタンクが寄付金など独自の財源を持っていないということだ。
シンクタンクのなかで、マクロ経済の調査や政策提言などを行う部署は調査部であることが多いが、調査部は直接収益を生み出すことができないため、シンクタンク全体のなかではどうしてもコストセンターになってしまう。
利益を追求しなければならない営利法人タイプのシンクタンクでは、官公庁などからの受託を中心としたコンサルティングやシステム開発など、利益を稼ぎ出せるプロフィットセンターに重点を置かざるをえないというのが実情である。
では、普段から肩身の狭い思いをしている調査部が、会社の利益に少しでも資するためには、どうすればよいか。
ここで、筆者の知るあるシンクタンクの調査部の事例を取り上げてみよう。以下の話は実話である。
このシンクタンクは大手金融機関の関連会社という位置づけになっている。そして、金融機関本体から包括受託というかたちで、多額の財源を受け取って調査業務を行っている。
金融機関はなぜコストセンターの調査部に包括受託を出すのか。それは、金融機関本体がこのシンクタンクの調査部を「広告塔」として位置づけているからにほかならない。
「わざわざ厳しい予算を割いて、調査部に包括受託を出しているのだから、できるだけマスコミにたくさん名前を出してくださいね」と考えているのだ。
というのも、マスコミに親会社の名前を冠した調査レポートが取り上げられれば、広告宣伝費を使うことなく、親会社のブランド認知度を高めることができるからだ。
その結果、このシンクタンクの調査部にとっては、マスコミに出ることが業務の最優先課題となる。上司は常に、マスコミにたくさん出るよう、部下に指示する。
さて、手っ取り早くマスコミに出るためには、具体的にどのような調査業務を行えばよいか。当然、レポートの質は犠牲にしても、情報の受け手やマスコミの関心をひくような、オモシロ・ネタを提供すればよいということになる。
ただし、マイナスの経済効果は、世の中のウケがよくないのであまり出さない。プラスの経済効果ばかり大量生産するので、1年間に出したレポートの経済効果をすべて足し合わせると、なぜかその年の経済成長率を大きく上回ってしまう結果となる。
いろいろな経済効果だけで、日本経済の成長した分、というよりそれをはるかに上回る経済効果の金額が発生してしまうというおかしな事態が起きる(その事実だけでも、いかにシンクタンクの出す経済効果のレポートが信用できないかが分かる)。
*淘汰されるシンクタンクを見分けるには?
他の調査機関よりも多く自社の経済レポートをマスコミに取り上げてもらうために、積極的に接待を行うこともある。ゴルフや飲み会など接待のためのお金は潤沢だ。
そして、ライバルのシンクタンクを自分たちで勝手に設定して、上司が「えー、集計の結果、先月はA社(ライバル会社)が新聞に○件、テレビに×件、雑誌に△件登場していた。
一方、うちのほうは、新聞に○件、テレビに×件、雑誌に△件の登場であった。みんながんばってくれていると思うが、先月はテレビの件数でうちがA社に負けているから、今月はテレビにもっと力を入れるようにしてもらいたい!」といった檄を飛ばすのである。
思わず、「そんなことをちまちま集計している暇があったら、調査レポートの1本や2本でも書いてくれ」って心のなかでツッコミを入れてしまう。
毎日がこんな調子だと、普通の神経を持った人なら、レポートを書く気力も失せてしまうだろう。
また、マスコミに出ることを最優先するために、研究員の年俸についても調査レポートの質はほとんど問わず、マスコミにどれだけ出たかによって決定する。マスコミに出た件数は明確な数字となって表れるため、人事評価も客観的に行うことができるというわけだ。
このようなシステムのもとでは、個々の研究員には、できるだけオモシロ・ネタで調査業務を行おうという強いインセンティブが働く。
その結果、レポートの質はどんどん低下して、あまり出す意味のないレポートばかりが蓄積されていく。
もちろん、他の調査機関が出していないようなオリジナルのレポートを出すことの意義は大きいが、内容のしっかりしたユニークなレポートと、ただのオモシロ・レポートとでは天と地ほどの差がある。
さらに、マスコミに出た件数で自分の評価・給与が決まってしまうわけであるから、研究員同士でマスコミの囲い込み争いが起きる。
自分が努力して知り合いになったマスコミ関係者は、他の人にはできるだけ紹介したくないから、知り合いのマスコミ関係者から自分の専門外のことを聞かれても、その業務を専門にしている同僚をあえて紹介せずに、自分で適当に答えてしまう。
こうした方針で調査業務を続けていくシンクタンクは、短期的にはうまくやっていけるかもしれないが、いずれはその化けの皮がはがされて、世の中の人々の信任を失い、市場から淘汰されていく可能性が高い。
読者のみなさんが、世に乱立するシンクタンクの真価を見極めるにあたって、ひとつアドバイスをさせていただくと、とりあえず「○○の経済効果」といったオモシロ・ネタを中心にレポートを出しているシンクタンクは、あまり信用しないほうがいい。
以上です。
「○○の経済効果」といったオモシロ・ネタを中心にレポートを出しているシンクタンクは、あまり信用しないほうがいい──。これはちばぎん総研にもそっくりあてはまる指摘だと思います。
(2010年10月)
★関連ページ
- 銀行シンクタンクの予測は信用できない〜いつも過大予測(中山敏則、2010/5)
- ちばぎん総研報告書の問題点(4) 鬼泪山国有林山砂採取促進の裏側く(中山敏則、2010/1)
- ちばぎん総研報告書の問題点(3) 千葉経済センターの波及効果予測も大ハズレく(中山敏則、2010/1)
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