〜 ダイオキシン、環境ホルモンの濃度も危険水準 〜
環境問題市原連絡会 片田 勇(文・写真)
◆産廃・残土の問題は複雑!
ひとくちに残土・産廃問題といっても、内容は雑雑多岐にわたるものであり、問題点の各要素を把握し、個別的に分析しなければ説明することがむずかしいものであるとつくづく思います。
市原市の産廃の野焼きが1999年4月、「黒い雨降る街」というショッキングな題名でテレビ放映されて以来、市原市の問題が全国的にも知られてまいりました。
このことを、住民としてたいへん不名誉な問題として受け止める方と、やっと市原市の素顔の公開として歓迎して受け止める方の二通りの見方があるように感じられます。前者の方々の中には、「人間が生活する以上、ゴミが出るのは当たり前! 何も大げさに宣伝することはない」とする主張と、すぐに対応しなければならないと考えるが、どうすればよいか分からず狼狽してしまう方など、さまざまな人間模様を見せられました。人は、自分の立場によって物事の見方を歪めて見てしまうこともあり、それは当然、私自身にもあてはめられる事柄であるだけに、ずいぶんと気を使わなければならないということを気づかされました。
私たち環境問題市原連絡会は、今から約10年ほど前から産廃・残土の問題に関心を持ち、調査や行政への要請などを続けてまいりましたが、この間に、この問題に熱心に参加される方々が増え、なにはともあれ大変心強く思っております。
この十数年の間に、不法投棄現場への現地調査も数百回を超えました。処分業者の中にも、ごくごく一部ですが、普通の真面目な方がおり、彼らと現地で話し合う場面も、たまにはあります。 このような場面でしばしば耳にした言葉が、前出の「人間が生活する以上、ゴミが出るのは当たり前!」に加えて、「千葉県には、ゴミの元締めの親分も産廃の“先生”もいることぐらい、アンタ方でも知っているだろう。アイツなどは俺たちよりもっと悪いことをしているんだから、調べた方がいいよ」などでした。
“稀に真面目な業者”という表現について、少し説明を加えます。私たちの産廃・残土の現地調査は、なるべく業者の休んでいる休日を選んで行うわけですが、それでも現地で業者に出会うことがあります。そんな時、カメラを持っていたら、フィルムをとりあげられたり、犬をけしかけられたり、林道である公道を大型ユンボで塞がれ、「穴を掘って埋めるぞ!」などと業者に脅されることが始終あるため、業者がまともではないように見えるのです。
そのような状況を調査し、行政との話し合いに臨んだ場合にも、担当職員から「消費者の自覚性の欠如が問題」との指摘をたびたび受けましたが、どうも納得できません。
また、環境団体に参加されている方々の間でも、「行政、業者、市民の話し合いが一番重要」とか、「地権者が参加しない開発反対の要求は間違い」などの意見が出されることがあります。これらは、一見するとまともな意見のようにみえますが、これも被害者の立場をよく理解できていない意見のようにも思います。私たちは、そのような意見について、会の中においても討議を深めつつ、複雑な悩みを持ちながら、問題解決への提案を試みようとしています。
◆市原市の産廃野焼きの現状
連絡会による問題別の調査では、本年1月時点での産廃の野焼きの数は市原市全域で31力所を確認しました。これに残土・産廃の不法投棄をあわせて、合計約50カ所以上の不法行為がおこなわれていると発表していました。一方、その時点においての市原市の発表では、違法の野焼きは15カ所程度とされていました。
その後の市当局の調査によると、不法投棄は、部局別の報告として、環境部7カ所、林地開発関係22カ所、農業振興課44カ所、の合計73カ所が報告されてきました。産廃の野焼き部分を除き、部局間の重複部分を差し引きますと、私たちの調査との整合性が明確化されることになりました。 ところが、この間、私たちと問題を抱えている地域住民との連帯が広がり、市民の声が高まるにつれて、市の発表数の中で野焼きの部分が増加しました。本年9月には、非公式にですが、産廃の野焼き数がついに33カ所を数えるにいたり、私たちの調査数を超えるものを認めるものとなりました。
この半年間に、市議・県議・国会議員や市職員の方々との不法投棄の現地調査は、通算すると40カ所を超え、過去にはできなかった忙しい経験をさせていただきました。市民の方々の希望を一歩なりとも前進させるために役立つ行動ができたような気がしております。
また、現地調査に、国会議員や市の職員の方々が私たちと同行することが、業者に対しても格別の効果が期待される体制(編成)であったことも報告すべき点であると思っています。さらに、10月23日には「市原市の環境を考えるシンポジウム」を開催しましたが、約200名の参加者のうち約70名の方々が環境問題について初めての参加であったことも特記すべき点であります。このシンポジウムでは、産廃の野焼き業者の近隣に住む住民たちの切々とした生の声が多数出されておりましたので、別の機会に報告させていただきたいと考えます。
シンポジウムのパネリストの一人、参議院議員の岩佐恵美氏は、環境庁が2000年1月から施行するダイオキシン類排出抑制特別処置法の内容を、次のように説明されました。
- ダイオキシン類の規制基準を自治体独自に上乗せして、きびしくすることが可能であること。
- 政府の規制基準の2002年をまたずに、前倒しに実施できること。
- 市原市の野焼き業者が、時間当たり200キログラム未満の小型焼却炉を規制基準の施行前に駆け込み的に設置し、法の網を逃れようとしていることは、問題である。
厚生省は次のように言いました。
- 全国課長会議の中で、産廃の野焼きについては行政命令をきびしく行うよう、文書・口頭で県に指示している。
- 野焼きがおこなわれていても、犯罪としての構成要件を明確にすることが難しい現状がある。
- 野焼き行為は、初期段階から対応するための直罰法の改正の中でとりくむべく検討中である。
◆産廃野焼きに対する行政の指導内容
県行政の指導内容については、(1)野焼きの中止、(2)焼却炉の設置、(3)焼却設備の構造基準及び焼却方法の基準を遵守させる、(4)焼却灰の適正処分、(5)管理型最終処分場へ搬出させる、などの方法をもって行われています。私たちの手元には、以上の報告事項とあわせ、指導の方法と法律の要件は次のようになるとの回答資料がありますので、参考までに記載します。
ア、口頭指導
【産業廃棄物監視業務運営要綱】
イ、指導表による文書指導
【産業廃棄物監視業務運営要綱】
ウ、改善勧告
【産業廃棄物監視業務運営要綱】
エ、改善命令
【廃棄物の処理及び清掃に関する法律第19条の3(処理基準違反)】
オ、告発
【刑事訴訟法第239条】
さて、これほどの指導調査、管理の費用と、右にあげたような法律や条例を持ちながら、わが国では、そして千葉県では、国民のいのちと健康に深く係わるダイオキシン問題でさえも、後手後手の対策でしか手を打てないのはなぜでしょうか。以下に、これらの点について述べさせていただきます。
◆現行法でも取り締まり可能
厚生省は、現行法の整備をしなければ産廃の野焼きを止められないので、直罰法を考えると言っています。しかし、現行法の廃掃法の中でも産業廃棄物を許可を得ずに処分した場合は、罰則規定に触れます。野焼き業者が自社処分地で、(1)ダンプカーに数十台分も廃棄物を山積みすることや、(2)焼却灰を何十トンも山積みすること、(3)残土処分場に汚染残土や建築廃材・汚染された下水汚泥などを持ち込むことは、違法行為です。
また、無許可の処分場に産廃や残土を処分してはならないことは、千葉県の残土条例にも国の廃掃法にも明確に規定されています。しかし、残土でも産廃でも違反件数や指導件数は数えられないほどの発生件数なのに、撤去命令や告発・告訴がなされたのは数えるほどしかないのが実態です。
“迷惑のかかる市民はいつも泣き寝入り。業者はいつもやり得”という構図が、日本の伝統のごとくに続けられてきました。いつも業者が逃げ延びている原因は、市長や県知事などの首長の決断が甘いことが最大の原因です。そして、今の日本の産廃行政や焼却一辺倒のゴミ行政を分析すると、裏側には、もっと無意識を装った大きな権力の後押しが首長の重しとなっていることを理解することができます。
今回のテレビ報道の問題についても、市原市の小出市長は、市の広報紙を使い、多くの弁解と、「残土・産廃行政が県の指導管轄」にあることが問題などの発言をし、責任回避に必死です。
◆環境問題こそ政治的戦い
産廃投棄や野焼きなどが深刻になってきている背景をみてみましょう。
第1には、産業廃棄物や残土業界に、“人生の裏街道”を家業とするヤクザの参入が急増してきたことです。特にバブル崩壊後にすさまじい勢いで伸び、いまや、県職員でさえも防弾チョッキに身をかためなくては現地調査もできないような状態になっています。
第2に、わが国におけるダイオキシンや環境ホルモンに関する法規制は、先進諸外国に比べて25年も遅れているといわれており、行政や大企業でさえも、国民の健康を保証できる程度の技術開発や安全性を研究してきませんでした。
その結果として、ベトナムの枯葉剤汚染濃度よりも高い濃度のダイオキシンや環境ホルモンが日本列島を覆っているといわれています。行政がこの状況を責任転嫁するには、現在の産廃・残土の不法行為者が意識的に行政の責任を代行し、行政はその見返りとして取り締まりに手心を加えている、との指摘も、あながち嘘とは言い切れない部分があります。
第3には、ゴミ行政に始まり、農政、開発行政全般が国民当事者のためにではなく、ゼネコンと大企業の食い物にされるような運用がいまだにおこなわれていることです。年間9700億円もの農業基盤整事業費の9割近くが農業土木費に使われ、1つの工場で500億円もかかるといわれる大型溶融炉を全国で600カ所以上も造ろうとするゴミ行政の中に、日本の異常な姿がはっきりと見えているのではないでしょうか。
第4に、私たちの千葉県を見渡すかぎり、このような末期的政治状況にありながら、列島改造型の大型公共事業に正面から反対する市町村の首長が一人もいないという事実です。これは、私も含めた千葉県民、一人ひとりの責任でもあるわけですから、環境問題全般の要求を通じながら討議し、考えて行かなければならない重要な問題だと考えます。
しかし、これほどの問題をかかえながらも、県内の各地には、住民要求による成果を知らされるたびに元気づけられている市民が大勢いることも、私たちの運動の力になっているといえます。 銚子や海上町の産廃、三番瀬、岐阜のイヌワシ、愛知の海上の森、盤洲干潟、追原ダム、江戸川の河口堰、野田市のオオタカ、昭和の森のオオタカ、千葉・市原丘陵新都市開発、君津市の産廃、館山の残土、川辺ダム計画で五木の子守唄の故郷が沈むなど、日々の情報に喜びを、悲しみを、怒りを分かち合うことが、私たちにはできます。
これはもう私たちの特技というべき要素であり、こうした連帯意識の中で、環境問題の活動に参加して学べることは、(1)根気強く、あきらめずに事に対処すること、(2)黙っていないで、行動すること、(3)一人の犠牲者であっても、最善の協力を惜しまないこと、(4)これらの行動を続けることが正論への活路を切り開くことに必ず役立つことになるという確信−−であると思います。
このような観点に立ちながら、私たちは、市内の各地で起こる住民要求に協力し、参加することに努めています。その中のひとつに、市の中央部の平成町会という新興地域があり、5年ほど前から残土処分場問題で苦しんでいます。平成町会の残土反対の正当性は、住民の井戸水の安全を保証させずに、住民の健康を守ることができないところにあり、残土条例に土壌検査基準が盛り込まれた意味も、地下水と地表水が深い関連性を持ち、地下水の汚染と枯渇の防止には、地上面を汚染から守る以外にないために創られたものです。地方自治法でいう住民のいのちと健康を守るという意味、水源地保護法でいう公営水道の地下水源を保全せよという条項は、中高根、上高根に住み、井戸水を利用する950世帯の水源を守って当然というのが正論であるはずです。
私たちは、平成町会の反対運動を大いに支援していくと同時に、千葉・市原丘陵新都市開発に反対し、八幡宿の舟券売り場計画にも反対して、大いに市民要求に合流してまりいたいと考えます。
産廃の野焼きでは、県内7カ所の改善命令のうち、4カ所を市原市で出させるという市民・議員・行政職員などの努力が功を奏し、野焼きの炎も、今のところは小康状態を保っています。
しかし、まだまだ気を緩められる状態ではありません。地上に捨てられた焼却灰の問題や、埋められた土の下で燻(くすぶ)りつづけるゴミの山をどのように処置するのか、監視の目を離すわけにはいかないのです。
私たちの戦いは、今、灯されたばかりの小さな炎にしか過ぎないのですが、これらの住民の苦難を要求運動を創り出す力に変えて、市民の皆さんと共に大きな炎に育てていきたいと思います。
(1999年11月)
積み上げられた燃えかすや焼却灰の山。周囲の木々は、野焼きの排煙によりすべて枯れてしまっている。
野焼き現場で、煙と焼却灰に囲まれ、その物凄さに、驚いたり、立ちすくんだり、臭いに鼻を覆う住民の方々。
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