自然を破壊する残土埋め立て処分場
〜計画取り消しを求める住民運動から見た自然保護〜
市原市上高根・平成町会 残土検討委員会
●住生活を根底から崩す残土埋め立て処分場
自然破壊の問題が叫ばれるようになってから、久しい時が流れています。
緑豊かな私たちの住地域でさえ、いつの間にか、すっかり姿を変えてしまった所が少なくありません。それは、開発という名のもとに行われた事業であったり、ゴミなどの不法投棄、または、認可された事業としての産廃などの処分であったりします。それをみると、私たちの生活が、自然を破壊し続けなければできないものなのかと、暗澹(あんたん)たる気持ちにさえなります。社会では、自然との共存の道を見いだしつつも、経済性という大前提を前にして苦戦していることが残念でなりません。
そして、いよいよ、私たちのまさに住地域の谷に「残土埋立処分場開発計画」がもちあがりました。約4年ほど前のことです。
この計画を知ったとき、私たち住民は、まず、直接、自分たちの生活、生命に関わる問題に目が向きました。この計画が実行されると、大型ダンプカーが、1日に100台近くも通行することになります。現在でさえ、幅員の狭い道を通学路として利用している学童・生徒200名近くが、同じ道を毎日のように利用することを想像すると、不安であるというよりも、恐怖さえ感じます。
次に、私たちの頭に浮かんだのは、水の汚染でした。他の地域に起こっているたくさんの事例を見ると、工事業者が申請している「残土」による埋め立ては、実際のところ、「産業廃棄物」など、有害物質を含んでいるのではないかと思われる物によって埋め立てられています。それらの物から染(し)み出た物質による土壌の汚染は、深刻な被害をもたらしています。私たちは、地下水を自家水道としている家庭も多く、また、市の水道の水源も、実は、この地域の地下水である地域もあります。ですから、土壌の汚染は、すなわち水源の汚染となるわけです。
また、この谷の中ほどには堰(せき)があります。谷のあちらこちらからの湧き水によりできたものです。私たちが確認した湧き水口だけでも、7箇所から、豊かな水が流れ出ています。その量は、1時間あたり2トン以上にも及ぶ箇所があります。下方には、田が広がっており、この豊かな水が、私たちに、昔から恵みを与えてくれていることを忘れてはならない、と痛感しています。そして、その水の汚染は、農作物の汚染ともなります。まさに、直接、私たちの命に関わる水です。
そして、この工事による地盤の変化は、この豊かな水源を破壊することになります。そうなれば、日常の水の供給と田や畑、周囲の森林に与える影響は計り知れないものになりましょう。地下水の枯渇をも招きかねません。そうなれば、私たちのこれまでの生活は、根底から崩れることになるでしょう。
●希少生物が生息
この谷では、春になると、うぐいすと蛙(かえる)の声がにぎやかです。田なら蛙がいるのが当たり前だったのは、いつの頃までだったのでしょうか。小川はすっかり姿を消し、U字溝に変わっています。吸盤を足に持たない蛙は、おたまじゃくしから蛙になるときに、U字溝の壁を登ることができずに、おぼれて死んでしまいます。人間にとって良いことが、それまで共存していた生き物をこんな形でも生存を困難にさせていることに、なかなか気付くことがありません。
けれど、この谷には、小川が残っています。ニホンアカガエルやシュレーゲルアオガエル、ホトケドジョウなど、今では、珍しくなってしまった生き物たちが、ここでは変わらずに生息しています。トウキョウサンショウウオも、たくさんの卵を産み、子孫の繁栄に努めます。ヒキガエルの卵の大きさと量には、驚かされます。野の花が咲き、モンシロチョウやモンキチョウ、蜂も、その他の生き物たちも次々と目を覚まします。ベニシジミ蝶の姿は、可愛いものです。
夏には、このところ激減している蛍(ゲンジホタル、ヘイケボタル)が、たくさん見られます。夏の風物詩は、すでに過去のものとして、ビルの影さえない地域でも見ることができないことを、私たちは当たり前のこととして受け入れすぎているのかもしれません。30年前ならどこにでも見られた光景です。でも、今では、そんな珍しい光景が、ここでは、夜になると、ひっそりと続いていたのです。
秋には秋の、冬には冬の季節の移ろいが、ここでは存在しています。環境庁がまとめた「絶滅の恐れのある野生生物の種のリスト」(通称・レッドデータブック)や、関東地方だけでも東京都、埼玉県、神奈川県がそれぞれまとめたこれに準ずるリスト(千葉県は、現在取りまとめ中とのこと)に載っている希少生物が生息しています。
●希少生物保護に消極的な行政
市原市は、1994年、環境部環境保全課自然保護係によって、市内の生物についての調査を行っています。市内といえども、その調査、取りまとめは大変なことであったろうと思います。けれど、この調査区域に、この谷は入っていませんでした。この時点での私たちの認識が、もう一歩先んじていたらと思うと残念です。
この調査は、保護対策が必要である種、地域について、積極的な行動を実施するためのものではなかったのでしょうか。資料を有効に生かしてこその調査です。けれど、実際には、保護の手が伸びているとはいえません。調査は、あくまでも調査でしかなかったのです。
さらに残念であったのが、この状況は、市原市のみならず、千葉県でも、また、先のレッドデータブックに準じるリストを発行した都道府県であっても同様でした。率先して指導すべき環境庁にして、保護の対策は、天然記念物と国が指定した種、地域個体群など、驚くほど限定されていたのです。
天然記念物や国が指定した種は、その種の保存が守られるように、地域保全の努力が計られます。しかし、これら以外の生き物たちは、その生息が希少であったり、危機にさらされている状況であっても、救いの手を伸ばすことはできないのです。
さらに驚くべきことは、生物の調査さえしないという現実です。 千葉県では、1999年6月に「県環境影響評価条例」が制定されると、多少その規準や規制の効力が増すようですが、それまでは、大規模計画(ゴルフ場なら18ホール程度、または50ヘクタール以上の規模)の工事計画のときに、専門機関に生物の調査を依頼するだけだというのです。調査の結果、保護が必要であっても、それを地権者に依頼するだけであって、それ以上のことはできないというのです。それ以下の面積の工事については、工事業者の良識に任せているのです。調査が行われないならば、また、たとえ行われても、その報告義務がないならば、事実が闇の中に葬られているのではないでしょうか。
実際、私たちのこの谷(約4ヘクタール)への調査依頼は、行政側に拒否をされ、自然保護連合への協力をお願いをせざるを得ない状況です。
●残土埋め立て処分場阻止を地域の自然を守る第一歩に
ところで、日本に、現在、これらの希少生物が生息しているような地域がどれほど残されているのでしょうか。この谷に立つと、すぐ間近に民家があるにもかかわらず、電線さえ見えません。この程度の広さの谷は、近隣にはまだ遺(のこ)っていますが、その10倍ほども野や森が続いている所となると、思い当たりません。広い範囲だから調査するのではなく、遺すべきものたちのために、少しでも広範囲に、地域の自然を守るべきなのではないでしょうか。希少種、危急種、絶滅種などと、種を指定している間に、私たちの周りから、どんどん生き物たちが消えていっていることを止めることはできないのでしょうか。自然を守れば、その生き物たちの命を奪うことはないでしょう。そして、それは、私たち人間にとっても、健全に生きることのできる環境であるはずです。
私たちにとって、幸運であったのは、この工事の計画を知ることができたことです。是非、この「残土埋立処分場計画」を阻止して、人間と他の生き物たちとが共存していく環境を守る一歩にしたいと思います。
(1998年12月)
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