■ちばぎん総研報告書の問題点(2)

バラ色の効果予測はすべて“大ボラ”

〜アクアライン開通で地域経済は壊滅状態〜

中山敏則



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 ちばぎん総合研究所の調査報告書は、鬼泪山国有林104・105林班の山砂採取事業が県にもたらす年間の経済波及効果は約52億円、雇用創出は284人と推計しています。
 年間経済波及効果52億円の内訳はこうです。
  (1)直接効果    32.4億円
  (2)1次波及効果   12.3億円
  (3)2次波及効果    7.2億円
 しかし、これはあくまでも机上の推計でしかありません。


千葉銀行調査機関の波及効果予測は信頼性ゼロ
   〜ちばぎん総研と千葉経済センター〜

 実は、千葉銀行が設立した2つの調査研究機関(ちばぎん総研と千葉経済センター)がこれまで算定した経済波及効果は当たったことがありません。すべて大ハズレです。
 ですから、県庁内では、両調査研究機関が手がけた波及効果予測はバカにされているようです。
 ある県庁幹部はこう語っています。
     「ちばぎん総研は、産業連関表を使って鬼泪山国有林山砂採取事業の経済波及効果を算定している。しかし、産業連関表を使えば必ずプラスの結果がでることになっている。マイナスの産業連関表というのはないからだ」
     「ちばぎん総研の調査報告書が土石審(土石採取対策審議会)で議論すべき内容なのかどうかについては、疑問がある」
 要するに、県庁内では、ちばぎん総研の調査報告をまともとみている職員はだれもいないということです。信頼性はゼロです。


バラ色の予測を発表
   〜アクアラインの経済波及効果〜

 ちばぎん総研の調査報告がいかにデタラメかを示す事例をひとつあげます。それは、東京湾アクアライン(横断道路)の経済波及効果予測です。

 ちばぎん総研は1997年、バラ色の予測を発表しました。アクアラインが開通すれば、1998年の君津(上総)・南房地域への観光客数は423万人(うち宿泊客37万6000人)増える。観光消費額は452億円増加。木更津周辺地域への移転可能者は37万人──というものです。
    《98年の上総・南房地域への観光客数は開通前に比べて423万人(うち宿泊客37万6000人)、観光消費額は452億円増加。首都圏から木更津周辺地域への潜在的な移転可能者は37万人──。ちばぎん総合研究所(鈴木孝雄社長)が10月にまとめたアクアライン開通に伴う「上総・南房地域活性化方策検討調査」報告書には、バラ色の数値とともに半島性脱却に向けたソフト、ハード両面の提言プロジェクトが盛り込まれている。
     「開通に伴い川崎、横浜市周辺から大幅に短縮され、伊豆方面へ出掛けていた人たちなどが、大勢訪れるはず。データに基づく推計値ですが(423万人は)堅すぎる数字だと思います。増加するほとんどは日帰り客ですが」。
     同地域への観光客数は県商工労働部が毎年行う観光入込調査でもここ数年、横ばいないし減少傾向だが、推計値は観光客数、消費額とも31%という大幅な伸び率を示す。さらに川崎、横浜市周辺住民の通勤所要時間、借家居住者数と上総地域の地価水準などを考慮した結果、潜在的移転可能者が13万2000世帯、37万人と推計された。》(『千葉日報』1997年12月11日)
 ところがじっさいは、周知のとおり惨たんたるものです。


アクアライン開通で地域経済は壊滅状態

 君津・南房地域は、バラ色どころか、地域経済が壊滅状態になりました。
 たとえば、アクアラインの付け根に位置する木更津市は、この道路を“夢の架け橋”と宣伝していましたが、じっさいは“悪魔の架け橋”となってしまいました。
 アクアライン開通によって木更津市の人口は減少し、買い物客は対岸の神奈川県に流出です。商店街は売り上げが激減し、“シャッター通り”と化してしまいました。
    《東京湾を横断して、千葉県と神奈川県を結ぶ高速道路。これで千葉、神奈川両県の産業活性化・観光交流の活発化と“夢”効果が期待された。ところがである。アテにしていた産業も根付かず、人口も増えず、「木更津そごう」「ダイエー木更津店」などは相次いで閉店。地元経済の地盤沈下が進み、商業地としての基準地価は4年連続で全国一の下落率という、アクアライン効果の恩恵? を浴している。》(『JOHOちば』2004年5月号)

    《約100メートルの通りには20ほどの店が並ぶ。しかし現在、その3分の1は昼間でもシャッターを下ろしたままだ。婦人服を扱う洋品店や総菜屋などが並ぶが、買い物客は少ない。(中略)この商店街も、かつては木更津一の繁華街だった。67歳になった水越市長も「子どものころ、親に手をひかれ、文房具などを買いに行った。人が多くて通りが抜けられないほどだった」と振り返る。(中略)
     空洞化が目立つのは「みまち通り」だけではない。木更津市企画政策室によると、衰退に拍車がかかったのは97年の東京湾アクアライン開通。地元は、東京が近くなることで、観光客や定住者の増加を見込んでいた。だが実際には「逆に買い物客が流出していったという。市外の住民の定住をめざして造成した住宅地も、引き合いはいま一つで、空き地が目立つ。木更津そごうの撤退、4年連続商業地価下落率日本一という悪いニュースも相次いだ。》(『朝日新聞』2006年11月24日)

    《では、せめてアクアラインは、地元の経済に貢献しているでしょうか。調べてみると、貢献どころか千葉県の商業を壊滅状態に陥れている状況が見えてきます。アクアライン開通後、千葉県の若者、富裕層は横浜や東京に買い物に出かけるようになり、千葉県の商業が打撃を受けるという「ストロー現象」が起きています。
     JR木更津駅前のそごう、ダイエー、西友などが撤退し、そのあおりで木更津市の中心市街地、富士見商店街は客足が大幅に減りました。昼間でもシャッターを閉め切っているので、「シャッター通り商店街」などと呼ばれています。
     また、アクアライン開通により、木更津市周辺では10万人規模の人口増加を見込んでいました。これに合わせて進められていた土地区画整理事業1000ヘクタールがほぼ完成していますが、買い手不在で販売はストップしたままだといわれています。
     産業用地も同様です。アクアラインができれば情報通信などのハイテク産業が木更津へ進出してくると見込み、開発が進められた研究都市・上総アカデミアパークなども、当てが外れて誘致できた企業はほんの数社。閑古鳥が鳴いている状態です。
     木更津市では、供給過剰で住宅地の地価は全国トップクラスの下落率。商業地の地価も、92年をピークに2005年には14分の1となっています。新宿区の商業地がピーク時に比べて約3分の1であることを考えると、その異常さがわかるでしょう。
     全国的に景気は下げ止まり、あるいは上向いているともいわれているのに、アクアライン周辺の東京湾岸では、完成後も雇用の減少→所得の減少→売り上げの減少→中心市街地の衰退→地価など資産の低下→さらなる雇用の減少……という悪循環が止まっていないのです。》(松下文洋『道路の経済学』講談社現代新書)


宿泊客も激減
   〜大型ホテルの倒産も相次ぐ〜

 アクアラインのおかげで、君津・南房総は完全に日帰り圏内になってしまいました。そのため、この地域に宿泊する客は激減です。たとえば旧白浜町の宿泊施設は軒並み閉鎖の状態になったと聞きます。
 大型ホテルの倒産も相次ぎました。
    《内房の観光名所、富津岬にあるリゾートホテル「京急富津観光ホテル」(富津市富津)が8月末で閉鎖することが、4日までに決まった。長引く景気低迷の影響や東京湾アクアライン開通で日帰り客が増えて利用者が減り、経営維持が困難になったため。かつて皇族も宿泊された地域を代表する名門ホテルだった。(中略)同社の加藤忠良取締役総務部長は「グループ全体で事業の見直しをしているが、今後回復できる見通しがなく閉鎖を決めた。施設が30年以上と老朽化したのに加え、東京湾アクアライン開通で商房総への通過点になってしまった」と説明。ホテルを運営する京急房総観光の田和允宏社長は「つらい選択。申し訳ない」と話した。》(『産経新聞』2001年7月5日)


産廃不法投棄が急増

 他方で、アクアライン開通によって、市原や木更津などは産廃の不法投棄が増えました。
    《東京湾アクアラインの開通後、不法投棄しやすい山林が多い市原や木更津で、都内や神奈川などから持ち込まれる産廃が目立ち始めた。「アクアラインを使えば1日に2、3往復できるため、不法投棄はこの1年で10倍」と話す業者も。》(『東京新聞』千葉版、2001年3月16日》
 アクアライン開通後の実態は、以上のようなものです。ちばぎん総研が発表したバラ色の経済波及効果予測は“大ボラ”だったのです。


ちばぎん総研はストロー現象を予測できなかった

 アクアラインが開通すれば「ストロー現象」が起こるということは、いろいろな人が予測していました。私もその一人でした。
 「ストロー現象」というのは、大都市と地方が高速道路や新幹線、橋などで結ばれると、地方の活力が大都市に奪われてしまうという現象です。これは全国のいたるところで普通にみられる現象です。
 ところが、ちばぎん総研はそんな常識的なことも予測できなかったのです。それは、ちばぎん総研が産業連関表に頼っているからです。産業連関表からはストロー現象などのマイナス効果はでてきません。
 要するに、お粗末すぎるのです。

(2010年1月)




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