■ちばぎん総研報告書の問題点(4)

鬼泪山国有林山砂採取促進の裏側

〜開発促進で利益拡大をめざす千葉銀行〜

中山敏則



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 千葉銀行が設立した2つの調査研究機関(ちばぎん総研と千葉経済センター)が算定した開発事業の経済波及効果はすべて“大ボラ”です。
 鬼泪山国有林の山砂採取事業についても、ちばぎん総研は、年間の経済波及効果を約52億円、雇用創出は284人と算定しています。そして、採取事業の実施は「必要」であり、「望ましい」という結論をだしています。
 その一方で、山砂採取による「負の経済効果」はまったく無視です。「負の経済効果」というのは、森林消失による温暖化促進、生態系への打撃、景観破壊による観光資源消失、水道水源枯渇やダンプ増加による住民生活への悪影響などです。
 また、ちばぎん総研は、山砂採取の事業のあり方として、「山の一部を削るのではなく、山全体を取り崩して、そこを平地として別の目的に活用していくという発想が望ましい」とまで言い切っています。


千葉の開発におぶさって急成長した千葉銀行

 問題は、環境保全が叫ばれる中で、なぜそんなメチャクチャなことをブチあげるのかということです。そのウラには、千葉銀行の体質があります。
 千葉銀行は、千葉の大型開発と人口増加の恩恵をうけて急成長してきました。開発が進むと、そこで大きな資金の流れが出現し、そのかなりの部分を銀行が融資したり、銀行に環流させることができるからです。
 預金量をみると、千葉銀行は1964年には地方銀行63行中第14位であったのが、1981年には横浜銀行に次いで地方銀行第2位の位置を占めるまでになりました。この躍進の要因のひとつは、労働者を徹底的に酷使したことです。
 及川和男著『誰のための銀行』(大月書店)ではこう書かれています。
    《千葉銀行は、折からの高度経済成長の波にのり、京葉工業地帯の確立という立地条件にも恵まれ、何よりも行員を徹底的に酷使することによって、以後驚異的な業績の伸長をかちとった。》
 もうひとつは大型開発の推進です。たとえば、戸川猪佐武氏は『日本の地方銀行』(光文社)の中でこう書いています。
    《県政におぶさって、千葉銀が業績を伸ばしたという見方が定説になっていて、銀行側も、あえて否定はしない。ある幹部は、「銀行にとって川崎製鉄が進出してきて、京葉臨海工業地帯がスタートしたのが第1の夜明けでした。第2の夜明けが成田空港ですね。そして第3の夜明けが、これからの東京湾時代です。こうした背景があるから、千葉銀は県勢に負ぶさって伸びたといわれても仕方がありません」といっている。》
 このように、千葉銀行が県の大型開発や人口増加におぶさって躍進したということは、自他ともに認めていることです。


大型開発推進を利用して大もうけしたカラクリ

 では、どのようなしくみで開発が千葉銀行の躍進につながったのでしょうか。小説家の清水一行氏は、千葉銀行の内紛や県政にからむ利権などを小説にした『首都圏銀行』(角川文庫)で次のように書いています。(小説の中の「京葉銀行」は千葉銀行、「相川県政」は友納県政のことと言われています)

    《従来から、地方銀行に見られた共通の特徴は、地元で吸収した預金を、大都市の有力企業に重点的に融資するということで、京葉銀行の場合も、千葉で集めた預金を、東京に本社を構える大企業に集中的に融資し、融資効率を高める方法がとられてきた。
     とくに千葉県は、相川県政の東京湾埋立てによる、産業誘致、工業化政策を一貫して推し進めてきており、それも、財源に乏しい千葉県の実情から、千葉方式……なる新しいやり方をつくり出して推進してきた。(中略)
     そして当然、この巨大な埋立行政や、産業誘致とは別な、県としての宅地の造成にともなって、そこに大きな資金の流れが出現することになる。
     たとえば東京湾の埋立ての場合、進出企業の予納金で造成費をまかなうといっても、企業が何十億円、何百億円という金を遊ばせて持っているわけがなかったから、まず京葉銀行やその他の金融機関が工場進出を予定している大企業に融資することになる。この金はただちに地元へのいろいろな補償金の支払いという形で動きはじめ、地元へ支払われた補償金は、再び京葉銀行が預金として吸収していくことになるのだ。
     さらにはそうやって吸収した金が、こんどは埋立事業を請負う不動産会社や土建業者に貸付けられる。
     ニュータウン計画にともなう宅地の造成などでは、東京に本社を構える大手不動産業者に、造成費の融資が行なわれ、この金が土地の買収費として支払われ、京葉銀行の手で預金として回収され、さらには大手建設業者に、ニュータウンの建設費として、再び貸付けられるのだった。
     その結果、有力な企業が千葉に進出し、その進出企業と大きな取引関係ができ、しかもニュータウンには何万人もの人が住むようになって、そこから預金が集まってくる。こういう巨大な資金の循環のなかで、この10年間に京葉銀行は驚異的な発展を遂げてきた。
     相川県政の推進と京葉銀行の再建──躍進は、文字どおり表裏一体の関係で、二人三脚で走りつづけてきたといってもいい。当然、県やその開発公社とも複雑密接な関連ができてくるのだった。》
 ここには、銀行が県の大型開発推進を利用して大儲けしたカラクリがあざやかに描かれています。このようにみれば、銀行がなぜ開発促進に躍起となっているのかもわかります。


さらなる成長をめざすために開発促進

 前出の『日本の地方銀行』で戸川氏はつぎのように述べています。
    《千葉銀行の経営からみると、開発が遅れた外房の部分が過去から現在にいたるまでのドル箱市場となっている。というのは、交通と産業の開発の立ち遅れゆえに、都市銀行の進出がなく、独占市場的な趣きを呈しているからだ。》

    《緒方太郎頭取はかねてから「千葉銀行にとって、第三の夜明けは東京湾時代である」と口にしている。(中略)この東京湾時代を現出するための最大の目玉商品が、川崎と木更津とを結ぶ〔東京湾横断道路〕である。》

 また、緒方頭取が千葉銀行内部で、「これが実現の運びにいたれば、1兆円を超えるような大型プロジェクトになります。そのためには千葉銀行が業績を伸ばし、体質強化を図って、いつでも県や企業の要望に応じ資金の供給ができるようになっておかなければならない」と語っていることも紹介しています。

 このようにみれば、千葉銀行が東京湾アクアラインや幕張メッセ、つくばエクスプレス沿線開発、千葉ニュータウン事業などの巨大開発や、鬼泪山国有林の山砂採取事業などの促進に血眼になっている理由がはっきりしてくると思います。千葉銀行は、自行の利益拡大のために、開発を県内各地で県や民間会社にやらせようとしているのです。


大企業群や特権官僚が大型開発を主導

 銀行は、金権腐敗の県政にも深くからんできました。
 たとえば小説『首都圏銀行』(前出)は、小見川工業団地開発を通じた選挙資金捻出のカラクリなどを明らかにする中で、千葉県の開発行政が実は政財官癒着による汚職の体制であったことを描写しています。そして全国有数といわれる千葉県の大型開発を主導してきたのが銀行などの大企業群や特権官僚であることも明らかにしています。


県住宅供給公社のデタラメ開発を助長した千葉銀行

 2003年から04年にかけて、千葉県住宅供給公社の破たんが問題になりました。破たんの原因はデタラメ経営です。たとえば、住宅団地開発用地として購入した市原市米沢の土地(75ヘクタール)は最たるものです。
 この土地は、市の中心部からかなり遠い僻地(へきち)にあり、誰がみても住宅開発などできっこありません。公社は、そんな土地を相場の数倍以上で購入し、売り手の不動産業者や仲介の有力政治家をボロ儲けさせました。159億円の購入価格にたいし、2004年当時の時価はたったの2億円です。この土地購入にかかる借金は182億円に膨れあがってしまいました。
 このほか、野放図な開発を進めてきた結果、同公社は、千葉ニュータウン、成田ニュータウンなどに売れ残りの土地や住宅を数多くかかえています。また、同公社が手がけたつくばエクスプレス沿線開発(土地区画整理事業)も大赤字でした。

 そんな野放図な開発を支えたのが、千葉銀行などの金融機関でした。成算がないとわかっていながら、千葉銀行などが湯水のように融資しつづけました。そのために公社はデタラメ開発をつづけることができたのです。千葉銀行などは、中小企業や県民には貸し渋りをしながら、デタラメ経営をつづける公社には湯水のように莫大なカネを融資しつづけたのです。
 ですから、公社破たんには、まぎれもなく千葉銀行なども荷担しています。


三番瀬「ヤミ補償」にも関わる

 千葉銀行は、三番瀬の「ヤミ補償」(転業準備資金問題)にも深く関わりました。
 この問題は、市川2期埋め立ての計画が策定されていない段階で、埋め立てを前提とし、1982年(昭和57)に市川市行徳漁協に融資されたものです。当時の県企業庁、行徳漁協、金融機関(千葉銀行と千葉県信用漁業協同組合連合会)の三者合意により、金融機関から約43億円が貸し付けられ、利子については企業庁が肩代わりすることになっていました。この融資は漁業権を放棄した場合に見合う補償金相当額であり、脱法的な事前漁業補償です。
 1999年11月、この事実が突如として明らかになりました。企業庁は2000年2月、その利息分として約56億円の支出を予算化しました。そのため、三番瀬保護団体のメンバーなど(三番瀬公金違法支出訴訟原告団)がその支出を違法とし、提訴しました。千葉地裁は2005年10月、三者合意には瑕疵(かし)があると指摘しましたが、利子肩代わりは「企業庁長の裁量内」とし、訴えを退けました。
 企業庁は2008年11月、東京地裁の調停委員会の提案にもとづき、計60億円を市川市行徳に支払いました。60億円の内訳はこうです。
 ・転業準備資金貸付分………………… 43億円
 ・その未払い利息分……………………  2億円
   (利息56億円は肩代わり済み)
 ・組合員への追加賠償分……………… 15億円
 結局、116億円(56億円+60億円)を県(企業庁)が公費支出することで「解決」を図ることになりました。埋め立てが行われなかったわけですから、本当は1円も払うべきでないものです(市川市行徳漁協はその後も漁業権を保有しています)。不当支出であり、地裁判決をも無視したものです。
 千葉銀行は、そういう脱法的なヤミ補償にも深くかかわっていたのです。


反社会的行為の規制を

 以上のように、千葉銀行は、「自行の利益が増えれば、あとはどうなろうと知ったことではない」あるいは「房総の自然や地球環境などどうなろうとかまわない」という姿勢を貫いています。
 そして、野放図な開発を後押しするバラ色の経済波及効果予測を、ちばぎん総研と千葉経済センターにやらせているのです。

 こういう開発が、千葉銀行などの主導で今もすすめられているのをみると、『首都圏銀行』の中で描かれている利権開発は現在も続行中──と言っても過言ではないと思います。こうした野放図な利権開発にメスを入れると同時に、千葉銀行などの反社会的な行為を規制することが、いま重要な課題となっていると思います。

(2010年1月)




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