目に余る九十九里浜の惨状
〜ヘッドランド(人工岬)工事の現場を見学〜
千葉県自然保護連合は(2010年)3月6日と4月3日、一宮海岸(南九十九里)で進められているヘッドランド(人工岬)工事の現場を見学しました。
■景観を破壊し、砂浜侵食を促進
現場を見てビックリです。錨(いかり)のような形をしたT字型のヘッドランド(人工岬)が10基も工事中です。そのうち2基がほぼ完成しています。コンクリートや大きな石でつくったT字型の大きな人工構造物(突堤)が沖合方向に突き出ているのです。
九十九里浜は、日本を代表する砂浜のひとつです。「日本の白砂青松100選」や「日本の渚100選」にも選定されています。しかし、その景観が台無しです。
そればかりではありません。ヘッドランドは海岸侵食対策(侵食対策)としてつくられていますが、ちっとも効果を発揮していないのです。逆に、完成しているところでは砂浜の侵食が加速しています。未完成のところや工事対象外よりも砂浜の侵食が激しくなっているのです。
また、この工事によって立入禁止や海水浴禁止の場所が増え、人が親しみづらい浜になりつつあります。
それでも県は、工事を続けることにしています。ヘッドランド(10基)の総事業費は115億円とのことです。
■ヘッドランドは実験途中の工法
外房の海岸や海岸工事にくわしい土木技術者はこう言いました。
-
「海でカタイをつくるのは弊害が多い。ヘッドランド工法はまだ実験途中のものなので、いろいろな工法を検討すべきだ。たとえば、近くの漁港などに堆積した土砂を侵食した場所に運んでくることも考えるべきだ。そのほうが自然の摂理にあっているし、効果が大きいのではないか」
■いったん中止し、完成したところを検証すべき
九十九里浜の自然(生態系)にくわしい方はこうです。
-
「侵食対策として、コンクリート護岸やジャカゴ(蛇籠)護岸(カゴマット)、テトラポット(消波ブロック)などの構築物をどんどん設置したため、アカウミガメの上陸や産卵にも大きな影響がでている。ヘッドランド工事も生態系と景観を破壊している。県は、ヘッドランドの両側に新たな砂浜ができると言っているが、それは生き物が生息しない“死んだ砂浜”だ。“生きた砂浜”ではない」
「九十九里浜は曲線になっている。そこに直線や垂直の構造物をつくるのはとんでもないことだ。完成したところをきちんと検証すべきである。それをしないまま、どんどん工事を進めるというのは許されないことだ」
■「県がやっているのはアカウミガメ撲滅作戦だ!」
九十九里浜自然誌博物館の秋山章男館長(元東邦大学教授)にも話を聞きました。秋山さんは、ヘッドランドやコンクリート護岸、ジャカゴ護岸、消波ブロックなどがいかに生態系を壊しているかをくわしく話してくれました。
一宮海岸は、アカウミガメが毎年上陸し産卵する海岸の北限です。アカウミガメは、環境省や千葉県、国際自然保護連合が絶滅危惧種に指定しています。また、ワシントン条約によって国際取引が規制されています。ところが、ヘッドランドが完成している2号と3号の海岸では、アカウミガメの上陸がまったくみられなくなりました。九十九里浜の代表的な水鳥であるミユビシギも同じです。
また、ジャカゴ護岸が設置されている場所でアカウミガメが何度も上陸・産卵を試みたが果たせずに海にもどった写真をみせてくれました。これをみると、誰もが胸がふさがれます。秋山さんは、「県がやっているのはアカウミガメ撲滅作戦だ!」と言いました。
■日本ほど海岸を醜くしている国はない
一宮海岸にくわしいサーファーはこう言いました。
-
「サーフィン大会への参加などで世界のあちこちの海岸をみているが、日本ほど海岸を醜(みにく)くしている国はない」
■一時中止を求める署名4万4000筆を提出
「生物多様性が大事」などと盛んに宣伝しながら、じっさいには、生物多様性豊かな自然や歴史的景観をメチャクチャに破壊している千葉県の姿が浮き彫りになりました。
なお、「一宮の海岸環境を考える会」は2月4日の設立後、ヘッドランド工事の一時中止と見直しを求める署名を短期間で4万4000筆集め、県知事に提出しました。
一宮海岸(南九十九里浜)で建設中の人工岬「ヘッドランド」
ほぼ完成している2号と3号の間は、未完成のところ(たとえば9号と10号の間)
や工事対象外(10号の手前の海岸)よりも侵食が激しくなっている。
ヘッドランドがほぼ完成している2号と3号の間は侵食が加速。(写真は2010年2月時点)
工事中のヘッドランド
ほぼ完成した2号と3号の間は、未完成や工事対象外よりも侵食が激しい。
向こう側に見えるのは2号ヘッドランド。手前はコンクリートの緩傾斜護岸。
ジャカゴ(蛇籠)の護岸。鉄線で組んだ籠(かご)に砕石を詰め込んである。景観や生態系を
破壊するばかりでなく、切れた鉄線で子どもが大ケガをしたこともあり、きわめて危険である。
産卵のために何度も上陸を試みたアカウミガメの足跡。ジャカゴ護岸に阻まれて産卵
を断念し、海へ戻っていった。(九十九里浜自然誌博物館の秋山章男館長が撮影)
コンクート防潮堤の倒壊を防ぐため、防潮堤の前にテトラポットが置かれ、アカウミガメの上陸や産卵を
拒んでいる。向こう側に見えるのは9号ヘッドランド(工事中)。すさまじい環境破壊である。
県が設置した看板。ヘッドランド工事によって立入禁止や海水浴禁止の場所が増えた
★千葉県庁のホームページ
★参考ホームページ
★関連ページ
- 南九十九里浜のヘッドランド工事は見直しへ〜第2回「一宮の魅力ある海岸づくり会議」(2010/9/19)
- 一宮海岸のヘッドランドで県を質す〜千葉県議会県土整備常任委員会(2010/6/14)
- 「官民協議会で合意形成をはかる」〜九十九里浜のヘッドランドで県と交渉(2010/4/26)
- 九十九里浜ヘッドランドに疑問相次ぐ〜一宮の海を考える集いに140人(2010/4/10)
このページの頭に戻ります
「ニュース」に戻ります。
「九十九里浜」に戻ります。
トップページ | 三番瀬 | 産廃・残土 | ニュース | 自然・環境問題 | 房総の自然 |
環境保護団体 | 開発と行財政 | 催し物 | 自然保護連合紹介 | 書籍・書評 | リンク集 |