「湖や池が守られるということは、
結局は自分たちが守られるということ」
千葉県自然保護連合 代表 牛野くみ子
2001年4月21日から29日まで、日本湿地ネットワーク(JAWAN)企画の「デンマーク湿地再生めぐり」に参加しました。
この時代にあっても“飛行機は落ちる”と思いこんでいる私にとって、11時間の旅は緊張ものでした。成田を12時頃出発し、コペンハーゲン国際空港に着いたのは現地時間の4時頃で、時差は7時間です。近頃は、エコノミー症候群なんて言葉をよく聞きます。そのせいか、航空会社も“テイー、コーヒー、グリーンテイー、ウオーター”と、飲み物をよく持ってきます。そして、人々もよく飲みます。だから、お手洗いはいつも満員です。空港について、やっとホッ。空港の床は木材でした。さすがー。
オーデンセまでは電車で行きました。電車の前面、後面は強力なクッションゴム? で覆われています。衝突しても大丈夫です。何しろ郊外は単線ですから。荷物もあるので、指定席をとってくれました。が、車内はクワイエットカー。女の車掌さんがおしゃべりをしないで下さいとやってきます。私たち8人はマナーをきちんと守りました。時差ボケもなく、この夜はぐっすり寝ることができました。
こんなことをズラズラ書いていると、「湿地の再生」はどうだったのなんて怒られそうなので、本題に入ります。
●ワッデン海
〜鳥を守るために、湿地を再生〜
ワッデン海を案内して下さったのは、ネイチャーセンターに勤務するレンジャーのグラムさんです。彼は、デンマーク森林自然庁の職員です。グラムさんの話によれば、ワッデン海は、オランダ、ドイツ、デンマークにまたがる海岸線で、世界で最も生産性の高い湿地の一つです。そのうえ、ラムサール指定地です。
しかし、デンマーク領の南側は、1976年、堤防崩壊の危険があるため、旧堤防の外側1.4キロ先に新堤防を築きました。干拓したところを農業用地として利用していたとのことです。しかし、1979年に開始された工事により、以前観察されていた水鳥の8割がいなくなり、残り2割の鳥たちも繁殖をしなくなりました。
そのため、デンマーク議会は、鳥を守るということだけで、堤防の下にパイプを通し、1983年に塩水ラグーンを造りました。これにより、以前の6〜8割まで水鳥が回復してきたそうです。春には2500万羽、秋には3000万羽が渡りをすることを確認しているそうです。
私たちは、新堤防と旧堤防の間の湿地で、バーナクルギース(和名? 顔が白くて羽が黒いガン)を何千羽……、何しろたくさん見ました。また、粗朶(そだ)工法により海への土の流出を防いでいるのも見ました。(写真1)
私たちは、国境の有刺鉄線の扉を開けてもらってドイツ領には入りましたが、鳥たちは扉を開ける前から、往ったり来たりしていました。ドイツ側ではハイイロガンを見ました。アボセットもミヤコドリもたくさんいました。
●スキャンリバー
〜曲がりくねった元の川を復元〜
スキャンリバーを案内して下さったのは、湿地再生プロジェクトマネージャーのジャコブ・イエンセンさんです。1960年代、曲がりくねった川をまっすぐな流れに改変し、干拓を行いました。費用の3分の2を国が、残り3分の1を土地所有者が負担しました。洪水も防げたし、4000ヘクタールの耕作地もできました。川は水路化され、そこからの溢水を防ぐため、排水ポンプを5カ所設置しました。
しかし、工事の後、数年で環境上の問題が出てきました。鉄が酸化して植物の生長を止めたり、魚が息ができなくなるという問題がおきたのです。流域面積はユトラント半島の11%を占めています。魚も鳥も植物も少なくなり、政治家も含め、虚しい現実がおそいました。
1987年、デンマーク議会は、工事を元に戻すことを決めました。1871年の古い地図を参照にして、古い河川コースを掘削、そこから出る290万立メートルの土で現河川を埋めることにしました。対象は2200ヘクタールで、残り1500ヘクタールは農地としています。対象になった土地所有者には代替地が与えられますが、土地交換しない場合には、水位上昇は我慢してもらいます。また、農薬、肥料を使用しない代わりに、政府から補償金をもらいます。鳥の繁殖期が終わる夏の終わりまでは、草を刈らないなどの取り決めが行われました。地域住民25人が2年間、18回の討論の後、合意したのです。
1999年から新しい川が掘り始められました。私たちはその現場を見ました。新しい川は曲がりくねっており、魚釣りの人も見られました。橋脚はコンクリートですが、橋は木材を使用しています。また、堤防の必要なところは石を積み上げるなどの工夫をしています。曲げたことにより、川の長さは19キロから26キロになったということです。(写真2)
この後、スポットラップ湖(農地を湖にした例)やブロックフオルム湖(複合生態系の復元)、ヴェスト・スタデイル・フイヨルド(農地を再び湿原にした)などを見ました。
ブロックフオルム湖の農家、トーマスさんは、「湖や池が守られるということは、結局は自分たちが守られるということだ」と言いました。この話はとても印象的でした。また、いろいろな決定は、国からの押しつけでなく、地域住民が議論して決め、議会が鳥を守るということだけで動きます。これを聞いて、すばらしいなと思いました。トーマスさんは、仕事が終わると、奥さんと二人で、夕日を眺めたり、湖の鳥を見たりするのが日課だそうです。おいしい手作りのクッキーやケーキ、コーヒー、紅茶をごちそうして下さいました。心の豊かさを感じました。
デンマークにおいては、湿地の再生はうまくいっているようです。しかし、今ある干潟・湿地を守ることが最優先されるのはいうまでもないでしょう。
次回は寒いだけでなかったサムソ島の話です。
(2001年7月)
粗朶(そだ)工法により海への土の
流出を防いでいる。(写真1)
スキャンリバーでは、曲がりくねった元の川を復元した。
魚釣りの人も見られる。(写真2)
★関連ページ
- デンマークの湿地再生を見学(2)〜自然エネルギーのとりくみ〜(牛野くみ子)
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