何のための要望書か


八尋信英(千葉工業大学 工学部 工業化学科)




 千葉県の環境生活部廃棄物指導課のホームページを開くと、

 <新着情報>産業廃棄物処理施設の許可制度の改善に向けての緊急要望(平成19年9月18日)

 なるものが記されている。
 これは、平成19年8月21日に下された千葉地裁の判決に対して、廃棄物処分場業の許認可権者が、自分達の保身のための言い訳と、自分達の正当性を主張するパフォマンスにしか見えないことから、産廃行政の問題について一石を投じることにした。

 今回千葉県が環境省に対して要望したことは2点である。

 要望事項1の現状と課題では、
  • 現行制度では想定されていない範囲の審査を求められた
  • 具体的な基準がなく審査に苦慮している
  • 国において、経理的基礎に係る具体的かつ客観的な審査基準を早急に明確にする必要がある

 要望事項2の現状と課題では、
  • 適正な配慮をなすべき対象地域や対象施設が具体的に明記されておらず、都道府県に裁量権も無いため、地域の実情に応じた取り組みができず、各地でトラブルが起こっている
  • 「適正な配慮」の内容を具体的に規定し、基準を明確化する必要がある
  • 従来から、八都県市首脳会議で要望してきたが、いまだ実現していない
 とし、国にその対応を求めているようである。

 しかしこの様な要望の内容が、今になって緊急性を帯びてきたのだろうか。
 「各地でトラブルが起こっている」としているが、今日、昨日起こった問題ではない。また今回の裁定が下された旧海上町と銚子市境界部付近の建設計画問題だけではないことは、自ら各地と記していることからも明確である。
 「具体的な基準がなく審査に苦慮している」としているが、審査基準が曖昧であることを認識しつつ、これまで処分場建設の許認可権を執行していたことも事実である。処分場建設に反対する地元住民と事業者の間での争いは、今回の境界部付近の建設計画問題のみならず、富津市の安定型処分場問題もある。しかし、産廃問題に関心があるところからは、はっきりとした意思表示の狼煙が揚がるが、心配しつつも表面化できない住民は泣き寝入りの状態ではないだろうか。

 処分場建設が表面化したとき、住民のほとんどは水質汚染等の蓋然性を根拠に、許認可権者に異議を申し立てているはずである。しかし許認可権者は、不備があると言う廃掃法を根拠に許可したことから、住民は仕方なしに業者との間での争いとして、司法の場に判断をゆだねたのである。

 今回住民は、廃掃法を基に一辺倒の流れ作業しかしない許認可権者に対しての行政訴訟を起こしたのであるが、その一辺倒としての流れ作業に対して、司法の判断が下ったのである。その上で許認可権者は上告しているが、廃掃法の不備を十分認識しつつ許可した者に、否がない行為と言えるだろうか。

 要望書の中身は、資格審査の不備を訴えているのであって、その不備がいつまでも直らないことに対する是正を求める内容のようである。再三審査の不備を環境省に訴えて、環境省が適正な回答を出さないのであるならば、許認可権者は環境省の不作為の行為とし、今回の判決が出る前に、司法での判断を仰ぎ、自らの産廃行政を必守すべきではないだろうか。いみじくも住民は行政訴訟を起こし、許認可権者には不都合な結果が出てしまったが、逆の結果が出ていても、許認可権者は環境省に同様の要望書を出していたか疑問である。

 この時期に出された緊急要望書、この要望書の本当の目的は、何だったのだろうか。
 もし千葉県の要望が事実であるならば、他の都道府県(八都県市首脳会議のメンバーを除いて)全てが同じ問題を抱えていることになるし、それを放置していた全ての許認可権者の産廃行政に問題があることになる。
 産廃処分場建設計画が出ると「住民の反対によって処分場を造ることができない」と言われるが、この様な状況下での産廃行政ならば、処分場建設に反対するのは当然ではないだろうか。

(2004年11月)   




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