「官民協議会で合意形成をはかる」
〜九十九里浜のヘッドランドで県と交渉〜
南九十九里浜(一宮海岸)の破壊が進んでいる問題で、千葉県自然保護連合は(2010年)4月26日、県の担当課(河川整備課)と交渉しました。
県は一宮海岸でヘッドランド(人工岬)を10基も工事中です。工事によって砂浜の侵食がいっそう激しくなっています。また、景観や生態系が破壊され、サーフィンに適した波も消失しつつあります。離岸流(岸から沖へ向かう強い流れ)を発生させ、海水浴禁止や立入禁止の場所も増えています。
交渉では、「ヘッドランド工事を一時中止し、一宮町が設立する官民協議会の議論や検討結果を今後の侵食対策に反映させるべき」と要請しました。
県は、ヘッドランドがもたらしている弊害は否定したものの、「今年度予定している工事はすぐに着手せず、協議会における議論の様子をみる」「協議会で合意形成をはかる」と回答しました。
以下は、主なやりとりです。
■総事業費は115億円、進捗率は55%
◇自然保護連合
一宮海岸(南九十九里浜)におけるヘッドランド工事の期間や事業費は?
◆県
昭和63年度(1988年度)に着手し、平成29年度(2017年度)に終了する予定だ。総事業費は115億円、事業費ベースの進捗率は55%(約63億円)である。
■工事の一時中止を求める署名への対応
◇自然保護連合
ヘッドランドが侵食を加速させ、環境を破壊していることから、工事の一時中止と見直しを求める署名が4万4060筆も県に提出された。これをどう受け止めているのか。
◆県
署名は、6号ヘッドランド工事(平成21年度事業)の一時中止を求めている。しかし、6号については、横堤の一部に捨て石を投入した。このまま放置すると波で壊れてしまうので、その部分(横堤200メートルのうち38メートル)だけは工事を終わらせることとした。このことは、地元の関係者からも了解をえている。工事は4月中に完了する予定である。
■協議会の議論の様子をみる
◇自然保護連合
一宮町は、海岸を魅力あるものとするため、住民参加の協議会(官民協議会)を設置することにしている。そこでの議論や検討結果を今後の侵食対策に反映させてほしい。
◆県
今年度予定しているヘッドランド工事はすぐに着手せず、協議会における議論の様子をみることにする。
なお、今年度(平成22年度)の予算に計上しているのは4号と6号であり、事業費は3億円である。このほかに養浜事業(砂の搬入)が2000万円である。
■県も協議会の事務局に加わる
◇自然保護連合
県は、協議会にどのようにかかわるのか。
◆県
県も一宮町といっしょに事務局に加わる方向で検討している。協議会は、学識経験者のほか、海岸利用者や住民などの代表で構成されると思う。また、会議は公開になる。
■生態系の専門家も委員に
◇自然保護連合
協議会の委員には、一宮海岸の自然や生態系にくわしい専門家も加えてほしい。
◆県
そういう要望があったことを町に伝える。
■ヘッドランドによる侵食加速は否定
◇自然保護連合
ヘッドランドは侵食を加速している。たとえば、ほぼ完成している2号と3号の間は、未完成のところ(たとえば5・6号間、9・10号間)よりも砂浜の侵食が激しくなっている。この点をどう考えているのか。
◆県
たしかに2号と3号の真ん中は砂浜がえぐられて深くなっている。しかし、ヘッドランドの縦堤の両側には砂がついている。また、ヘッドランドをつくらなくても侵食は進む。
◇自然保護連合
ヘッドランドをつくっていない隣の太東海水浴場は侵食がみられないし、砂が安定している。これをどうみるのか。
◆県
10基全部が完成形にならないと、ヘッドランドの効果があるかないかは判断できないと考えている。ほんとうは30基ぐらい必要かも知れない。
◇自然保護連合
養浜事業で搬入した砂の量と金額は?
◆県
一宮海岸にこれまで運び入れた砂は、全体で7万立方メートル、金額は9700万円である。
■官民協議会で合意形成をはかる
◇自然保護連合
三番瀬の市川市塩浜護岸改修事業の場合は、順応的(じゅんのうてき)管理の手法で工事を進めている。予測の不確実性を認め、計画を継続的なモニタリング評価と検証によって随時見直しと修正を行いながら工事を進めるという手法である。
また、住民参加組織(「市川海岸塩浜地区護岸検討委員会」)において合意形成をはかっている。一宮海岸の侵食対策も、そういう手法を採用してほしい。
◆県
今後は、一宮町が設置する官民協議会で合意形成をはかることになる。一方、順応的管理については、ヘッドランド工事も従来から順応的管理の手法でやっている。検証しながら工事を進めているということだ。
◇自然保護連合
検証結果を記載した資料をいただきたい。
◆県
後日、提供する。
■歴史的環境や自然環境を壊している
◇自然保護連合
九十九里浜は、日本を代表する砂浜の一つである。「日本の白砂青松100選」や「日本の渚100選」にも選定されている。そういうすぐれたう歴史的環境や自然環境が、ヘッドランドによって台無しになりつつある。この点はどうなのか。
◆県
侵食対策はやらなければならないことであり、そのためにヘッドランド工事を進めている。
◇自然保護連合
県が一宮海岸で進めている侵食対策は、工法があまりにも反自然的である。ヘッドランドもそうだが、コンクリートの防潮堤、離岸堤、テトラポット、ジャカゴ(蛇籠)などもそうだ。これらによって、たとえば、アカウミガメの上陸や産卵に大きな影響がでている。また、「十二社祭り」で神輿(みこし)を担ぐ人々は、砂浜ではなくコンクリートの上を走らざるをえなくなっている。
◆県
ヘッドランドなどは、砂浜や海岸の侵食を防ぐためにやっている。
■ジャカゴはたいへん評判が悪い
◇自然保護連合
とくに、ジャカゴはたいへん評判が悪い。鉄線で籠(かご)をつくり、その中に砕石を詰め込んであるが、これは、河川で使用されるものではないか。それをなぜ海岸で用いるのか。工事現場のような観を呈しており、景観や生態系を破壊している。また、切れた鉄線で子どもが大ケガをしたこともあり、きわめて危険である。
◆県
ジャカゴは、後背地の崩壊を防ぐための災害復旧事業で設置した。予算(国庫補助金)措置の都合上、できるだけ費用のかからないものを、ということでジャカゴを設置した。
◇自然保護連合
鉄線がほどけている部分は危険だが、その補修はどうするのか。
◆県
地元から要望がでていないので、いまのところ補修の予定はない。
■自然や生態系配慮の方法を採用してほしい
◇自然保護連合
九十九里浜にはミユビシギが1000羽以上飛来し、ラムサール条約の登録基準を突破している。これだけみても、たいへんすぐれた海岸(渚)である。そういう海岸で人工の構造物をつくるのはよくない。自然や生態系、景観などを配慮した方法を採用してほしい。官民協議会でそういうことも議論されると思うので、それを今後の侵食対策に反映させてほしい。
◆県
要望の内容はわかった。
* *
以上です。
一宮海岸(南九十九里浜)で建設中の人工岬「ヘッドランド」
ほぼ完成している2号と3号の間は、未完成のところ(たとえば9号と10号の間)
や工事対象外(10号の手前の海岸)よりも侵食が激しくなっている。
ヘッドランドがほぼ完成している2号と3号の間は侵食が加速。(写真は2010年2月時点)
工事中のヘッドランド
ほぼ完成した2号と3号の間は、未完成や工事対象外よりも侵食が激しい。
向こう側に見えるのは2号ヘッドランド。手前はコンクリートの緩傾斜護岸。
ジャカゴ(蛇籠)の護岸。鉄線で組んだ籠(かご)に砕石を詰め込んである。景観や生態系を
破壊するばかりでなく、切れた鉄線で子どもが大ケガをしたこともあり、きわめて危険である。
産卵のために何度も上陸を試みたアカウミガメの足跡。ジャカゴ護岸に阻まれて産卵
を断念し、海へ戻っていった。(九十九里浜自然誌博物館の秋山章男館長が撮影)
コンクート防潮堤の倒壊を防ぐため、防潮堤の前にテトラポットが置かれ、アカウミガメの上陸や産卵を
拒んでいる。向こう側に見えるのは9号ヘッドランド(工事中)。すさまじい環境破壊である。
県が設置した看板。ヘッドランド工事によって立入禁止や海水浴禁止の場所が増えた
★関連ページ
- 南九十九里浜のヘッドランド工事は見直しへ〜第2回「一宮の魅力ある海岸づくり会議」(2010/9/19)
- 一宮海岸のヘッドランドで県を質す〜千葉県議会県土整備常任委員会(2010/6/14)
- 九十九里浜ヘッドランドに疑問相次ぐ〜一宮の海を考える集いに140人(2010/4/10)
- 目に余る九十九里浜の惨状〜ヘッドランド(人工岬)工事の現場を見学(2010/4/3)
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