市原市市津地区一帯の谷津田の自然

文・写真  自然観察指導員  田中義和



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 平成4年(1992年)の冬から平成8年6月までの約4年間にわたる個人的自然観察の結果、その記録の中から得られたこの地域における自然環境の特徴、重要度などを若干述べてみたい。
 


■鳥 類
 
 57種の鳥類が観察された中で、特に注目すべき点は、フクロウ科のフクロウ一種、ワシタカ科5種が確認されたことである。
 いうまでもなく、フクロウ科の鳥やワシタカ科の鳥は、この地域の食物連鎖の頂点に位置するもので、自然度合いのバロメータであるともいえる。
 なかでも、オオタカについては、若鳥が毎冬確認され、さらに、県内では、希にしか確認されていない成鳥が平成8年1月下旬より3月下旬まで確認されたことは重要な点である。なぜならば、成鳥のオオタカは、県内では、流山で唯一繁殖が記録されているにすぎず、越冬例としても、局部的にせいぜい一羽の場合がほとんどであり、それも若鳥の確認が大半をしめている。
 オオタカは、3月に入ると、すでに繁殖準備をするといわれているが、本地区では、3月に入って2羽のディスプレー飛翔とおぼしき行動を数度目撃した。このことからも、ことによると、この近辺で営巣するのでは、と期待したが、4月に入ってからは、確認できずに終わってしまった。
 また、個人的に平成8年6月以後はフィールドへ行けなくなり、それ以後の記録をとれなくなってしまい、誠に残念であった。
 これは、私自身の都合に加えて、この頃から急に自然豊かなこの地域で無神経に活発化しはじめた道路工事により、この周辺の進入路が通行不可能になったことが大きな理由であったことも事実である。
 いずれにせよ、オオタカの繁殖確認は、次にあげるような理由から甚だ困難を伴うものである。
  1. 警戒心が非常に強い鳥であり、むやみに営巣圏内に入ると営巣放棄の恐れがあること。
  2. 動作が俊敏で、同じ科のトビやノスリなどのように上空をゆっくり飛び廻ることが少ないうえに、林間を巧みに隠れながら飛翔すること。
  3. 行動範囲が広いこと。
  4. この一帯は密猟無法地帯で、繁殖が明らかになれば、真っ先にヒナがねらわれる危険性があること。
 これらの理由があげられ、そのために個人で調査をするには限度があり、組織的な調査グループの編成と活動が早急に望まれるところである。
 しかし、繁殖こそ確認できなかったが、成鳥のオオタカが滞在するということだけでも、この地域一帯の自然条件が豊かであるということの疑う余地のない証明であると思っている。



オオタカの成鳥(♂♀不明。杉の木の上)




オオタカの成鳥(上は♂、下は♀)



(注)写真は、いずれも平成8年3月20日に撮影したもの。




■昆 虫
 
●トンボ
 一般的なシオカラトンボ、オオシオカラトンボ、オニヤンマ、ギンヤンマ、ナツアカネ、アキアカネ、ノシメトンボ、アオモンイトトンボ、アジアイトトンボなどのほかに、注目すべきは、サラサヤンマが確認された点である。
 本種は、ハンノキなどが茂る湿地に生息するという特殊な環境に適応した種であり、県内でも固体数は少ない。また、県内北部では、希なヤマサナエも確認している
 
●チョウ
 市原市北部に生息するチョウのほとんどが生息している。
 


■哺乳類
 
 リス、イタチ、ヒミズ、ノウサギなど、市内でも急減している哺乳類を確認している。
 


■植 物
 
 ミツバウツギの群落が小川の岸に沿って見られ、ハンショウズルも林縁に極めて少数だが確認された。
 これらの2種は、市原市でも少ない植物で、近年減少傾向が目立つ種である。
 その他、タコノアシ(日本版レッドデータ・絶滅危急種)、ニリンソウなどが確認された。
 


■考 察
 
 以上が本地域の観察概要であるが、動物、植物をざっと述べさせていただいた中で、この地域が市原市北部の丘陵台地の自然を色濃く残した重要な一帯であるということを十分にご理解いただけるものと思います。
 近年、身近な自然の大切さを振り返る風潮が社会的に盛りあがっておりますが、わが市原市の現状は、海を埋め立て(市民が自由に浜辺で遊べる海岸線は全くゼロ!)、ゴルフ場で里山を破壊し、多くの谷津田を開発で失っている(今もこれは続いているが)。
 目先の利益ではなく本当に価値あるものとはいったい何なのか? 私たちは、50年、100年先を見すえた視点で自然環境を守る必要に迫られているように感じています。
(1998年12月)
 
 
 
  

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