鋸南町の豊かな自然を守るために

鋸南町の自然を守る運動に参加しています
永田正則



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     南房総の鋸南(きょなん)町では、汚染土壌埋め立て計画をめぐって町ぐるみの反対運動が起きています。この運動に2年前からかかわっている元県職員(土木技術者)の永田正則さんに話を聞きました。


豊かな自然を売りにした観光の町

 鋸南開発(株)が鋸南町の採石場跡地に汚染土壌を埋め立てる──。そんな話がもちあがったのは2年前だった。
 鋸南町には採石場跡地が7カ所ある。私が住んでいる元名(もとな)地区にも1カ所ある。鋸南開発の汚染土壌埋め立てが許可されれば、ほかの採石場跡地にも次々と汚染土壌が運び込まれる。明日はわが身だ。鋸南町は“汚染土の町”になってしまう。そこで、元名地区の住民は「元名自然を守る会」を結成した。「鋸南町の環境と子どもを守る会」と連携し、鋸南開発の計画を阻止するためにさまざまな運動をつづけている。
 鋸南町は豊かな自然を売りにした観光の町である。元名地区の明鐘(みょうがね)岬には、絶壁の上に建つ喫茶店「岬」もある。映画「ふしぎな岬の物語」の題材となった喫茶店だ。店主の玉木節子さんが入れるコーヒーを求め、遠くからやってくる人も多い。映画では、女優の吉永小百合が主役の喫茶店主を演じている。この映画は、9月初めのモントリオール世界映画祭で最高賞に次ぐ審査員特別グランプリに輝いた。映画の公開は10月11日である。元名地区には元名海水浴場もある。富士山も見える。


業者、県、ゼネコンが一体

 汚染土壌埋め立てを申請した鋸南開発にたいし、県は事前協議の段階で周辺の区の同意を得るよう指導した。ところが、周辺の区はすべてが反対決議をあげた。県は困ったのだろう。次は「環境協定を結ぶように努力しなさい」と指導した。周辺の区はこれも拒否した。
 そうしたら、地元本郷区の区長が、事業許可後に環境保全協定を結ぶという文書を事業者に提出にした。この区長は、鋸南開発も参加している採石組合の役員である。区の反対決議を無視し、勝手に出したものであった。それを知った本郷区はただちに臨時総会を開き、区長を解任した。新しい区長を選び、「前区長が出した文書は区の決議を無視したもので無効である」と県に伝えた。ところが県は、「当時の区長が正式に提出した文書だから有効」とし、今年1月に事前協議終了を強行した。
 このように、鋸南開発の汚染土壌埋め立て計画を県が強く後押ししている。その理由は、公共土木工事などで発生する汚染土の捨て場確保でゼネコンや行政が困っているからだ。汚染土は残土と違い、ヒ素、鉛、水銀などに汚染されている。だから、全国いたるところで住民の反対にあっている。
 鋸南開発の計画にはゼネコンの鹿島建設がからんでいる。ようするに、鋸南町住民がたたかっている相手は鋸南開発だけでなく、県やゼネコンも一体になっているということだ。敵は強大である。


県の態度はまったく不誠実

 県の態度はまったく不誠実である。
 採石場跡地は約47万立方メートルの深掘りの穴が開いたままになっている。この大規模な深掘りは認可条件に違反している。さらに、「跡地の埋め戻しは場内発生土で行う」とした県への誓約書をホゴにするものだ。だから、鋸南開発は採石法にもとづく事業完了報告書を県に出せない。採石事業は完了していないということだ。
 「鋸南町の環境と子どもを守る会」は、県交渉でこの点を追及した。そうしたら県は、「指導はした」「認可条件に違反しても罰則の規定がない」としゃあしゃあと答えた。認可違反や誓約書ホゴに目をつぶり、汚染土壌埋め立て許可の方針を示したのである。いろいろ質問してもまともに答えない。私は思わずどなってしまった。
 「あなたたちは県の仕事をどういうふうに考えているのか。住民に奉仕するのが本来の使命ではないのか。私はあなた方の先輩だ。情けない!」
 住民交渉にでてくる役付職員はニヒリズム(虚無主義)に陥っているような感じがする。私が在職していたころとかなり違う。また、千葉県は鋸南町の自治を無視し、民主主義を否定している。


自分たちの生活は自分たちで守る

 鋸南開発は、汚染土壌を埋め立てたあと、厚さ10cm以上のコンクリートで覆う、と言っている。しかし、30年とか50年くらいたつと、コンクリートは必ず無数の亀裂が生じる。それは土木技術者ならだれでも知っていることだ。
 そもそも、50年、100年先まで安全に管理できるわけがない。会社(鋸南開発)が存続しているかどうかもわからない。漏洩などの問題が発生しても、県は責任を負わない。だから、私たちはこの計画に強く反対している。鋸南町の豊かな自然と自分たちの生活を守るため、なんとしてでも阻止したい。
 運動にかかわって思うのは、町民の自治意識が高まっていることだ。人口8300人の町で、350人とか400人が町内のデモ行進に参加している。県庁前の抗議集会とデモにも300人が参加した。自分たちの生活は自分たちで守るという意識が強くなっている。そこに大きな期待をいだいている。
(聞き手・中山敏則、2014年9月)










県庁前で抗議集会を開いたあと、千葉市内をデモ行進する300人の鋸南町民。
「汚染土埋め立て断固反対」「森田知事は町民の声を聞け」などと訴えた=2014年6月11日



「鋸南町の自然をこわすな」「汚染土はいらない」と声をあげながら
町民350人が町内をデモ行進=2014年7月19日



汚染土処理施設建設予定地に向かって「鋸南開発は観光の町をつぶすな」
と声をあげる参加者=2014年7月19日










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