砂浜が消える!? 九十九里海岸の侵食
〜TBSテレビ「噂の!東京マガジン」が放送〜
千葉県自然保護連合 中山敏則
(2014年)8月31日放送のTBSテレビ「噂の!東京マガジン」が「噂の現場」のコーナーで九十九里浜の侵食問題をとりあげた。タイトルは「急速な海岸侵食! 九十九里浜が九十九里浜でなくなる日」である。私も千葉県自然保護連合事務局長の肩書きで登場させてもらった。放送内容の一部はYouTube(インターネット動画サイト)でも配信されている。
いちばんの原因は海食崖の侵食を止めたこと
番組は、このままでは九十九里浜が消失するという危機的状況をわかりやすく報じてくれた。そのいちばんの原因は人間の行いであることも伝えた。
九十九里浜の両端には、屏風ヶ浦(びょうぶがうら)と太東崎(たいとうさき)の海食崖(かいしょくがい=波浪の作用によって形成される海岸の急崖)がある。その海食崖が太平洋の荒波に削られることによって大量の土砂が堆積していた。土砂は沿岸流の力でゆっくり移動し、堆積する。一説によれば、九十九里浜は6000年間で形成されたという。
こうした自然の営みが人の手によって阻害された。1960年代以降、屏風ヶ浦と太東崎の崖の前面に県が消波堤を築いた。目的は海食崖の侵食を食い止めることだ。そのため、九十九里浜への砂の供給量が激減した。また、漁港の防波堤整備が潮の流れを変えた。さらに、水溶性ガス採掘による周辺地域の地盤沈下も指摘されている。
人工岬は税金のムダづかい
県は、1988年からコンクリート製人工岬「ヘッドランド」の建設をはじめた。うたい文句は「九十九里浜の侵食防止」である。ところが、ヘッドランドは侵食を加速している。そればかりか、九十九里浜の景観や生態系を壊している。
私は、番組のインタビューで一宮海岸(南九十九里浜)のヘッドランドについてこう訴えた。
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「ヘッドランドは全然効果がでていない。税金のムダづかいである。(T字型の)ヘッドランドの縦堤の脇には砂がつくが、ヘッドランドとヘッドランドの間は離岸流でえぐられてしまう。そこで県は毎年、トラックで砂を運んでそこに入れている。ヘッドランド工事は中止し、砂の投入だけにしてほしい」
元県職員(土木技術者)の永田正則さんは、こう話してくれた。
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「海に構造物をつくったら必ず問題が起こる。自然のバランスに人間が手をつけると、なんらかの影響がでる。そんなことは、土木技術者であればわかっていることだ。九十九里浜のヘッドランド工事は1988年にはじまった。しかし、ヘッドランドは侵食防止に役立たない。私たちは、そのことを言っていた。だが、公共土木事業はいったんはじまると止まらない。地元の土建業者やゼネコンが仕事にありつけるからだ。議員バッチをつけた連中も動く」
「いちど人間が自然に手をつけたら、ずっと手をつけざるをえない」
番組の最後で、司会者の森本毅郎氏がいいことを言った。
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「屏風ヶ浦は長年をかけて自然に削られてきた。あるとき、それを人工的に止めた。そこから(九十九里浜の侵食が)はじまった。いちど人間が手をつけたら、ずっと手をつけざるをえない。自然に手をつけるということは、“お金がかかるぞ!”という覚悟が必要になるということだ。そういう覚悟がなければ、自然にまかせるというイギリス方式も考えなければならない」
自然にまかせるイギリスとアメリカ
イギリス方式というのは、たとえばドーバー海峡に面する有名なホワイトクリフである。屏風ヶ浦や太東岬と同じ海食崖だが、前面の海域に消波堤などはまったくない。人間が侵食を防ぐということはせず、自然のままの姿になっている。
アメリカも同じだ。たとえばカリフォルニア州サンタバーバラでは、侵食が進む海食崖の上で住宅が崩壊寸前になっていても、海食崖対策はしない。アメリカではこのような場合、海辺などの危険な場所に家を建てた個人の責任であって、行政には責任はないという考え方が主流になっている。公共土木事業で解決しようとする日本と対照的である。番組は、そういう基本的な問題も提起してくれた。
(2014年9月)
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〈注1〉ホワイトクリフの前面海域に消波堤などが一切ないことについては、日本財団『続日本の海岸はいま…九十九里浜が消える!?』を参照。
〈注2〉カリフォルニア州サンタバーバラの海食崖については、日本財団『日本の海岸はいま…九十九里浜が消える!?』を参照。
「ヘッドランドの縦堤の脇には砂がつくが、ヘッドランドとヘッドランドの
間は離岸流でえぐられてしまう」という私の話を番組が図で表してくれた
一宮海岸(南九十九里浜)で建設中の人工岬「ヘッドランド」
ヘッドランドがほぼ完成している2号と3号の間は、未完成のところ(たとえば9号
と10号の間)や工事対象外(10号の手前の海岸)よりも侵食が激しくなっている。
ほぼ完成した2号と3号の間は、未完成や工事対象外よりも侵食が激しい。
向こう側に見えるのは2号ヘッドランド。手前はコンクリートの緩傾斜護岸。
侵食を加速させるヘッドランド
ヘッドランドが完成形に近づくにしたがい、砂浜の侵食が激しくなっていった。
ヘッドランドは侵食を防ぐどころか侵食を加速するということが一目瞭然である。
そこで県は、2009年度から養浜(土砂の投入)を始めた。
ヘッドランドが34基つくられた茨城県鹿島灘海岸では、海岸への立ち入り
が禁止されていて、町のあちこちに立入禁止のポスターが貼られている。
このままでは、一宮海岸(南九十九里浜)もこうなることが確実である。
★関連ページ
- 九十九里浜侵食の根本問題〜人為的作用が侵食を加速(県自然保護連合事務局、2010/5)
- 一宮海岸のヘッドランドで県を質す〜千葉県議会県土整備常任委員会(2010/6/14)
- 「官民協議会で合意形成をはかる」〜九十九里浜のヘッドランドで県と交渉(2010/4/26)
- 九十九里浜ヘッドランドに疑問相次ぐ〜一宮の海を考える集いに140人(2010/4/10)
- 目に余る九十九里浜の惨状〜ヘッドランド(人工岬)工事の現場を見学(2010/4/3)
- 外国では“構造物をつくらない侵食対策”が主流に〜『海辺に親しむ』(山海堂発行)より(中山敏則、2010/6)
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