スーパ一堤防事業は合理性がない
〜江戸川区スーパー堤防事業取消訴訟の第6回口頭弁論配付資料〜
2013年4月17日、江戸川区スーパー堤防事業取り消し訴訟の第6回口頭弁論が東京地裁で開かれました。傍聴者は、事業対象地の住民など95人です。
訴訟弁護団が傍聴者に資料を配付してくれました。原告側が裁判所に提出した「準備書面6」の内容を簡略化したものです。スーパー堤防事業と一体となった本件区画整理事業の問題点や原告の主張をわかりやすくまとめてあります。
第6回口頭弁論配付資料 |
裁判の傍聴に来られた皆さんへ
2013年4月17日
江戸川区スーパー堤防事業取消訴訟弁護団
第1 スーパ一堤防事業は不要かつ不必要な事業
であることを示しています
1.完成までに2200年を要する?非現実的な事業です
2010年度に行われた財務省の調査では、スーパー堤防事業の重点整備区間における整備率は12.4パーセント。このうち江戸川の整備率は10.8パーセントとされていました。この数字でも、事業の完成までに400年、累計事業費は12兆円かかると、批判が集中したのはご存じのとおりです。
ところが2012年に会計検査院が調べ直した結果を公表し、水増しのあったことがはっきりしました。スーパー堤防事業の整備率、要整備区間に対する整備率、重点整備区間における整備率は、ともに1.1パーセントにすぎません。重点整備区間の江戸川の整備率にいたっては、0.7パーセントにすぎなかったのです。
この結果で単純計算すると、事業の完成までに実に2200年を要します。その間の累積事業費は、文字どおり天文学的な数字になるでしょう。
スーパー堤防はつながらなければいくら破堤に強くても無意味ですが、その完成の見込みがありません。局所的にスーパー堤防をつくっても、川からあふれた水はスーパー堤防部分をよけて、その両脇を襲い、既存堤防の破堤の危険性を高めることになりかねません。
2.優先すべ治水対策がほかにあります
スーパー堤防事業は、およそ実現不可能な計画だといことは述べました。だから、スーパー堤防より通常の堤防の強化こそまず先に急いでやるべきだと会計検査院報告も指摘しているのです。
また、近年増加しているのが内水氾濫です。大きな川の水があふれておこる洪水ではなく、普段は大きな川に水を流していた小さな川が、増水して水位が高くなった大きな川には流せなくなり、行き場を失った水があふれて起こるのが内水氾濫です。最近は圧倒的に内水氾濫になることが多く、これは堤防強化だけでは防げません。雨が一気に河川に集中して流れこまないようにする面的な工夫が必要です。
堤防やダムで川をコントロールしようとする力づくの治水事業の時代はすでに終わっています。洪水を川にだけに集めず、地面にできるだけしみこませたり、川を安全なところであふれさせたり、川の流れを分けたりと、流域全体で行なう総会的な治水対策こそが求められているのです。
3.街づくり事業との共同実施スキームは実現可能性がありません
スーパー堤防整備事業は、街づくり事業との共同実施が予定されたものです。しかし、街づくり事業と一体となったスーパー堤防づくりはほとんど進まず、実際につくられたものの、多くはおよそスーパー堤防として完成したとは言いがたいものでした。このことは、会計検査院報告や財団法人リバーフロント整備センター(国交省から委託を受けて調査・検討業務を行っている機関)が明確に指摘しています。
事業化から25年経っても整備率が1.1パーセントの事業など、完全に行き詰まった状態です。街づくり事業との共同実施スキーム自体に欠陥があることは明らかです。
第2 本件土地区画整理事業の目的達成に
盛土は必要ありません
被告の江戸川区の事業計画書を読むと、土地区画整理事業の目的について、「本地区は一級河川江戸川沿いの密集市街地であり、道路の幅員は狭小で、かつ行き止まり道路も多く、緊急時の消防車等の進入路や災害時の避難経路を確保する上で課題を抱えているため、生活環境や安全性の面から市街地整備の必要性が急がれる地区である」と書いてあります。
これは事実と異なります。本件で問題になっている土地は窪地状ではありません。緊急時における車両の進入や道路確保に問題はありません。これまで供水や高潮等の被害もありませんでした。けっして江戸川区が言うような「安全性の面から市街地整備上の課題を多く内包する状況にあるため、早急な改善が求められている」地域ではないのです。
したがって、本件土地区画事業計画の前提事実とその評価に誤りがあることになります。
百歩譲って、この事業の目的が正当であったとしても、この事業計画にはその必要性も効率性もないことははっきりしています。
なぜなら、道路幅を広げ、緊急時の消防車等の進入路や災害時の避難経路を確保できればこと足りるからです。現状でも道路はいずれも問題ないのですが、さらに避難経路等の確保をしたいなら、普通の区画整理事業として道路幅拡張を行えばいいことなのです。
したがって、本件事業計画で条件とされている盛土は、その目的達成のためには、全く必要ないのです。
第3 本件事業計画は住民に多大な負担を強いています
本件の事業計画では、住民に対して、工事期間中は別の場所で居住し、営業等を行い(仮住まい、仮店舗)、工事完了後に新築住宅を建築したうえで戻る移転方式がとられています。
これによって、多くの住民が長期の仮住まい生活を強いられます。結果として、本件地区に戻れない住民が大半にのぼることも予想されます。
それでなくとも、住民は二度にわたる引っ越しと、生活基盤が変わることによるストレスを負うことになります。とりわけ高齢者にとっては、その精神的負担ははかりしれません。
しかも、事業が完成しても、危険な盛土の上で生活をしていかなければなりません。これによる精神的苦痛もたいへんなものです。
また、過小宅地の住民は、宅地を広げるための区有地を購入できない場合は実質的にこの地域から追い出されることになります。
さらに、住宅ローンに関して、金融機関から一括払を求められたり、新しいローンを組めないなどの問題が予想されます。
なにより、長年をかけて形成されてきた地域コミュニティが破壊されることは重大な問題です。
以上のとおり、本件事業計画は、計画目的にとって必要性のまったくない盛土を行うことによって、地域住民に過酷な負担を与えるものであり、憲法22条、29条1項、土地区画整理法1条、同規則9条1項に違反し、対象区域の住民が従前どおりの生活や営業を維持継続しえないという点で、土地区画整理法89条1項、同規則9条1項に違反するものです。
★関連ページ
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