■ちばぎん総研報告書の問題点(1)

 環境よりもカネもうけが大事

  〜良心の呵責が全くみられない〜

中山敏則



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 千葉ではいま、富津市にある鬼泪山(きなだやま)国有林の山砂採取が大きな問題になっています。
 この山砂採取について、シンクタンク「ちばぎん総合研究所」は「必要であり、実施が望ましい」と結論付ける調査報告書(『国有林104・105林班開発事業に関する検討調査』2008年2月)をだしています。これが山砂採取推進勢力のバックボーンとなっています。


経済活動を優先し、環境面の調査・考察が不足
   〜連絡会による批判〜

 「鬼泪山『国有林』の山砂採取に反対する連絡会」は2008年11月10日、この調査報告書に対する見解を発表しました。
 見解は、報告書について「中立・公正な調査研究機関の立場で作成されたものとは思えない」「経済活動を優先し、環境についての十分な調査・考察が不足している」などと批判しています。これは、報告書の本質的な問題をズバリついていると思います。

 連絡会の見解を一部引用させていただきます。
    《当該調査報告書は、課題を指摘しつつも、鬼泪山の山砂採取には経済波及効果が大きいことを理由に、事業推進の最終結論を導き出している。
     最後のまとめと思しきページに「◇行政の果たすべき役割」という項目あり、「山砂採取の事業のあり方としては、『山の一部を削る』のではなく、『山全体を取り崩して、そこを平地として別の目的に活用していく』という発想が望ましいといえる」という見解が述べられている。しかし、当該調査報告書には、こうした大胆な見解を述べるだけの研究や検証の実績がほとんどない。唯一客観的に導き出されている産業連関表を用いた経済波及効果の予測数値も、前提条件に仮定が多く、説得力は弱い。
     一方、述べられている課題は既に一般化されたものであり、当該対象地域の影響評価などのきめ細かな調査・考察は行なわれていない。山砂採取事業の推進という結論が最初にあり、その結論の正当性を補強するために、このような見解が記述されたようにみえる。》

    《こうした結論の導き出し方は、中立・公正な調査研究機関(シンクタンク)としては自殺行為に等しいといえるのではないか。当該調査報告書は、とうてい中立・公正な調査研究機関の立場で作成されたものとは思えない。》

    《環境問題は人類が直面する大きな課題であり、持続可能な社会を実現していくために、産官学民の取り組みが問われている。夏の洞爺湖サミットでは「地球温暖化防止」が主要テーマになり、千葉県においても「生物多様性保全」への取り組みが始まっており、環境に付加を与える経済活動や事業の見直しに多くの人の注目が集まっている。(中略)
     当該調査報告書は、経済活動を優先し環境についての十分な調査・考察が不足しており、通り一遍の課題の列挙にとどまっていることから、千葉銀グループ全体の環境ポリシーを疑わざるをえない。ちばぎん総研は千葉銀グループではあっても、独立した企業として経済問題と環境問題をリンクさせていく明確な方針を持つべきである。》

 まったくそのとおりだと思います。


山砂採取は「必要」であり「望ましい」
   〜ちばぎん総研「調査報告書」の結論〜

 ちばぎん総研の調査報告書は、山砂採取が自然環境に与える悪影響についても一応はふれています。

    《山砂採取事業を行うためには、その表面にある森林の伐採が必要となる。県の統計によると、昭和50年度以降で、約2770haの森林が土砂などの採取によって消滅しているとされている。森林の伐採は、自然に人間の手を加える行為であり、積極的に行われるべきものではない。やみくもな開発は認められておらず、事業は当然県の認可に基づいて行われることとなっている。》(35ページ)

    《ある面で大きな効果をもたらす事業が、他の全ての面でもプラスの効果をあげるという例は稀有である。何らかの副作用、マイナスを伴うケースがほとんどだと考えられる。今回の104・105林班の開発事業についても、首都圏で求められる需要への対応、地域への経済効果といったプラス面を享受できる一方で、環境への負荷の増大などのマイナス面を伴うことは間違いない。》(42ページ)

 ところが、結論としては、鬼泪山国有林からの山砂採取は「必要」であり、「実施が望ましい」としているのです。
    《東京圏における骨材需要に対応していくためには、引き続き千葉県からの山砂供給が必要であり、現在の供給量を維持するためには、104・105林班の開発事業が必要だと考えられる。》(39ページ)

    《富津市の経済活動の水準を維持し地域の活性化を図っていくため、またより広く千葉県の経済活動を促進していくために、104・105林班開発事業の実施が望ましいといえる。》(41ページ)

    《山砂の採取事業は、必然的に自然環境に影響を及ぼす行為であり、そうした観点からみると積極的に肯定できるものではないが、104・105林班の開発事業は、その必要性等を総合的にかんがみて、事業化はやむを得ない。》(43ページ)


採取を「望ましい」とする根拠

 その「根拠」として3点をあげています。
  • 現在の社会情勢から東京圏近郊における骨材需要への対応は不可欠である。当地域は良質な山砂を供給できる地域資源を有し、東京圏でその需要に応えられる数少ない立地環境にある。
  • 事業の実施による地域経済、県内経済への貢献度も高い。
  • 山砂採取事業はたしかに自然環境への負荷をかける。しかし、他の骨材採取手法と比較して、その度合いは相対的に少ないと考えられる。
 要するに、自然環境や地球環境よりも経済活動が大事ということを明言しているのです。カネもうけのためには自然環境は犠牲になってもやむを得ないということです。


「山全体を取り崩すことが望ましい」

 調査報告書は、こんなことも提言しています。

    《山砂採取の事業のあり方としては、「山の一部を削る」のではなく、「山全体を取り崩して、そこを平地として別の目的に活用していく」という発想が望ましいといえる。》(46ページ)

 この点は連絡会の見解もきびしく批判していますが、とんでもないことです。自前の利益に目がくらんだ採取業者や政治家たちにとっては“人類の宝”もネコに小判です。調査報告書は、ちばぎん総研がそういうヤカラと同じ姿勢であることを証明しています。
 自然を破壊しまくっていいのか、といった良心の呵責(かしゃく)のようなものが、ちばぎん総研にはひとかけらもみられません。


大規模な自然破壊に荷担する千葉銀行

 そんなメチャクチャな「調査報告書」を分身(子会社)のちばぎん総研につくらせている千葉銀行も問題です。

 同銀行の佐久間英利頭取は、「頭取メッセージ」でこう述べています。
    《地域社会を取り巻く様々な課題解決に向けた活動に取り組むため、「CSR推進室」を設置しました。今後も「未来を育む」をキーワードとして「ひと」「環境」及び「産業」の育成に資する社会貢献活動に積極的に取り組んでまいります。》
 よくもこんなことが言えたものだとあきれてしまいます。

 日本政府は、大銀行が大規模な環境破壊に荷担していることを放置しています。また、マスコミも目をつぶっています。そんな政府やマスコミに、温暖化防止に消極的な中国や発展途上国などを批判する資格はないと思っています。

(2010年1月)




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