外国では“構造物をつくらない侵食対策”が主流に

〜『海辺に親しむ』(山海堂発行)より〜


千葉県自然保護連合 中山敏則



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■外国では主流となりつつある養浜
  〜構造物によらずに海岸を守ることが可能〜

 山海堂が発行した『海辺に親しむ』(財団法人河川環境管理財団監修、『海辺に親しむ』編集委員会編著)の中に、「砂浜を人工的に回復させる試み」という項があります。
 こんなことが記されています。
    《海岸侵食によって砂浜が消失するのを食い止めるため、離岸堤や人工リーフなどの人工構造物を設置する方法があります。こうした人工構造物は、大きな波の力でも壊れないように大きなコンクリート・ブロックが用いられます。
     今まではこのように構造物による対策によって海岸侵食に対処してきました。近年、海岸侵食の対策に取り入れられるようになったのが、「養浜」です。養浜は、人工的に砂を運んできて海岸に入れ、海岸を復元することです。養浜で海岸を復元することができれば、構造物によらずに自然の砂浜にとても近い海岸が復元できます。
     昔は、砂を海岸に入れてもあっという間に消えてしまうと考えられていました。しかし最近は、入れた砂がどのような動き方をするか予測して入れる量や入れる時期を決めることができるようになったため、世界各地で採用されるようになりました。欧米の多くの国では防災施設を造ることより、養浜によって災害を防止する方向に転換しつつあります。
     養浜に使われる砂は、海底から採取した海砂などが使われています。また、砂が溜りすぎて困っている場所もあるので、そうしたところから砂が少なくて困っている場所に砂を移動させる「サンドバイパス」といった方法も取られています。
     しかし、こうした砂も有限な資源の一つですから、大切に使わなければなりません。そこで考えられたのが「サンドリサイクル」です。移動してきた砂を採取して元の場所に戻すことにより、何回も使うことができます。》

    《外国では主流となりつつある養浜。海岸に構造物をつくらなくても海岸を守ることができます。》
 まさに我が意を得たりです。千葉県は、九十九里浜の海岸侵食防止策として、ヘッドランド(人工岬)や防潮堤、ジャカゴ護岸(カゴマット)、コンクリート傾斜護岸といった人工構造物をつぎつぎと建設しています。
 しかし、これらは侵食防止に役にたっていません。ヘッドランドが完成した場所では侵食を加速させています。そればかりか、景観や生態系をメチャクチャに破壊しています。

 ヘッドランドなどの人工構造物はそういう結果をもたらすことがわかってきたのです。ですから、構造物をつくらなくても海岸を守ることができる養浜が注目されているのです。外国ではこの養浜が主流となりつつあるそうです。


■国交省技術者は方向転換しつつある

 この項を執筆したのは国土交通省の職員です。同省国土技術政策総合研究所海岸研究室長の鳥居謙一氏と同省河川局海岸室海洋開発官の横山晴生氏です。
 つまり、海岸侵食(侵食)対策にたずさわっている国交省の技術者は“構造物をつくらない侵食対策”に方向転換しつつあるのです。

 ところが千葉県は、あいかわらずヘッドランドなどの人工構造物建設を推進する姿勢です。時代遅れとなった工法にしがみついているのです。
 今月27日に発足する官民協議会「一宮の魅力ある海岸づくり会議」では、こういう侵食対策のあり方がひとつの焦点になりそうです。


■「ヘッドランド工事を休止し、養浜を進める」を基本に

 千葉県自然保護連合と地元住民の有志は、「ヘッドランドなどの構造物によらない侵食対策」を共同で検討しています。
 5月中旬に開いた第1回検討会では、「ヘッドランド工事を休止し、養浜を進める」を基本にすることを確認しました。近くの太東漁港に異常に堆積した土砂を効果的に搬入するということです。この考えは、同書が提起していることとピタリ一致しています。
 今後は、養浜の工法などを検討することにしています。また、全国や海外の事例を収集し、もっといい侵食対策がないかどうかも考察することにしています。
(2010年6月)












ヘッドランドがほぼ完成している2号と3号の間は、未完成のところ(たとえば9号
と10号の間)や工事対象外(10号の手前の海岸)よりも侵食が激しくなっている。








整備中のヘッドランド




ほぼ完成した2号と3号の間は、未完成や工事対象外よりも侵食が激しい。
向こう側に見えるのは2号ヘッドランド。手前はコンクリートの緩傾斜護岸。




ジャカゴ(蛇籠)の護岸。鉄線で組んだ籠(かご)に砕石を詰め込んである。景観や生態系を
破壊するばかりでなく、切れた鉄線で子どもが大ケガをしたこともあり、きわめて危険である。




産卵のために何度も上陸を試みたアカウミガメの足跡。ジャカゴ護岸に阻まれて産卵
を断念し、海へ戻っていった。(九十九里浜自然誌博物館の秋山章男館長が撮影)




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