「官官接待」に思う


原田隆夫


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1.千葉県は実態解明と見直しに消極的

 この夏(1995年)以降、「官官接待」(税金を使った公務員同士の飲み食い)がマスコミなどで盛んに取り上げられ、その実態が次々と明らかになっている。そして、「官官接待」に批判が強まる中、全国の自治体の多くがその“見直し”を図っている。新聞報道によれば、10月中旬時点で、宮城県、高知県、仙台市など約10の自治体が「官官接待の原則廃止」を表明した。

 といっても、その内容をよくみると、「官官接待」の全廃ではない。いずれも「過度の接待は廃止する」というものであって、「意見交換や情報収集を目的とした懇談」などの「常識の範囲内での必要最小限の飲食」は今後も続けるというものである。

 ところで、千葉県庁はどうであろうか。先の9月定例県議会では「官官接待」も取り上げられ、たとえば小松実県議(共産党)が実態調査や見直しをせまった。しかし沼田知事は、中央官僚に対する接待や市町村から受けた接待については「必要最小限で節度を持って対応していると思う」としたうえで、「接待の金額は把握していない。(今後も)調査することは考えていない」と答弁している(読売、9月29日)。つまり、「本県の現状は問題がなく、実態調査や見直しは必要ないとの考えを明確にした」(同紙)のである。

 また、千葉ニュータウン整備事業にからんで、千葉県企業庁が1993、94年度の2年間で、関連市町村職員などとの懇談を約450回も繰り返し、総額5000万円もの会議費(会議を名目とした宴会費)を支出していたことを新聞が取り上げた。

 しかし、この報道内容についても、県幹部はまったく問題を感じていない。たとえば、同事業を担当している企業庁ニュータウン整備部の部長は、「土地買収などでは(市町村担当者との)信頼関係が欠かせないので懇談も必要」と発言し(読売、10月12日)、県総務部長も「企業庁には、民間企業のような『営利的』業務がある。地元対策の会合も多く、一概に高額だとは思わない」とか「問題ない」としている(同、10月3日)。

 このように、千葉県は、「官官接待」についてまったく問題を感じていないし、見直すことは考えていない。県予算の「食糧費」が1992年度以降、年々減少していることが報道されているが、これも「財政事情の悪化による経費節減が、結果として食糧費の減少に結びついた」(朝日、9月30日)ものである。

 ちなみに、千葉ニュータウン整備事業にからむ「官官接待」については、その後の市民オンブズマンの調査で、1991、92年度の2年間も5000万円を超える支出があったことが明らかになった。また、県企業庁の1994年度の会議費(食糧費)の決算額は1億9139万円であることも分かった(毎日、11月2日)。


2.全国有数の“官官接待県”

 沼田知事は、官官接待問題について「必要最小限で節度を持って対応している」とか「問題ない」としているが、これは大ウソである。千葉県庁でも税金を使った公務員同士の飲み食いはすごいものがある。むしろ、企業庁や土地開発公社、都市公社、道路公社、日本コンベンションセンター(幕張メッセを運営する第三セクター)など、大型開発にかかわる公営企業や外郭団体を多数かかえる千葉県は、全国有数の“官官接待県”といっても過言ではない。

 20年前になるが、1975年の5月、企業庁の職員が職を辞して企業庁運営の乱脈ぶりを告発したことがある。この内部告発をきっかけにして明らかになった点をいくつかあげると──
  • 企業庁は、松尾台工業団地を造成する際、自民党県議の斡旋によって「三共ブロック」なる会社の所有地をまわりの14倍の値段で買った。同社はこの売却で巨利を得た。

  • 同団地造成に関して、「協力費」として「地元協力会」に2700万円を交付した。しかし、この金の振込先は高橋啓三郎・松尾町長をはじめとする一部の有力者の個人口座であり、その金は地元住民に知らされないまま管理されていた。

  • 企業庁は、県地域振興公社(企業庁の外廓団体)にたいして「雑草除去業務委託費」として毎年2000万円近くの委託費を支出していたが、このうち名目通りに使われたのは300万円くらいであった。企業庁と公社が「雑草除去費」の“水増し”を打ち合わせ、実際は草も生えない区画に雑草が生えたことにし、「伺い書」「委託書」「成果確認書」などの一連の公文書を偽造して年間1000万円以上の公金を流用していた。なお、同公社の幹部のほとんどは、企業庁の現職幹部でもあった。

  • 地域振興公社発行の膨大な数のタクシーチケットが企業庁の幹部をはじめ係長にまで配られ、私用に使われていた。一部の幹部は、家族にまで使わせていた。

  • 企業庁は「会議」を名目にした宴会をひんぱんに開き、その費用の一部を公社に“ツケ回し”していた。その飲食費は、千葉市内の4料亭だけで年間2600万円にのぼり、そのうち公社へのツケ回し分は約1000万円であった。なお、企業庁会計には、「会議費」として年間1億2000万円が計上されていた。(以上については、75年6月10日付け読売新聞、同年5月31日付け朝日新聞などを参照)。

 企業庁の幹部は、県議会の企業常任委員会で以上の事実を認め、「あれこれとミスがあったことは事実であり、申し訳ない。今後改めるべきことは改める」と頭をさげてあやまった。

 しかし、あやまったのは形の上だけで、ほとぼりがさめると、再び同じようなことを繰り返している。たとえば、公費による幹部などの飲食費肩代わりは今も日常茶飯事的におこなわれている。
 県土地開発公社や県都市公社などの職員が知事部局や企業庁の関係各課の幹部を公社の費用で接待するのはよくみられることである。これはよく言われていることであるが、各公社の理事長は、年間1000万円とか数千万円の「交際費」をもっていて、この金が県幹部や政治家向けの接待費として自由に使われている、という。また、タクシーチケットの私的利用も幹部の間ではほとんど毎日のように行われている。

 ちなみに、筆者はかつて、企業庁が担当している開発事業の許認可事務にかかわったことがあるが、ちょっとした手続きの便宜を図っただけで、上司とともに高級料亭に案内され、金額にすれば1人1万円は下らないような接待にあずかり、驚いたことがある。あとで聞いてみると、そうしたことは日常茶飯事のことで、幹部クラスになるとたいへん豪華なもてなしになるとのことであった。


3.臨調「行革」以降、ひどくなった腐敗

 臨調「行革」以降、こうした腐敗はいっそうひどくなっている。企業庁や公社だけでなく、知事部局の間でも税金を使った飲み食いが日常茶飯事的におこなわれているのである。知事部局の課と課で接待しあうこともあるし、課内部の職員同士の飲み食いにも税金が平気で使われている。

 タクシーチケットの私的利用も同じである。各職場でおこなわれている各種の飲み会の際、幹部職員などは必ずといってよいほど公用のタクシーチケットを利用する。これはほとんどの職場でみられることであり、本庁では、係長クラスになるとタクシーチケットを飲み会のたびに自由に使うことができるようである。安房地域や夷隅地域など遠くから通勤している職員が多いことを考えると、タクシーを1回使えばどれほどになるか想像がつくであろう。こうした実態はタクシー会社がよく知っていることであるが、タクシー会社にしてみれば大変な儲け口になっているので、暴露などをすることはない。

 ところで、日常的に行われている「官官接待」の費用はどこから出るかというと、いわゆる「食糧費」から出ることは少ない。つまり、流用である。

 内実を少し書くと、まず一般的なのは職員の旅費である。じっさいには出張しないのに、課内の職員が何回も出張したように書類を作り、この分を飲食費にあてるのである。つまり、一時期問題になった「カラ出張」である。この場合、書類上出張したことになっている職員はそのことを知らないケースが多い。旅費が流用しやすいのは、現金化しやすいことと、税金がかからないためである。

 また、消耗品費や印刷製本費なども飲み食いに流用されており、領収書の偽造が日常的におこなわれている。たとえば、愛知県や秋田県では、市民オンブズマンや新聞社の調べなどで、県が食糧費を使って接待などで飲食した時、飲食店から受け取った請求書のうち、あて先や明細、日付の書かれていないものや改変されていたものが大量に発見された。また、大阪府や茨城県、沖縄県では、会計検査院の検査によって、国の補助金である公共事業費の事務費に含まれる食糧費が事業とは無関係の目的外に流用され、書類が改ざんされていたことが判明した。

 こうした書類の大規模な改ざんは、千葉県でも日常的に行われているのである。したがって、たとえば千葉ニュータウン事業にからむ会議費(食糧費)が2年間で5000万円とか、県企業庁の1994年度の会議費(食糧費)の決算額が約2億円というのは、表向きのものであって、実際に飲み食いに使われている分の氷山の一角でしかない。飲み食い費の大半を占める流用分については、公文書公開制度を利用しての開示では調べることが不可能なのである。

 千葉県では現在、財政事情の悪化によって経費節減が進められており、飲食費として流用されていた旅費や需用費(消耗品費、食糧費、印刷製本費)などが削減されているので、全体的には、飲み食いは数年前と比べれば減っている。

 しかし、公費による飲み食いそのものは相変わらず続いており、また、タクシーチケットの私的流用は相変わらず激しい。本庁についていえば、会館、料亭、スナックやタクシー会社などから請求書が届けられ、多くの課で支出担当者がその対応(つまり、書類改ざん)に頭を悩ましている。料亭やタクシー会社から次々と請求書が届けられてくるために、当該年度で支払いできず、借金が次年度に繰り越され、過年度分の支払いややりくりに追われている課も多いと聞く。こうした書類改ざんや過年度分飲食費の捻出などで連日残業や休日出勤を強いられている担当者も多い。国の会計検査がある時は徹夜状態が何日も続くという課も少なくない。

 本来は、監査委員がこうしたことを厳しくチェックしなければならないのだが、よく知られているように、監査委員は知事の任命であり、県職員OBなどで構成されているので、チェックする気はさらさらない。また、監査委員の監査を手助けする監査委員事務局の職員も一般の県職員であり、2、3年後には監査される立場に回るため、不正流用などが分かっていても、見てみぬふりをしている。かつて、監査委員事務局の職員がある職場の監査を厳しくおこなったために、この職員は左遷された、という話もあるくらいである。

 酒好きが課長になった知事部局のある課では、週に1日以上の割合で公費を使った飲み食いがおこなわれ、1年間に数百万円におよぶ予定外の飲食費を支出せざるをえなくなった。そのために、年度末に恒例のようにおこなわれていた職員の県外視察がとりやめになった、という話も耳にしている。

 沼田知事や蕨総務部長などは、こうした実態をよく知ったうえで、県議会で「問題ない」とか「節度をもって対応している」などと答弁しているのである。


4.県政運営の裏側

 税金を払っている県民、あるいは暮らしの向上などを願っている県民の立場からみれば、県政運営はたいへんひどい状況になっていると言っても決して言い過ぎではない。

 ほんのいくつかの例をあげると、まず、税金の無駄遣いがある。
 たとえば、県民の暮らしや県内中小業者の育成とはまったくといってよいほど無縁な幕張新都心開発には相変わらず湯水のように公金がつぎこまれている。幕張新都心の中核施設である幕張メッセについていえば、東京モーターショーの主催者である自動車工業振興会(自工振)が「会場が手狭だ」として増設要望を出したため、県は「自工振の主張を丸のみ」(朝日、10月21日)して、この12月から220億円をつぎこんで「第二メッセ」の増設工事をはじめる。

 幕張メッセは、稼働率が落ち込み、使用料収入が思うように上がらないために、県と千葉市が一般会計から累積で57億円もつぎこんでいるのに、さらに第二メッセ建設によって県は180億円もの借金を抱え込むことになるのである。このほか、幕張新都心については、ほとんど人が通らない道路やほとんど利用されない公園が、莫大な公費をつぎこんで豪華に整備されている。県が木更津・君津両市の丘陵地域で進めている「かずさアカデミアパーク」開発なども同様で、企業誘致がほとんど進まないのに、莫大な公費が投入され続けている。

 このように県民生活とはあまり関係のない大型開発に湯水のようにカネをつぎ込みながら、県民の暮らしにかかわる分野に対しては支出をなかなか増やさないか、あるいは削減している。高校を増やさないために、高校受験を迎える子と親、そして教師の苦労は相変わらず大変だと聞く。治水対策が進まないために、大型台風や集中豪雨に襲われれば大被害はまぬがれないという地域も多い。これについては、公共工事にかかわっている県職員も、こうグチっている。
     「“治水は治政の根幹をなす”という言い伝えもあるが、幹部や議員はこのことをなかなか分かってくれない。相変わらず道路が優先されている。治水への支出をケチって、たとえば幕張新都心内の道路や公園などに莫大な支出をするのは、愚の骨頂だ」
 いま県庁では、情実人事や腰掛け人事、ポスト遍歴優先が横行しており、県民のことや地域振興などはまったく念頭にない職員が幹部の大半を占めていると言われている。
 たとえば本庁の課長は、多くが1年で異動しつづけることもあり、課の仕事をよく知らなかったり、仕事に関心をもたない者が多い。たとえば、頻繁に行われている会議や打ち合わせ会のあいさつなどで、仕事に関連することを自分の頭で考えてしゃべれる課長は皆無に近いと言う。挨拶文などをすべて担当職員に書かせ、それを棒読みするだけなのである。こうした情実人事や腰掛け人事については不満も多い。職員から聞いた声を一部紹介する。
     「自分の担当している事業がまったく存在の意味がなくなったため、事業の廃止を提案したところ、“私が課長の時に廃止されたと言われたらまずい。事業はそのまま存続してくれ”と言われ、この課長の一言で存続が決まった。今は、次の行き先や出世、保身のことばかり考えて、とにかく問題を起こさずに過ごそうとする課長が多い」

     「10等級(給料表の最高等級)にまでのぼりつめて外郭団体に天下った幹部だが、課長の時、仕事の相談をしても、“俺は分からないから課長補佐に相談してくれ”と逃げ回っていた。また、課長が出席しなければならない会議でも、“俺はしゃべるのが苦手だから、主幹が代わりに出席してくれ”という具合で、ほとんどやる気がない。こうした人物がとんとん拍子で出世するんだから、今の人事はおかしい」

     「課長にひんぱんに酒飲みにつきあわされ、その支払いはすべて私が処理(公費流用)しなければならない。やりくりが大変だからもっと回数を減らしてもらえないかと、酒のいきおいで言ったところ、次の日に課長から総務課に話がいったらしく、総務課から“課長にはさからわないほうがよい”と注意された」

     「企業庁の乱脈経営ぶりは相当ひどく、たとえば千葉ニュータウンや房総臨海工業用水道などの事業は破産状態にある。しかし、幹部(トップは沼田知事)は誰も責任を感じておらず、また有効な対策を真剣に考えようとしていない。一方で、公費を使って飲み食いにあけくれている。真面目に働いたり、税金を払うのがばからしくなってくる」
 人事についていえば、県民生活向上や地域振興のためにどれくらい実績をあげたかなどはまったく評価されない。どのような職場やポストを渡り歩いたかという「職歴」や「ポスト遍歴」が大事で、さらに決定的に重要なのは人脈である。そのため、ゴマすりが横行する。

 また、知事や知事の側近に声をかけてもらったり接するために、あるいは子分をたくさんつくるためにさまざまな集まりがつくられており、ひんぱんに懇談会(宴会)が開かれている。たとえば、出身高校や出身大学の同窓会は数多くつくられている。また、職種ごとの親睦会や、各市町村や郡の居住者会、採用同期会、JR○○線通勤会、○○市出向者会なども無数につくられている。こうした集まりには、関係の県議や幹部OBも顧問などとして会に加わり、宴会などに出席している。こうした集まりの中には“裏の人事委員会”と言われているものもあり、こうした仲間に入って一生懸命にゴマをすったり、目立つ者が早く出世している。

 1985年1月6日付けの読売新聞(千葉版)は、県庁人事をとりあげ、「『彼が部長とはねえ』とOBがタメ息をついた例も聞く。さらに、自民党県議の後押しで、ぐんぐん出世した幹部もいる、との指摘もある」と書いているが、こうした情実人事は今も幅をきかしているのである。

◇             ◇

 以上、「官官接待」を中心として、県政運営の実態を少し書かせていただいた。
 現在、県自治体問題研究所などによって「県政白書」第6版の作成が進められていると聞く。なかなかむずかしい点もあるかと思うが、「官官接待」の横行などにみられる腐敗や、幹部の生態や発想、天下り、大企業や特定業者との癒着、監査委員の役割、県議会や報道機関に対する当局の対応、職員に対する締め付けなどの実態も調査し、できるだけ取りあげて欲しい。
 また、腐敗や乱脈運営がひどくなっている県政を民主化し、どのようにして県民の手にとりもどしていくかは、県民に課せられた大きな課題だと思われる。このことを強く願っている多くの県民や諸団体、知識人が協力しあい、70年代に東京都や大阪府、京都府などでみられたような「革新統一知事」が誕生することを切に望んでいる。
(1995年12月)



 本稿は、千葉県自治体問題研究所発行『ちば・地域とくらし』第34号(1995年12月)に掲載されたものです。著者の了解を得て転載しました。




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