鬼泪山国有林が危ない!
〜「鬼泪山の国有林を守る市民の会」がアピール〜
千葉県は“日本一の山砂採取県”となっており、いまも羽田空港再拡張埋め立て工事用などとして膨大な量の山砂が採取されつづけています。
膨大な山砂採取は、自然破壊や住民の健康被害、さらに作業員の死亡事故や交通事故の頻発などをもたらしてきました。そしていま、富津市の鬼泪山(きなだやま)国有林を山ごとごっそり削り取る話がもちあがっています。
そこで2009年1月25日、地元の住民が「鬼泪山の国有林を守る市民の会」を結成しました。以下は、同会のアピールです。
1.鬼泪山(きなだやま)が危ない
〜マザー牧場のすぐそばまで削り取る計画〜
千葉県は日本一の砂生産県であり、その99%が山砂で、富津市・君津市が中心である。富津市の東京湾側から君津・市原にまたがる房総丘陵の市宿層・万田野層などから生産されており、羽田空港や東京ディズニーランドなどの大規模な埋め立てや首都圏の高層ビルの骨材として大量に利用されている。
山砂は、(1)自然が作り出したもので再生産できない。(2)山を削り採取するため自然破壊をもたらす。このため、地域では環境・景観破壊が大きな問題となっている。しかも無計画に大量に採取されたため、山砂採取可能な民有地が減少し資源が枯渇しているといわれている。
採取業者(「きなだ国有林同業会」)は鬼泪山国有林からの採取を以前から計画しており、昨年9月県議会に「富津市鬼泪山国有林104林班ほかの山砂採取事業の早期着手に向けての土石採取対策審議会の早期開催を求めることについて」の請願を提出、自民・公明の賛成多数で採択された。
請願には地元の吉本県議のほか、川名(君津)・江野澤(袖ケ浦)・信田(銚子)の4人の自民党県議が紹介議員となり後押しをした。
1月27日に土石採取対策審議会が10年ぶりに開催され、次回は5月頃現地調査を行う予定である。
鬼泪山は鹿野山の東京湾側に位置し、「マザー牧場」もある。隣にあった浅間山(せんげんやま)は山砂採取によってすでになくなり、跡地(館山道富津中央インター東側付近)は広大な砂原となっている。
今後50年間に鬼泪山国有林104林班ほかから1億立方メートル(東京ドームの約80個分)の山砂を取る計画で、鬼泪山をマザー牧場のすぐそばまで削り取ることになる。
2.「鬼泪山の国有林を守る市民の会」を結成
私たちは1月25日、「富津市の水源を守れ」「今以上の環境・景観破壊は許さない」と、富津市民会館において「鬼泪山を守る市民の会」を結成した。地元富津市を中心に80名参加し、当面、以下の取り組みを行うことを決めた。
- 市長・知事・林野庁への要請行動を行う。
- ビラ、ポスターなどの宣伝行動を行う。
- 署名運動を進める。
- 「市民の会」への参加を広く呼びかける。
3.市民の水源が危機に
〜県の基本方針と矛盾〜
鬼泪山の国有林104林班の近くには富津市民の重要な取水源がある。また、貴重な森林の伐採による地球温暖化の促進など多くの環境・景観破壊をもたらす。
山砂採取の許認可は千葉県が行う。県は「ちば2008年アクションプラン」で「美しいちばの森林づくり」を掲げ、「本県の森林は、……増大する土砂採取等の開発に伴い環境や景観の悪化が見込まれます。……千葉の美しい森林を蘇らせ、次代に引継ぐために、『林業振興を柱とする施策』を抜本的に見直し、『森林の公益的機能の持続的な発揮を目指す施策』へ転換を図る必要があります」としている。また、「観光立県千葉の実現」を掲げ「観光立県千葉の実現に向けたオール千葉県での取組をさらに発展させます」としている。
今回の山砂採取はこうした県の基本方針と矛盾するもので、県は土石採取対策審議会に「採取計画は認められない」と明確に提案すべきある。
4.山砂採取で生まれている諸問題を解決することが先決
千葉県ではこの間山砂採取が大規模に行われた結果、さまざまな問題が生まれている。
- 採取中及び終了後の法(斜)面、植林等の対策。
- 採取途中で業者が撤退し放置されている危険な跡地。
- 跡地利用が進まず広大な砂原となっている問題(浅間山採取跡地は代表例)。
- ダンプ労働者等の劣悪な労働環境。
- 採取業者の不安定な経営基盤等である。
鬼泪山国有林からの山砂採取の是非を審議する前に、これらの問題点を調査・整理し土石採取対策審議会での審議も含め解決方法を明らかにし実施することが必要である。
5.「鬼泪山を守れ」の大きな世論を
「きなだ国有林同業会」が鬼泪山での山砂採取の「認可」を受けるには、「県土石砂採取対策審議会」で採取容認の答申が出されること。その後、林野庁の許可、環境評価、森林法の開発許可等をへて県に砂利採取法による認可申請を行い審査を受けることになる。業者は、すでに林野庁の内諾などの準備を進めていることが考えられる。
また、土石採取対策審議会のメンバー15名のうち、今回の紹介議員である地元の吉本県議をはじめ自民党県議4名と、土石・運輸両業界からも3名が参加している。
今こそ「鬼泪山を守れ」の大きな世論を作り出すことが求められています。
鬼泪山「国有林」からの山砂採取の問題点
- 富津市の生活用水の約36%をまかなっている地下水源に重大な影響をもたらす。また、染川湊川流域の灌漑用水に与える影響も看過できない。
今回の鬼泪山104林班の採取事業地の近隣(北側)には富津市の水源の一つである宝竜寺取水口があり、富津市全体の総取水量(平成19年度)620万6207トン/年のうちの222万972トン/年(約36%)を占めている。
この一帯の森林を伐採し山砂を採取することによって、地下水への甚大な影響をもたらし、富津市民の飲み水水源に影響をあたえることは必至である。また、水源涵養機能が損なわれ周辺河川への湧出量の減少をもたらし灌漑用水にも影響を与える可能性がある。
- 山砂を洗う際に生ずる多量の泥土、砂利採取による飛砂が海に流出し、富津市竹岡から大貫に至る沿岸の海底に堆積して、漁業に深刻な影響を及ぼす。
かつて浅間山の山砂採取事業に伴って周辺河川に泥土が流出して河床の上昇や汚濁をもたらしたが、今回の事業によっても避けられない。また、泥土の流出による海岸底への堆積は藻場の喪失や産卵場の破壊をもたらし漁業に甚大な影響をもたらす。
- 山を丸ごと削る山砂採取は山体浮上現象を引き起こし、周辺地域の地盤隆起、地下水位の低下など、修復不可能な被害が生じる。
建設省(当時)国土地理院・地殻変動解析室長の故・多田秦氏は、昭和57年に「山を削ると地殻が隆起する」(『地震』、第35巻、427-433.1982)という論文を発表し、「富津市浅間山から2億立方メートルの山砂を採取したために、1980年までに付近の地殻が8センチも隆起した」と記述している。
- 現場はマザー牧場至近距離にあり、景観破壊による観光資源消失は、県及び地元自治体や住民に大きな経済的損失を与える。
南房総一帯は各所で山砂採取が行われてきたため、至る所で緑が失われてはげ山が露出し、地上から見る眺望においてもまた空からの眺望においても極めてグロテスクな様相を呈し、甚大な景観破壊をもたらしてきた。
この緑資源が有する気温調節機能や気候温暖化防止機能、大気浄化機能、保水・水源涵養機能など多様な機能が森林伐採、山砂採取によって喪失することは多大な経済的損失をもたらすことになる。
- 生態系や生物の多様性が損なわれ、豊かな里山が受ける打撃は計り知れない
山砂採取事業によってこの地域一帯の森林・土壌・水系が有する自然生態系や生物多様性を損なうことは必至であり、いったん破壊した自然の復元は不可能である。このことはかっての浅間山の山砂採取事業が端的に物語っている。
山砂採取によって消失した県中西部の森林は3000ヘクタールといわれ、この地方の自然や生態系はすでに瀕死状態で、このうえ鬼泪山を掘ることは、それらを死に至らしめるのもである。
鬼泪山は、都心からわずか50キロで、最短距離にある国有林である。また約3000万人が住む大都市の、大気を浄化し、気象を維持するためにも重要な森林で、これを消失させることは、首都圏の住民の健康維持のうえで危険なことである。
《『歴史的に見て』》
府馬清著の「鹿野山とその周辺」(1984)のとおり、江戸時代には佐貫城主領であったが、周辺住民の入会地としていた。それを明治新政府が国有地化したが、入会地のまま植林し、今日の美林となった。つまり、地元民の心血によるものです。開発に当たっては影響調査と少なくとも地元民の了承が必要である。
- 土砂運搬用の車両が激増し、周辺住民の生活や交通安全に悪影響をもたらす。
かつてこの地域は昭和40年代から始まった浅間山の山砂の採取事業に伴って、土砂を運搬するダンプ車両が激増し、沿道地域に対して騒音、振動、粉じん、泥はね、交通事故の多発など、たいへんな「ダンプ公害」をもたらした。隣接する君津地域では昭和30年代から大規模な山砂採取が行われており、とくに小糸地区や小櫃地区の沿道では大型ダンプカーの通行による騒音、振動、粉じん等や排気ガスによる大気汚染等による甚大な影響をもたらしてきた。今現在は羽田空港再拡張事業の開始に伴って、木更津地区から君津地区にかけて1日数千台のダンプカーの通行によって交通事故や騒音、振動、粉じんなどの影響が生じている。
鬼泪山の国有林を守る市民の会
代表 岩崎 二郎
富津市竹岡578 TEL 0439-67-8147
鬼泪山の隣にあった浅間山(せんげんやま)は、
山砂採取によって9年間で跡形もなくそっくり削り取られた
浅間山の跡地。
採取中の浅間山
★関連ページ
- 鬼泪山国有林山砂採取問題で県交渉〜3つの市民団体(2009/6/5)
- 山砂採取問題の重大さを実感〜鬼泪山現地調査ゆっくりウォーク(2009/5/8)
- 鬼泪山国有林を守ろう!〜県自然保護連合が山砂採取問題の講演会(2009/4/18)
- 最近の山砂採取事情(小関公平、2007/11)
- 山砂採取によるすさまじい環境破壊〜『ああダンプ街道』の佐久間充さんが報告(2007/8/9)
- 鬼泪山にまつわる伝説を読み解く〜ヤマトタケル軍に敗れた阿久留王(2009/5)
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