震災がれき処理は間違いだらけ
〜小櫃川の水を守る会が講演会〜
「小櫃川(おびつがわ)の水を守る会」(山田周治代表)は(2012年)8月26日、総会と講演会を木更津市中央公民館で開きました。参加者は約60人です。
小櫃川は房総丘陵の清澄山系に源を発し、南房総の君津、木更津、袖ケ浦を流れる川です。千葉県内では利根川に次いで2番目に長い川です。小櫃川の下流には、君津、木更津、袖ケ浦、富津、市原5市の水道取水場があります。小櫃川は5市35万人の大切な水道水源となっているのです。
その小櫃川の上流に産業廃棄物処分場が計画されたことから、大切な水道水源を守ろうと、地域住民がたちあがって同会が結成されました。24年前の1988年のことです。
その後も、上流域のあちこちで産廃・残土処分場の計画がもちあがりました。「守る会」はこの24年間、産廃・残土処分場の建設をやめさせることを中心に運動を進めてきました。
昨年は、君津・富津両市で、水源地への放射性廃棄物埋め立てが新たな問題として浮上しました。そこで、放射性廃棄物搬入をやめさせるため、「放射性物質から生命(いのち)を守る市民の会」を結成し、市民ぐるみで運動をつづけています。
総会では、関係地域で問題になっていることや活動を7人が報告しました。
総会のあとは、「間違いだらけの震災がれき処理」と題して東京農工大学名誉教授の瀬戸昌之さんが講演です。瀬戸さんは「政府が進める震災がれきの広域処理は汚染を拡大し、被災地の復興を遅らせる」とし、こんなことを述べました。
講 演 要 旨 |
間違いだらけの震災がれき処理
東京農工大学名誉教授 瀬戸昌之
●広域処理は汚染を拡大し、被災地の復興を遅らせる
日本政府は東日本の震災がれきを、岩手県や宮城県のみならず、全国の自治体も「燃やして、埋める」べきとしている。しかしながら、政府の「燃やして、埋める」は、汚染を全国に拡散し、巨額の税金を浪費し、被災地の復興を遅らせるなど、問題・間違いが多すぎる。
政府のがれき処理方針は、ごみは「自区内処理」すべきとする今までの方針にも反する。
●急ぐべきは、がれきを屋根つき容器に『封じ込める」こと
搬入した仮置き場の震災がれきは今も風雪にさらされている。そのため、仮置き場ではがれき浸出水や放射性物質による地下水汚染が放置されている。また、がれきの火災や衛生害虫の発生が起こっている。さらに、がれきの表層に付着した放射性物質は乾燥すると風で大気へ飛散し、肺に取りこまれて深刻な内部被曝をもたらしている。
急ぐべきは、風雪にさらされている仮置き場のがれきを屋根つきの容器に「封じ込める」ことである。屋根つきの容器に封じ込めれば上述の地下水汚染、火災や害虫の発生、放射性物質の大気への飛散も防止できる。
●がれきの焼却、焼却灰などの埋め立てはやってはいけない
もちろん、がれきの焼却、焼却灰などの埋め立てはやってはいけない。焼却・埋め立ては、コストがかかりすぎるだけではなく、大気・地下水などをつうじて汚染を拡散するからである。
なお、容器は屋根つきであれば、コンクリート製である必要はない。直ちに建設できるプレハブ製でもよい。封じ込めの容器はたとえば岩手県のがれきの量は450万トンであるから、1キロメートル四方、高さ5メートル弱の大きさになる。
なお、この容器が岩手県の面積の中で占める割合は0.01%にもならない。また、がれきの8割強はコンクリートなどの不燃物である。安全が確認されるならこれらを沈下した土地のかさ上げや路盤材に使える。したがって、封じ込め容器の大きさははるかに小さくてすむ。
さらに、封じ込め容器の建設、がれきの分別などに多くの雇用が生まれる。雇用こそ被災地の人々が切望していることの一つである。
●「封じ込め」容器は福島第一原発の敷地に
とりわけ福島第一原発近くの、学校の運動場、公園、農地、林地などの表層の土壌は高濃度の放射性物質で汚染されている。手をこまねいている間にも、放射性物質は雨水とともに地下水に流れこみ、乾燥すると風で大気に飛散し、深刻な内部被爆をもたらす。
この土壌の「除染」ができないと、がれきの処理が終わっても、「復興」はスタートしない。
政府は表層の土壌を剥離すると放射性物質の濃度は4分の1程度に減少するとしている。これが意味あるとするなら、放射性物質で汚染した表層の土壌も「封じ込める」ことを急がねばならない。
汚染した土壌を屋根つきの容器に「封じ込め」れば、上述の震災がれきの封じ込めと同様に、地下水汚染、大気汚染などの諸問題は起こらない。
福島原発周辺のたとえば30キロメートル四方の土壌を対象とするなら、表層5センチメートルの土壌を剥離(はくり)すると、剥離土壌の総量は4500万立方メートルになる。
これをすべて「封じ込め」るために、たとえば1キロメートル四方、高さ15メートルの容器が3つ必要になる。ちなみに、この3つの容器は廃炉が予定されている福島第一原発の敷地(約350万平方メートル)に収まる。
●全国自治体が受けいれるべきは被災者であって、がれきではない
がれきや汚染土壌の「封じ込め」により、生活環境の放射性物質の濃度が下がったとしても、長期にわたる健康への影響は専門家の間でも見解は分かれ、不明というべきである。
そこで、放射性物質で被災した地域の人に以下の選択肢を提示することが必要となる。すなわち、安全を信じて故郷に帰る選択肢と、安全を疑って故郷を去る選択肢である。政府がこの選択肢を早く提示しないと、被災者は人生設計ができない。
また、農山漁村や全国の自治体は被災者を受けいれる仲介を急いでほしい。受けいれるべきは被災した人であって、がれきではない。
◇ ◇
以上です。
講演のあと、講演内容をめぐって質疑や議論が活発に交わされました。
瀬戸昌之さんの話を熱心に聴く参加者
東京農工大学名誉教授の瀬戸昌之さん
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