「有害物質流出の恐れはない」

差し止め仮処分申請を千葉地裁が却下

─君津の放射性廃棄物処分場増設─



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 君津の放射性廃棄物処分場第V期増設をめぐって地元住民など209人が施設建設と操業の差し止めを求めた仮処分申請で、千葉地裁は2021年2月19日、住民側の申し立てを却下した。却下決定文は、有害物質が処分場外に流出する恐れはないと推測される、としている。住民側は却下を不服として東京高裁に即時抗告した。


 問題の処分場は管理型産業廃棄物最終処分場の「君津環境整備センター」だ。君津市怒田にある。事業者は新井総合施設(株)である。2011年3月の東京電力福島第一原発事故によって千葉県内で発生した放射性廃棄物を埋め立てている。1kgあたり8000ベクレル以下の放射性物質を含む廃棄物だ。

 この処分場は小櫃川上流の水道水源地に位置する。小櫃川の水は君津、木更津、袖ケ浦、富津、市原、千葉の6市35万人(県水政課の推計は約43万人)が飲み水として利用している。

 同センターの第T期処分場では、2012年1月に高濃度の塩化物イオンが漏れ出す事故が発生した。そのため、T期処分場では廃棄物の搬入をいまも停止している。その事故原因が究明されないまま、県は2018年8月に埋め立て処分場のV期増設を許可した。その増設工事が進んでいる。

 地元の住民は、小櫃川の水や地下水を飲料水や農業用水として利用している。有害物質が漏出すればそれを利用できなくなる。死活問題だ。そこで「ふるさとの水を守る会」を結成し、V期処分場の建設・操業差し止め仮処分を申請した。


事業者の主張を全面的に採用

 裁判で焦点となったのは、第T期処分場の高濃度塩化物イオン漏出である。住民側はこう指摘した。V期処分場はT期処分場と同じ構造であるため、敷設した遮水工が破損し、有害物質が漏れ出す危険性がある。漏出すると、周辺の井戸や小櫃川などから飲料水や農業用水として利用する住民に被害がおよぶ可能性がある──と。

 ところが千葉地裁は事業者の反論を全面的に採用し、こう決定した。2012年に発生した事故は遮水工の破損によるものではなく、処分場内の保有水があふれ出し、地層内に浸透したものだ、と。

 却下決定書はこう記している。
    「第T期処分場において観測された塩化物イオン濃度の上昇は、保有水が処分場外に出た結果ではあるが、その原因は、遮水工の破損による保有水の漏水ではなく、債務者主張のとおり、小堰堤法面からの溢水であったといえる」
    「(事業者は、)仮に第V期処分場に搬入される産業廃棄物に有害物質が含まれていたとしても、それらを含む水は適切に処理され、未処理のまま第V期処分場から漏えいしたり、本件処分場の敷地外に漏えいしたりする具体的な危険性は認められない旨反論している」
    「(事業者が)漏水検知システムの変更や運用の改善を図っていることなどを踏まえると、第V期処分場における浸出水処理設備について浸出水処理の機能・容量やモニタリングシステム等につき不適切であるとはいい難く、債務者において適切に運用することも十分期待できるといえる」
 事業者の主張を全面的に認める決定である。


非科学的で結論ありきの判断

 住民側弁護団の及川智志弁護士は、決定後の報告集会で千葉地裁の却下決定をこう批判した。
    「千葉地裁は、まったく非科学的な、結論ありきの判断で私たちの切なる願いを退けてしまった。どうしても納得できないところは、いまだに塩化物イオンの濃度が高いことだ。塩化物イオンの濃度が高いのは有害物質が出ているという証拠だ。第T期処分場は2012年1月に漏えい事故を起こしたため搬入停止になった。塩化物イオン濃度が1リットルあたり510mgとか800mgとか、そういう高い数値がでた。有害物質が漏れ出ているということで搬入停止になった。現在も1リットルあたり430mgという高濃度の塩化物イオンが観測されている。それは千葉県のホームページで公表されている。それを千葉地裁も認めている。判決書は漏えいについて『単なる一過性のものではないと考えることもできる』と書いている。2012年1月の漏えい事故は一過性のものではなく、その後も漏えいがくり返されていることを認めている。ところが、それは2012年に漏出した汚染水に含まれていたものの残りだという。それが地層のなかを伝わり、いまも出ているという。これはあまりにも科学的根拠のない独断といわざるをえない。こんな非科学的な、結論ありきの判断が認められるのであれば、誰も裁判所に期待できなくなる。なんのための裁判所なのか、といわざるをえない。このように、却下決定は、決定的で核心的な汚染物質漏えいの証拠を退けている。こんな不当な判決を許してはいけない。東京高裁に不服を申し立てていただきたい」
 及川弁護士の提起を受け、東京高裁に即時抗告した。

 住民は、この仮処分申し立てとは別に、県を相手どって許可取り消しを求める行政訴訟も起こしている。







問題の本質にふれない却下決定

千葉県自然保護連合 中山敏則


 仮処分申請却下の決定文を読んで目を疑った。有害な放射性物質を水道水源域に搬入することの是非にまったくふれていないからだ。

 2018年12月5日の『毎日新聞』は、小櫃川の水源地に放射性廃棄物を搬入することの違法性を指摘している。「市が1995年に水道水源保護条例に基づき水道水源保全地域に指定した場所に立地する。水道水源特措法は知事に対し、水道水源域の水質汚染を禁じている」と。ところが千葉地裁の却下決定文はこの点にひとことも言及していない。

 利根川の水源地域に放射性廃棄物を搬入することはありえないといわれている。首都圏の3400万人が水道用水として利用しているからだ。利根川はダメで、小櫃川はOKなのか。不条理である。

 君津地域ではかつて、七里川渓谷をつぶす追原ダム建設計画を中止させた。その最大の要因は県民世論を動かしたことだ。県内のさまざま団体が阻止運動に加わり、全県レベルの運動をくりひろげた。放射性廃棄物処分場の増設を阻止する運動もその教訓を活かしてほしい。東京湾奥部の三番瀬では世論を味方につける運動を全県規模で展開し、三番瀬を通る国策の第二東京湾岸道路を28年も阻止している。




千葉県教育会館で開かれた報告集会=2021年2月19日(中山敏則撮影)



却下決定後の記者会見。右奥の4人と手前右の2人が記者
=2021年2月19日、千葉県弁護士会館(中山敏則撮影)


君津地域の放射性廃棄物埋め立て地





放射性廃棄物処分場「君津環境整備センター」



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