銀行シンクタンクの予測は信用できない

〜いつも過大予測〜

中山敏則



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■アクアライン開通で木更津市経済は大打撃

 「アクアラインと地域振興─東京湾横断道路の交通改善及び地域振興への効果の測定と評価」と題した講演会が(2010年)5月27日、千葉市内で開かれました。講師は関東学院大学経済学部の安田八十五教授(環境政策)。主催は千葉県議会の市民ネット・社民・無所属会派です。

 安田教授は、アクアライン開通で木更津市の経済が大打撃を受けたことを、データを示して明らかにしました。買い物客を対岸の横浜市や川崎市に奪われ、中心市街地の商業が著しく衰退したことなどです。それは、西友木更津店やダイエー木更津店、木更津そごうの閉店に象徴的にあらわれています。

 木更津市は、人口も停滞です。市は、東京湾アクアライン(横断道路)の開通によって人口が大幅に増えると予測していました。1973年3月に策定した計画では、2000年に34万人に達すると見込みました。こういう予測にもとづき、市内のあちこちで土地区画整理事業を推進しました。区画整理事業の施行地区数は全国一です。そのため、当時の須田勝勇市長は全国土地区画整理組合連合会理事長を務めました。

 ところが、1997年12月18日にアクアラインが開通しても、人口はちっとも増えません。開通直後の1998年は12万2107人、2004年は12万2807人というように、ピークだった1993年の12万5792人に達していません。

 移住者がないため、土地区画整理事業もあちこちが破綻です。区画整理事業で大儲けをめざしていた須田市長は、多額の借金をかかえて窮地におちいりました。そして、ついに土地区画整理組合の資金を着服して逮捕・実刑です。
    《多額債務問題で市長職を追われ、理事長を務めていた木更津市清見台第三土地区画整理組合の資金約2億5000万円を着服したとして業務上横領罪に問われた同市前市長の須田勝勇被告(74)(木更津市太田)に1日、言い渡された判決は懲役4年6月(求刑・懲役7年)の実刑だった。千葉地裁の大谷吉史裁判官は、金にまみれた犯罪を「市長としての体面を守るのが目的だった」と断罪した。》(『読売新聞』千葉版、2003年5月2日)


■市は“ストロー効果”を無視して過大予測

 木更津市はなぜ、非現実的な過大予測をしたのでしょうか。安田教授はこう述べました。
     「そういう結果になることは最初からわかっていた。都市と都市を結ぶ便利な道路ができると、万有引力の法則(重力の法則)とおなじ法則がはたらく。ポテンシャル(=引力)の強いほうに人口や買い物客が吸引されるということだ。これは“ストロー効果”ともよばれている。理論上は、時間距離が半分に短縮されると、吸引力(引力)は4倍になる」

     「木更津市は、アクアラインを“夢の架け橋”と呼び、開通すると大勢の人が流れてくると予測していた。しかし、人口は増えなかった。逆に、それまで木更津市で買い物をしていた人たちが、高速バスなどを利用して対岸の横浜や川崎のほうへ出かけるようになった。便利になったため、横浜市の中華街などに行きやすくなったということだ」

     「アクアラインができれば、“ストロー効果”が発生するということはわかっていた。ところが、木更津市は“ストロー効果”を無視し、過大な予測を発表して市民にバラ色の期待をいだかせた」


■ちばぎん総研もバラ色の波及効果予測を発表

 そこで、私はこんな質問をしました。
     「過大な予測をしたのは、木更津市だけではない。千葉銀行のシンクタンク(ちばぎん総合研究所)もバラ色の経済波及効果予測を発表し、アクアラインへの期待や開発を盛んにあおった。木更津周辺地域の人口や南房総への観光客が大幅に増えるというものだった。シンクタンクの予測も過大であり、見事にはずれた。シンクタンクが“ストロー効果”を予測できなかったのはなぜなのか」
 安田教授はこんなふうに答えました。
     「銀行のシンクタンクが発表する予測はまったく信用できない。ある銀行が産業連関表を使って発表した波及予測結果を私がチェックしたら、計算がまちがっていた。それは、わざとまちがったものだった。依頼主が“こういうふうな数字をだしてくれ”といえば、それにあうような数字をだす。これが日本のシンクタンクの実情である」
 なるほどと思いました。
 ちばぎん総研はいつも産業連関表を用いて波及効果予測を算定します。産業連関表を使えばプラスの値しかでません。「ストロー効果」のようなマイナスの効果は絶対にでてこないのです。


■鬼泪山国有林山砂採取の波及効果予測も同じ

 これは、鬼泪山(きなだやま)国有林の山砂採取による波及効果も同じです。ちばぎん総研の調査報告書は、鬼泪山国有林104・105林班の山砂採取事業が県にもたらす年間の経済波及効果は約52億円、雇用創出は284人と推計しています。そして、鬼泪山国有林からの山砂採取は「必要」であり、「実施が望ましい」と結論づけています。
 この効果予測は過大すぎるという感じがします。そもそも、マイナス効果をいっさい無視です。マイナス効果というのは、鬼泪山国有林がもつ環境価値や水道水源としての価値などです。

 今年(2010年)2月9日に開かれた、第23回「千葉県土石採取対策審議会」(土石審)で、山田利博委員(東京大学大学院教授、林学)はこう述べました。
     「日本の森林は年間80兆円ぐらいの便益があるというふうに言われている。日本の森林面積は2500万haなので、単純に面積比で試算してみると、この国有林104・105林班等の開発面積(約140ha)にあわせると、年間で4億円あまりになるかと思う。もちろん、これ以外にも貨幣価値に換算できない機能がある」
 このようなマイナス効果を無視する点は、大ハズレだったアクアラインの波及効果予測とまったく同じです。
 「銀行のシンクタンクが発表する予測はまったく信用できない」──。安田教授からいい話を聞きました。

(2010年5月)




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