治水対策はダムではなく遊水地で
〜田中調節池を見学〜
●洪水調節容量は八ッ場ダムを上回る
(2004年)4月10日、千葉県自然保護連合のメンバーら7人が柏市と我孫子市にまたがる「田中調節池」を見学しました。案内してくれたのは地元の方です。
この調節池は面積が1175ヘクタールもあり、広大です。ふだんは農地となっています。調節池に接する利根川の堤防は、一部に越流堤がつくられています。越流堤は3メートルほど低くなっており、大洪水のときに利根川から水が流れ込むようになっています。大洪水が起こると、農地が灌水(かんすい)するようになっているのです。実際に、5年に一度とか、10年に一度、灌水します。しかし、今は排水ポンプがつくられているため、灌水しても3日間ぐらいで排水できるとのことです。農地が灌水した場合は、不十分ながら、共済組合から補償金がだされるそうです。
田中調節池は、周辺にある「稲戸井調節池」「菅生調節池」と一体となって洪水を調節することにより、利根川の下流部における治水安全度の向上を図る施設と位置づけられています。現況の治水容量は、田中6100万立方メートル、稲戸井1890万立方メートル、菅生2850万立方メートルで、計1億840万立方メートルにおよびます。これは、八ッ場ダムの洪水調節容量6500万立方メートル(計画)をはるかに上回っています。しかも、八ッ場ダムの事業費4600億円(起債の利息を含めた総事業費は8800億円)に比べれば、調節池への公費投入はわずかです。たとえば田中調節池は、共済組合の補償金支出に対して公費が一部だけ補助されているそうですが、八ッ場ダムの事業費とくらべると微々たるものです。
●治水に大きな貢献
この事実をみれば、ダムがいかに不効率でムダであるかがわかるでしょう。江戸時代は、こうした遊水池が洪水対策の要(かなめ)になっていました。たとえば、利根川の中流部につくられた「中条遊水池」は、面積4900ヘクタール、容量1億1200立方メートルで、大洪水対策に大きな効果を発揮したといわれています。
なにをすべきかは明らかです。首都圏の水需要は横ばいもしくは減少傾向ですから、八ッ場ダムの利水目的は消え失せました。治水も、田中調節池のような遊水地を利根川の上中流部につくればいいのです。土地を買収したとしても、ダム建設よりははるかに安いカネですみます。
ただし、田中調節池の場合は、灌水したときに国からの直接補償がありません。ここは国有地を払い下げた土地であり、灌水しても補償しないということが売買契約にうたわれているからとのことです。洪水対策に大きな貢献をしているのですから、灌水したら国が応分の補償をすべきです。
●八ッ場ダムは不要!
田中調節池を案内してくれた方は、このように言いました。
「利根川の堤防は2メートルぐらい高く余裕をみてつくられている。堤防が破堤しないようにすれば、八ッ場ダムなどをつくる必要はない。それでも不安だというのなら、田中調節池のような遊水池を利根川上流で増やせばいい。200年に一度起こると想定される大洪水のために、莫大なカネを投じ、しかも自然、文化、住民生活を大規模に破壊してまでダムをつくるのはまちがっている」
参加者からは次のような声が出されました。
「現地を見て、田中調節池の大切な機能がよくわかった。洪水調節量は八ッ場ダムを上回っている。それでいて公費の投入は少ないというのだから、八ッ場ダムがいかにムダであるかがよくわかる」
「国交省が八ッ場ダムをつくりたがっているのは、ゼネコンなどを儲からせるためとのこと。そんなことはもうやめさせるべきだ。このことを痛感した」
(2004年4月)
普段は優良農地となっている田中調節池。写真の向こう側が利根川。(パンフ「県営ほ場整備事業 利根地区概要書」より)
田中調節池の越流堤(手前)。堤防の中でここだけが3mほど低くなっており、大洪水のときに利根川から水が流れ込むようになっている。
堤防から越流堤を見る。越流堤の長さは450m。右側は利根川、左側は田中調節池(農地)。
★関連ページ
- 利根川の治水対策を考える(芳賀 武)
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