流山市で浸水対策の勉強会が開かれ、講師をつとめさせていただいた。2021年8月27日である。テーマは「都市水害を防ぐために」。主催は市民オンブズマン流山だ。
流域治水(総合治水)への転換が急務
私はこんなことを話した。
(1) 近年は激甚化・頻発化する豪雨によって全国各地で甚大な被害が発生している。都市水害(内水氾濫)も拡大している。
(2) これまでの治水対策は、洪水を河道に押しこめ、川からあふれさせないというやりかたを基本にしてきた。堤防やダムに頼る方法である。このやりかたでは想定外の大雨には対応できない。河川の流下能力を超える量が流れ込めば、越流氾濫や堤防決壊が起きて深刻な災害が発生する。
(3) 県自然保護連合と県野鳥の会、茂原市民は2019年12月、千葉県(河川整備課、河川環境課)と話しあい、一宮川流域の水害防止策として総合治水対策の推進を求めた。
(4) 総合治水対策というのは、河道の治水施設の整備だけでなく、全流域を考慮した治水である。最近は流域治水とも呼ばれている。流域における対策には、遊水地の整備、雨水貯留施設の設置、水害リスクを考慮した土地利用などが含まれる。
1977年6月、建設省(現国交省)の河川審議会が総合治水対策を打ちだした。「総合治水」としたのは、河川改修のみでは水害を押えこむことはできない、治水は流域を含む広範な区域を対象とし、総合的であるべき、ということを痛感したからである。
ところがその後、建設省の河川官僚は総合治水の推進を特定都市の中小河川に限定してしまった。ダム建設と堤防整備を重点とする治水対策を継続したのである。その結果、記録的な大雨が降るたびに甚大な被害が発生しつづけている。
(5) 戦国武将の武田信玄や徳川家康、加藤清正などは名治水家でもあった。「水を治めるものは天下を治める」という言葉も生まれた。
たとえば信玄は、大氾濫をくりかえしていた釜無川や御(み)勅(だ)使(い)川(がわ)を合理的な方法で治め、甲府盆地の洪水被害を抑えた。「霞堤」を築いたり、御勅使川を付け替えたり、「石積出し」や「将棋頭」「堀切」を設けたりするなど、さまざまな手段を用いることによって洪水の流れを見事にコントロールした。
徳川家康は、利根川の洪水が江戸におよぶのを防ぐため、利根川の治水に力を入れた。その柱となったのは、広大な面積をもつ中条(ちゅうじょう)遊水地である。
(6) 市川市などの真間川流域では、浸水対策を総合治水対策に転換させた。住民運動によってである。その結果、真間川流域の浸水被害は激減した。
(7) 茂原市などの一宮川流域においても、2019年10月の大水害をきっかけに総合治水(流域治水)への転換を求める住民運動が起きている。
住民は2020年3月、「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」を結成した。運動の結果、県は流域治水への転換を表明し、その推進に力をいれている。県は「一宮川モデル」をめざすと表明した。
(8) 静岡の巴川流域では、静岡県と静岡市が一体となって巴川流域総合治水事業を推進している。これはたいへんすぐれた治水事業だ。巴川流域の浸水被害を激減させている。静岡県は「山はスポンジ」と位置づけ、山林開発も抑制している。
(9) 流山市はつくばエクスプレス(常磐新線)沿線開発をおしすすめ、「市(いち)野(の)谷(や)の森」などの森林を大規模に伐採してきた。水害を防ぐためには、このような開発を抑制しなければならない。
(10) 流山市の防災危機管理課が発表した資料をみると、こう書いてある。「流山市は過去に大きな災害に見舞われていない」「1973(昭和48)年以降、風水害による死者はいない」。これは本当なのか。みなさんの見方を教えていただきたい。
人口を増やすため、
市は水害の事実や危険性を隠そうとしている
私の話をうけて出席者からさまざまな質問や意見、感想がだされた。
たとえばこうだ。
(1) 「過去に大きな災害に見舞われていない」という市の発表は事実とちがう。流山市でも内水氾濫が発生する。洪水で江戸川の水位が上昇すると江戸川の排水門が閉まる。そうすると、流山市内の中小河川は流下先をふさがれて水があふれる。その結果、家屋などの浸水被害が生じる。じっさいにそのような浸水被害が発生した。
たしかに、市が言うように1973年以降は風水害による死者はでていない。しかし浸水被害は発生している。市は、浸水被害の事実を隠すために「死者はいない」という表現を用いている。
さらに、大水害が発生したときに「想定外」として責任逃れをするため、「過去に大きな災害に見舞われていない」と宣伝している。
(2) 流山市は人口が急増している。2004年は15万人だったのが、今年は20万人を超えた。県内や全国792市で人口増加率が第1位となっている。
流山市は人口をさらに増やそうとしている。そのため、「過去に大きな災害に見舞われていない」とか「1973年以降は風水害による死者はいない」ということを宣伝している。市は「市域の約3分の2は浸水想定区域外」と発表しているが、これも甘い。東京などからの移住者を増やすため、浸水被害の事実や危険性を意図的に隠している。しかも、有効な浸水対策を講じようとしない。
(3) 記録的な豪雨に見舞われたら、流山市でも甚大な都市型水害(内水氾濫)が発生する危険性が高い。
人口や商業施設が急増しているため、流山市は財政力がたいへん豊かになった。いまのうちに効果的な水害対策を講じることが必要だ。遊水地や雨水貯留施設、分水路の設置などだ。森林伐採や農地転用なども抑制すべきだ。そのためには住民運動が必要である。きょうの勉強会でそれを痛感した。流山市はいまも野放図な開発をおしすすめている。なんとかしなければ、と思う。甚大な被害が発生してからでは遅い。
流山市の実情を知ることができ、私にとっても学ぶことの多い勉強会となった。
巴川流域の総合治水対策
静岡県のホームページより
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