■8・2戦争立法反対浦安集会の講演(要旨)
安保法制 ココが問題
千葉中央法律事務所 弁護士 島貫美穂子さん
安保法制(安全保障法制)を巡って今、違憲性がクローズアップされている。衆議院の憲法審査会において、自民党推薦を含む参考人の憲法学者3人がそろって安保法案(安全保障関連法案)を「違憲」と指摘したからだ。
しかし、どこがどう憲法違反なのかということについては曖昧なところがある。そこで、まず安保法案について確認したい。
憲法9条と武力行使
安保法案は憲法に違反しているということだが、そもそも憲法とはなにか。
憲法と法律は中身が違う。法律は一般市民に対して義務を課している。これに対し、憲法は国家権力に対して義務を課している。つまり、憲法は国家権力の暴走に歯止めをかけるという役割をもっている。
それでは、憲法は武力行使についてどのような義務を国家権力に課しているのか。憲法9条にはこう書いてある。
- 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
- 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
どういうふうに解釈してきたかというと、次の3つの要件をすべて満たした武力行使については憲法9条に違反しないとしてきた。
- わが国に対する急迫不正の侵害があること(法益が侵害されているか、または侵害がさしせまった状態にあるということ)
- それを排除するために他に適当な手段がないこと
- 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
集団的自衛権を合法化
それでは、外国の軍隊が武力行使をしている場面で後方から支援するということはどうなのか。これについても、日本政府はこれまで、戦闘と「一体化」とみなされる後方支援は憲法9条違反と解釈してきた。
これまでは、憲法9条で許される後方支援として、活動地域を「非戦闘地域」に限定していた。「非戦闘地域」というのは、戦闘が起こったことのない地域、あるいは起こる可能性のない地域ということである。
支援内容も、人道復興支援(給油、食料などの提供、道路修繕など)に限っていて、武器・弾薬の提供は禁止していた。
自衛隊が武器を使用する場合も、自分が相手国や武装集団から命をねらわれたときの正当防衛としてしか武器使用を認めない、となっていた。
ところが、安保法制は中身が変わった。武力行使については、新たな3要件をつくった。2番目と3番目は変わらず、1番目が変わっている。1番目はこうなっている。
「わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」
これによって、集団的自衛権も可能となる。
後方支援の活動地域も拡大
後方支援も、活動地域が拡大した。
これまでは「非戦闘地域」での活動に限定されていたが、「非戦闘地域」という言葉がとっぱらわれた。そして、「現に戦闘が行われている現場」以外であれば後方支援が可能となった。
一見すると、あまり変わっていないようにみえるかもしれないが、危険度はまったく違う。
具体的にいうと、たとえば1時間前に銃撃戦が行われたような地域は、いままでは「非戦闘地域」に該当しないとなっていた。ところが、「現に戦闘が行われている現場」以外であれば活動が可能となったら、1時間前に銃撃戦が行われたけれども現在は戦闘が行われていないという、そういう場所も活動が可能になる。
このように、今回の安保法制は、非常に危険な地域にまで後方支援の活動範囲を拡大している。
それから、支援内容も拡大されている。これまでは食料提供などの人道復興支援にとどまっていたが、今度は爆薬の提供もできる。
このように、支援内容も非常に危険な内容になっている。
安保法制による影響
こういうものが通ってしまうと、自衛隊はどういう活動を強いられるのか。
たとえばイラク戦争の映像をみると、赤ちゃんを抱いたお父さんがいて、そこに空から爆弾が落とされる。赤ちゃんの脳みそが飛び散る。そして、飛び散った脳みそを泣きながら拾い集めているお父さん。そんな場面が映像で映しだされる。
アメリカは「テロとの戦い」と言っているが、実際は、罪のない多くの一般人を巻き込んでいる。アメリカがやっている戦争の実態はそういうものである。
そのような戦争に日本の自衛隊を派遣することが可能になる。これが安保法制の中身である。
安保法制が通ってしまうとどういう影響があるのか。
まずは自衛隊員への影響が大きい。イラク戦争のときは、1万人の自衛隊員が派遣されたといわれている。政府の発表によれば、そのうち帰還して自殺した隊員が56人いる。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症をみると、たとえば、アメリカはアフガン戦争とイラク戦争に200万人派兵したが、そのうち約4分の1の50万人がPTSDに罹患(りかん)している。
自衛隊はこれまで、比較的安全な地域で安全な支援内容をやっていた。それでも、イラク戦争のときは派遣された隊員の1〜3割がPTSDにかかったといわれている。
安保法制が通るともっと危険な任務にさらされるので、それ以上の被害がでることが予想される。
徴兵制
自衛隊員だけではなく、私たちの暮らしにも影響がでる。日本がテロの標的になる。
イラク戦争に参加したスペインやイギリスでは列車の爆破テロなどがあり、多くの一般市民が犠牲になった。このようなことが日本でも起こる可能性がでてくる。
若い世代が徴兵制にとられるということも予想される。実際にイラク戦争のときは、防衛大学校をやめた人や自衛隊を早期にやめた人が例年の3割増えたといわれている。
安保法制が通るともっと危険な任務にさらされるので、より多くの自衛隊員がやめることになる。そうなったら、どこから自衛隊員を集めるのか。
まずは広報活動を強化するということになる。教育で「愛国心」を植え付ける。これはすでにはじまっている。
それでも集まらない場合は、アメリカのように「経済的徴兵制」がとられるだろう。アメリカでは、奨学金などを肩代わりするということで貧困層の家庭から志願兵を募っている。日本でも奨学金を借りている大学生は5割いるといわれている。
いま安保法制がクローズアップされているが、そのうらで労働法制を改悪し、生涯派遣を可能にする派遣法の改正案が国会で審議されている。
これがまかりとおれば、若者の貧困化がどんどん加速する。貧困に巻き込まれた若者に対して奨学金を肩代わりするなどの経済的特典を与えれば、自衛隊に志願するという流れがでてくる。
防衛予算もどんどん拡大する。他方で、福祉予算はまっさきに削減される。このように、私たちの生活にも大きな影響がでる。
私たちは何ができるのか
それでは、これをどのように止めるのか、私たちは何ができるかということだ。
安倍政権はマスコミ操作に長けているといわれているが、最近は週刊誌がこぞって安倍政権を批判するような記事を書いている。これは、世論がそのような意見を持っていることのひとつの反映だと思う。
世論がどんどん大きくなればマスコミも動く。そして、さらに世論も動くというような好循環が起きると思う。
なにができるのかという点で、今日のパレードは非常に大事だと思う。
パレードをやれば、「なにかやっているな」ということで、興味のない人たちが興味をもつようになる。私も県弁護士会で月に2回、街頭宣伝をやっている。街頭宣伝をやると、興味をもちはじめる人がでてくる。パレードをやって何か訴えている人たちがいるというのは、無関心層に一定の関心を与える契機になる。
そして大事なのは参議院議員への働きかけだ。自民党の中にも安保法制に反対の意見をもっている人がいる。そういう人たちを励ますという運動も必要ではないか。
国会の会期を延長されて危機感をもつわけだが、逆にいえば、私たちにとっては、運動を大きく広げるチャンスでもある。あと2カ月くらいだが、法案成立を全力で阻止するということが非常に大事になっている。
(2015年8月2日)
講演に聞き入る参加者
千葉中央法律事務所の島貫美穂子弁護士
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〔講演要旨〕
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