■房総の環境保護運動を振り返る

君津地域の環境保全にかかわって

君津市 御簾納照雄



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 私の居住地は君津市の内陸部、小櫃川の中流域です。目の前には広大な水田が広がっている大変のどかな地域です。
 1988年、自宅から東へ4qほどの小櫃川支流、御腹川の流域に産業廃棄物最終処分場の工事が始まったという新聞記事をきっかけに産廃焼却施設、残土処分場、追原(おっぱら)ダム、活性炭運搬センター、盤洲(ばんず)干潟保全などにかかわり、現在に至っています。紙幅の都合により、近年発生した典型的な地域の問題について簡潔に報告します。

 2019年11月、2年任期の自治会長(区長)を引き受けている私のもとに、千葉県君津土木事務所の職員と水利組合の責任者が簡単な2枚の図面と承諾書を持って訪れました。その内容は、JR久留里駅西方面の君津市所有となっている小櫃川旧河川に建設残土20万m3を搬入するというものです。その搬入路となる一部に市道があるため、市道使用にあたり地元自治会長の承諾書が必要とのことでした。その場で押印ということでしたが、考えることがあって、のちほどということにしました。

 この年は、台風15号、19号、21号と、房総半島は大変な被害を受けました。特に10月の21号台風では、旧河川隣接のオートキャンプ場事務所が床下浸水、水田冠水、すぐ下流域では小櫃川が氾濫し、田んぼが湖のようになり、床下浸水3軒、孤立1軒が発生しました。その時、避難遅れの人がいる可能性から、消防・警察がボートを出して呼びかけるという事態も発生しました。  残土埋め立てに使用する市道について自治会員の意思を確認する意味で、自治会臨時総会を開催しました。なんとその場に残土搬入業社・K工務店の実質経営者であるK県議会議員が出席し、「すでに残土搬入を君津市が許可している」と発言するのです。

 しかし被害を受けた隣接する2自治会と、氾濫した水田の2つの水利組合は、浸水した4軒の住民の要請として「旧河川域は約40haの面積があり、30万トン以上の雨水・河川水を貯蓄でき、洪水を防ぐ役割を担っている。そこを残土で埋め立てるべきではない」と強調しました。その場で残土埋め立てに賛成した住民は、出席者の半数を超えていました。しかし、県議会議長も経験した地元選出の現職県議会議員が出席していて、同議員への忖度(そんたく)もあると考え、自治会としての残土埋め立ての意思決定はしませんでした。

 1週間後の2020年1月24日、被害を受けた自治会・水利組合・住民は、遊水池として小櫃川下流域の氾濫防止の役割を担う旧河川域の埋め立て撤回と、この旧河川域を「水面の創出、遊歩道、休憩施設等の整備を図る」小櫃川基本計画との整合性について、を主旨とする要請並びに質問書を千葉県に提出しました。これについて、県河川環境課は「残土埋め立て計画は知らなかった。遊水池機能のある場所は大切である」と答え、2020年3月、埋め立て計画はついに撤回となったのです。

 ここで大切なことは、本自治会住民もそうですが、自治会長はここの自治会のことだけ考えればよい、隣接地域や下流域の住民のことを考えるな、というものです。広く考えると、これが市区町村・県単位で発生している環境問題すべてに通ずると思います。

 現在も御腹川流域の最上流部で操業する国内最大級の管理型産業廃棄物処分場の差し止め仮処分訴訟・行政訴訟が継続しています。汚染水は小櫃川に流れ、木更津で取水され、君津・木更津・富津・袖ケ浦・市原・千葉市民の水道水になっています。

(2021年9月)







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