財政危機打開のカギは公共工事の見直し

〜長野県政と千葉県政の比較〜

千葉県自然保護連合事務局



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 ご存じのように、国や自治体はいま、深刻な財政危機に陥っています。消費税引き上げの論調が強まっているのはそのためです。
 しかし、消費税をどれだけ引き上げても、ムダな公共工事を見直さないかぎり、財政危機は絶対に打開できません。
 ダムや高速道路、新幹線、埋め立て、下水道(とくに流域下水道)などの公共工事計画を見直せるかどうか──。ここに財政危機打開の大きなカギがあると思っています。
 そこで、端的な例をあげさせていただきます。田中前長野県政と堂本千葉県政の比較です。


■全国唯一の6年連続借金減少

 田中康夫氏(現・参院議員)が知事になるまでの長野県の財政は、長野オリンピックの後遺症などでたいへんな窮状にありました。そんな中、田中知事は大胆な財政改革を押し進め、県債残高(県の借金)を6年連続減少させるという見事な成果をおさめました。これは長野県だけです。
 長野県と千葉県の県債残高の推移をみてみます。


◎長野県の県債残高

  2000年度末  1兆6391億円
  2001年度末  1兆6336億円( 55億円)
  2002年度末  1兆6334億円(  2億円)
  2003年度末  1兆6156億円(178億円)
  2004年度末  1兆5844億円(312億円)
  2005年度末  1兆5468億円(376億円)
  2006年度末  1兆5090億円(378億円)
           6年間で1301億円減!

      (出所)長野県の財政状況と今後の見通し(長野県総務部財政課)


◎千葉県の県債残高

  2000年度末 1兆8728億円
  2001年度末 1兆9638億円( 910億円)
  2002年度末 2兆0955億円(1317億円)
  2003年度末 2兆2216億円(1261億円)
  2004年度末 2兆3216億円(1000億円)
  2005年度末 2兆3659億円( 443億円)
  2006年度末 2兆4120億円( 461億円)
           6年間で5392億円増!

      (出所)千葉県のホームページ



 ご覧のとおりです。
 長野県は、ピークの2000年度(平成12)から2006年度の6年間で1301億円も借金を減らしています。これは、前述のように長野県だけです。


■千葉県は6年間で5392億円も借金増
   〜ムダな公共事業を促進〜

 これに対し千葉県は、2006年度までの6年間で借金を5392億円も増やしています。2001年4月に知事に就任した堂本知事は、雪だるま式に借金を増やしているのです。

 その違いは明白です。田中知事は、「脱ダム」宣言を発表し、ダム計画を中止させるなど、ムダな公共事業にメスを入れました。
 一方、堂本知事は、沼田前知事が県政の最重要課題として押し進めた大型公共土木事業(大規模開発)をそのまま継続です。東京外郭環状道路(外環道)や首都圏中央連絡自動車道(圏央道)などの大規模高速道路、そして“第二の東京湾横断道路”といわれる東京湾口道路(富津─横須賀間)などです。
 そればかりか、新たに常磐新線沿線開発や成田新高速鉄道、北千葉道路(成田新高速鉄道との一体道路)なども新たに促進です。これらは、県や市町村の財政を圧迫するだけでなく、自然環境や住環境を大規模に破壊するという“壮大なムダ”です。
“金食い虫の公共事業”とよばれている3つの流域下水道事業(印旛沼、手賀沼、江戸川左岸)もまったく見直しせずに継続です。

 堂本知事はまた、選挙公約に掲げた「三番瀬(さんばんぜ)」(東京湾奥部に残った干潟・浅瀬)の埋め立て計画をいったん白紙撤回したものの、「三番瀬再生」という名で、形を変えた埋め立て(=人工干潟造成)をめざしています。
 八ッ場ダム(群馬県)と湯西川ダム(栃木県)の建設事業費負担金倍増(401億円→826億円)も、市民団体や一部政党などの反対要請を無視して強行しました。
 これでは、千葉県の借金が増えつづけるのは当然です。


■公共事業の質的転換を推進

 田中知事は、たんにムダな公共事業を中止するだけではありません。「公共事業がいけないのではなく、公共事業のあり方を変えねばならぬ」ということを終始一貫訴え、公共事業の質的転換をめざしました。

 生活排水の浄化では、莫大なカネがかかる下水道工事ではなく、合併処理浄化槽を使う道を推進しました。たとえば、長野県の下條(しもじょう)村は、この方式によって、「国の補助を貰って下水道を整備するよりも6分の1から7分の1ほどの事業費で生活排水の処理をすることに成功」したそうです。

 また、砥川(とがわ)ダムや蓼科ダムなどのダム計画を中止するにあたっても、「ダムによらない治水整備をめざす」が基本方針でした。田中氏は述べています。
    《内水氾濫は、仮に浅川上流にダムを建設しても防げない、と私の就任前に当の国土交通省も認めていたのです。つまり、浸水被害を防ぐにはダムではなく、下流部に遊水池を設けることが一番、賢明な選択なのです。こうした考え方に立って、ダム計画を破棄し、遊水池と放水路による河川整備計画を策定中です。そして、ダム派の県議や市長は、であればこそ、危機感を感じ、今まで以上に「脱ダム」に反対しているのです。
     その他の7つの河川に関しても、ダムによらない治水が着々と進んでいます。いったん計画された富国強兵型で時代遅れの巨大な公共事業を見直し、21世紀型の環境や財政や雇用を見直す経世済民型の信州における「『脱ダム』宣言」の精神に基づく各種の改革は、私たちの脱物質主義的な社会への目指すべき在り方を示す道程なのです。》(田中康夫『日本を』講談社)
 田中氏がすごいのは、公共事業の利権に群がる勢力と闘いながらこうした質的転換をめざしたことです。
 氏のモットーは、「怯(ひる)まない」「屈しない」「逃げない」でした(前掲書)。自民党や大企業などとはいっさい対立しないことを“誓約”(公言)し、自民党の要求を100パーセント取り入れている堂本知事とは大違いです。


■日本の破産への道は公共事業で舗装されている

 かつて、米週刊誌『タイム』(アジア版)はこう書きました。
    《日本は“公共事業中毒”にかかっており、“建設事業国家”との異名も持つ。何しろ113の主要河川などに2734ものダムがあるのだから》
 『朝日新聞』もこう記しています。
    《需要予測がいい加減なまま、結局は税金の無駄遣いや垂れ流しに終わる公共事業は多い。これらの場合、需要予測は予算確保の方便に堕(だ)してしまっている。しかし、国・地方を遭わせて530兆円もの長期債務に象徴される財政難が、「土建国家」のシステムに転換を迫る。「日本の破産への道は、公共事業で舗装されている」と、米紙ニューヨーク・タイムズは97年春に書いた。公共事業で税金を無駄遣いしているのに改めようとしない日本は、財政破たんに突き進むしかなかろう、という痛烈な風刺と警鐘だった。》(『朝日新聞』1998年7月1日付の「日本型システムの 行方(10)公共事業」)
 「日本の破産への道は、公共事業で舗装されている」という米紙の指摘は至言でした。まさに、そのとおりの結果になっています。
 大型公共工事優先の行政を抜本的に転換できるかどうか──。ここに日本の未来がかかっているといっても過言ではないと思っています。それができなければ、日本は沈没必至です。

(2007年11月)   





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