佐々木悠二さんを悼む
小櫃川の水を守る会 山田周治
君津地域の環境保護運動で多大な尽力をされた佐々木悠二さんが2021年10月9日に亡くなられました。76歳。山田周治さんに追悼文を寄せていただきました。
◇ ◇
悠二さん。
僕は、あなたに謝らなければならない。
僕は、あなたが癌と闘っていることを十分に知りながら、あなたを「小櫃川の水を守る会」の事務局長に引っ張り込んで、生命を縮めさせたにちがいないからだ。
きっかけは、鬼泪山(きなだやま)の国有林払い下げ事件だった。地元の山砂採取事業者たちが鬼泪山国有林を削って金にしようとした。
そのたくらみを見事に阻止した原動力は、僕らをリードし、県土石採取対策審議会の先生方一人ひとりに住民の気持ちを伝えたあなたの行動力に他ならなかった。
しかもあの時、あなたは専門外の地質学にとりくんで、房総半島中南部の地質と地層の特性をとことん追究した。そして、山砂採取による地下水枯渇の問題を僕らにもわかるように解明し、運動を大きな力にまとめ上げてくれたのだった。
この時の感動が、僕を揺り動かしたのだ。
僕ら「小櫃川の水を守る会」の次の闘いの相手は、御腹川の源流域を占拠した新井総合施設(株)の産廃処分場だ。
僕らはなんとしてもこの処分場をこれ以上大きくさせてはならない。上総掘り自噴水と小櫃川の水道水を、35万人の生命の水を、守らなければならない。
相手は金にものをいわせて、自分たちに都合のいい膨大なデータをまとめ上げ、千葉県行政を丸め込もうとしている。
「こっちも強い力を持たなくちゃだめだ。地質の専門的な学識と、追究力と、それから助っ人になってくれる学者や専門家がいなくちゃ勝てない」
悠二さん。こう言い出したあなたの言葉に、僕はつけ入ったのだ。
「その力を持っているのは、悠二さんしかいない。なんとしても事務局長になってほしい」
こうしてあなたは、癌と闘いながら、新井総合との闘いに全力を尽くすことになったのだ。
いま僕らは、地元の3つの住民環境団体と小櫃川の水を守る会が連帯した「ふるさとの水を守る会」で、県と新井総合を相手に裁判を闘っている。
この素晴らしい結合が生まれた原動力は、地元の方々の心を一つにまとめ上げた金森和尚の力強い説得力と、そして地元住民の肌にしみこむような解りやすさで、難しい地層問題と汚染の恐ろしさを語った、あなたのパワーポイント映像に他ならない。
実をいうと、悠二さん、あなたはパソコンがそれほど得意ではなかった。しかし、映像と語りで、肌で納得してもらわなければ、たくさんの人たちに味方になってもらえない。
こうと決めたら猛進する悠二さんだ。あなたは、さっそくパソコン教室に通って、たちまちパワーポイントを駆使し、分かりやすくて力強い、あの見事な学習教材をまとめ上げてくれたのだった。
あなたの思いがぎっしり詰まったこの教材は、鳥海さんや朝生さんをはじめ、次の世代の仲間たちがしっかり受け継いで、生命の水を守る新しい仲間を増やします。
どうぞ、心安らかに、見守っていてください。
しかし、僕の心には、大きな穴が開いてしまった。
悠二さん、あなたは本当に熱い心の持ち主だった。正義のために、環境を守るために、思い込んだら実行する人だった。
だから勉強が好きだった。その成果を、人のために尽くさずにはいられない人だった。何よりも人好きだった。多分、秋田の男そのものだったのだろう。
僕はあなたより11歳も年上だったけれど、あなたと僕は本当に心許せる友だった。もう、こんな友人を持つことはできないだろう。
その悲しさに、いま僕の心は打ちひしがれています。
さようなら、悠二さん。
(写真撮影/中山敏則)
「自然と環境を守る全国交流会」で君津地域の環境保護運動を報告する佐々木悠二さん=2015年12月5日、法政大学で
新井総合施設(株)が運営する放射性廃棄物処分場の3期増設許可撤回を
県(手前)に求める地元の住民と農業者。立って発言しているのは佐々木悠二さん。
その左の2人目は君津市長に当選した石井宏子さん=2018年10月16日、千葉県庁で
佐々木悠二さんのお別れ会が2021年10月23日、君津市で開かれた。参列者は200人。祭壇の遺影は
秋の草花や野山の草木でつつまれた。ススキ、コスモス、キク、シダ、ワレモコウ、リンドウ、
ホトトギス、カラー、ユリ、ラズベリー、ドウダンツツジ、ノイバラなどである
鬼泪山国有林からの山砂採取の不認可を県の商工労働部長など(左)に要請する「鬼泪山の
国有林を守る市民の会」など。右奥(こちら向き)は佐々木さん=2009年6月5日、県庁で
鬼泪山国有林からの山砂採取で県の保安課(左側手前)と交渉。
県の向かい側の右から4人目が佐々木さん=2010年1月7日、県庁で
鬼泪山国有林からの山砂採取の不認可を求める署名を県(右)に提出。
左端から4人目は佐々木さん=2010年5月14日、県庁で
慶応大学名誉教授で全国自然保護連合代表(当時)の川村晃生さん(右から2人目)に鬼泪山国有林
の山砂採取問題を説明する佐々木さん(その左)。前方の山は鬼泪山=2010年8月6日
「放射性物質から生命を守る市民の会」の設立集会で報告する佐々木さん=2011年11月8日、君津市内
場外への水漏れで1期処分場の放射性廃棄物搬入停止が続く「君津環境整備センター」
の事業者(新井総合施設)に対し、搬入完全中止を申し入れ。最前列の右端で立って
話すのは佐々木さん=2012年3月2日、君津環境整備センターで
「千葉県放射性廃棄物を考える住民連絡会」の結成集会で君津の放射性廃棄物
埋め立て問題を説明する佐々木さん(右)=2014年4月6日、県弁護士会館で
大塚山処分場(放射性廃棄物処分場)の漏洩問題を考える住民集会で報告する佐々木さん
=2015年6月20日、富津市内
★関連ページ
- 地域の環境保護運動で高校教師たちが大奮闘(佐々木悠二、2013/8)
- 鬼泪山からの山砂採取をめぐって
- 君津地域の放射性廃棄物処分場をめぐって
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