★産業廃棄物・残土


残土が風土を荒らしてゆく


残土・産廃問題ネットワーク・ちば  井村弘子



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銚子市高田町の産廃不法投棄の山。人(左側)が小さく見える。




 千葉県内の各地で、残土埋め立てや産業廃棄物の処分場設置・投棄が問題になっています。
 緑豊かだった房総の山肌は無惨にも削り取られ、そこに「残土処分場」がつぎつぎとつくられています。そして、まさにグロテスクとしかいいようのない山が出現しています。
 また、県民の飲み水の水源域につぎつぎと産業廃棄物処分場が設置されるなど、房総半島はまさに産業廃棄物の格好の捨て場ともなりつつあります。
 以下は、「残土問題ネットワーク・ちば」の井村弘子さんのレポートです。



銚子森戸町。いくら残土をかけても、中の産廃がパックリと口をあける
(衣類・ビニール類がぶら下がる)




●県レベルでは全国初の残土条例

 1998年1月1日、残土条例が全国で初めてのものとして千葉県にできた。3000平方b以上の埋め立ては県で規制するというのである。65市町村が条例または要綱を持っているのに、3000平方b以上は県の規制とするということで、きびしい市町村独自の条例をつくって、住民と一体になっていたところはとまどった。反対に、どうにもならないでお手上げだったところは肩の荷を下ろしたというのが実情ではないかと思う。1月1日以前から大規模でやっていたものも、6月30日の時点で県が引き継いだ。
 県が一括で取り扱うのは、いかにも簡単でいいようだが、いろいろ問題が起きている。県は、埋め立て問題が起きている所の地元住民の事情を知らない。すべて業者からの話で処理される。県と住民との距離はあまりに遠い。そして、県は、許可を出す寸前に市町村の意見は聞くと言うが、市町村にしても、今まで残土とどう係わってきたかによって当然、答えは違ってくる。条例どおりにクリアされているからということで、業者寄りで許可が下ろされたのでは、たまったものではない。県残土条例は住民の同意が要らない。また、条例には立地規制がない。水道の取水口の傍(そば)に残土の山がある所が県内に何カ所もある。


●残土の監視

 条例施行後の埋め立て許可数は、県発表によれば次のようである。98年8月末には78件にもなっている。これは、市町村が今まで管理していた3000平方b以上のものが入ったからではあるだろうが、移行と同時に拡大を許可したりしているものや、産廃の上に残土を被せているものもある。
 


     残土条例施行後の許可件数
 
       平成9年度(1月−3月) 18件
         10年度(4月−6月) 26件
            (7月−8月) 34件

      (注) 3000平方メートル以上のもので、6月30日において条例施行前から
                継続中のものは、あらためて市町村より県に移行。



 残土置場が減るのではなくて、逆に増えているのではないかと思われるのが、県下の現状である。産廃の上に残土が産廃隠しに被せてあるから、雨が降ればそれが崩れて、中の産廃が丸見えになる。すなわち、残土イコール産廃である。
 9月12日の新聞に「県の残土立入り調査13カ所違反の疑い」とでていたので、早速、県産業廃棄物課の監視班に問い合わせたが、「指導中だから公開はできない」と断わられた。
 違法・無法で埋め立てている箇所は県内いたる所にある。“残土は埋め得”ということで積まれたら、もうどうにもならない。とくに夕方とか夜間には、山間の谷地をめざして覆面のダンプが並んで走る。たちまちに、その辺一帯は巨大な山ができる。県も警察も手を出さない。
 あの山はあのままでは危ないなどと言っているうちに、産廃の山は残土の山と変わり、また次の山ができてゆく。この撤去をどう考えているかと監視班に聞くと、「業者にさせる」と言う。しかし、銚子の高田町や森戸町の残土産廃の山を見た人は、「豊島よりすごい」という。はたして、大金をかけて取り除く業者がいるだろうか。まさに条例以前の問題である。


●住民不在の残土条例

 住民の同意はいらないから、業者は愛想よく地権者に呼びかける。「貴方の遊んでいる土地を貸してくれませんか。残土で山を造り、木を植え、緑の山にしてお返ししますよ」と。県は、「貸すのがよくない」「売るのがよくない」「だからこうなるのだ」と言う。だが、それならそういう規則を作ったらよいではないか。
 県林務課に行き、「残土でできた丸坊主の山が、植栽で元の林になるのですか」と聞いたら、さすがにだまっていた。今は、林野庁にしても、県林務課にしても、意欲がなくなって、「私たちの仕事は緑化と植栽だけですよ」などと言ってている。これでは、国中の林野が産廃残土の山になってもくい止められない。
 
 残土条例では、
 (1)残土は建築工事に伴い発生する土砂や汚泥である
 (2)土砂等の埋立て等による土壌の汚染を未然に防ぐ
 (3)災害の発生を未然に防止する
 (4)住民の同意はいらないし、立地条件は考えない
となっている。
 
 (1)については、知事は「有効利用のできる土である」と言っている。しかし、土木関係事業にしか使えないのではないだろうか。農業には無理である。
 (2)については、ある資材置き場の残土は、気分が悪くなるような臭いがプンプンする土であった。住民は県に検査を依頼したが、県の検査では異常なしという結果がでた。だが、あの臭いを1日かいでいたらたまったものではない。住宅・都市整備公団が利用している残土から産廃が出てきたり、木が枯れたりしているということが新聞をにぎわせていた。
 工場跡地から持ってきた土の検査は、規定どおり以上に綿密にやらなければ6価クロムにふりまわされ、取った、またでてきた、などの騒ぎになる。六価クロムだから何回もやっただろうが、こんなことでは検査にならない
 (3)についても同様で、県は、「条件をクリアしているから許可をした。我々には何の権限もありせん」と言う。それはそうだろうが、まさかロボットではないだろう。それなら今後、条例に横だしでも、後出しでも規則をつけていかなければ、業者は金儲けのために必死である。あの手、この手は論をまたない。そんな情けないことを言っている場合ではない。良い業者ばかりではない。悪徳業者は大きな穴を掘り、土を売る。その穴に産廃をいれ、最後に残土をうずたかく盛る。県の監視は、許可後の業者に対しての立ち入り調査が主である。
 構造上の基準はある。切土、盛土の土質により安定計算を行い、がけ面を擁壁で覆うとか、法面の勾配、山の高さは安全が確保される数値をということである。しかし、それだけでは住民の計り知れない災害に対しての不安は解消されない。誰が不時の災害に対して責任をとってくれるのか。生命の危険も否めないし、飲み水や農業用水に変化があったら、どうしてくれるのか。県は業者に責任をとらせると言うが、それを保証する一文はどこにあるのだろう。「一時たい積事業」(残土の販売)などの許可についても安易なだけに問題がある。
 (4)の“住民の同意はいらない、立地条件は考えない”−−これでよいのだろうか。朝夕に親しんできた景観が変わってしまうのだ。昨日までみてきた緑の森が、いつのまにか茶色の高い山、木一つ生えていない山となり、それで気がついて住民が反対してももう遅いのだ。条例では、許可が下りたあとで事務所と看板をたてることになっている。それまで住民には知らされない。事務所ができたらそこから情報はとれるというが、全く住民を愚弄しているとしか思えない。住民は「県は業者寄り」だと言っている。誰でもそう判断しているのではないだろうか。条例はもっと修正されなければならないと思う。
 水道取水口の傍にある残土の山の排水を、囲いの中の井戸でうすめて外に出している業者がいる。「薄めているから影響がないのでしょう」と、業者の出した水質検査の表を見て、県は無責任に言う。しかし、住民の生活を守るうえで、立地規制はどうしても必要だ。
 県は、業者にたいして、規則で規制すること以外は手がだせないようである。


●残土は産業廃棄物の隠れ蓑

 銚子市の産廃銀座といわれる森戸、高田などの写真をご覧になってほしい。産廃なのだが、表面は残土でお化粧をしている。しかし、雨のあと、土地が直径2bくらい陥没して土中に産廃を埋めたあとがあらわにみえている。これは不法投棄である。住民過疎の山中や谷間に、また休耕地に、そして、車がやっと通るくらいの道の両側は、いたる所が残土の山である。



    平成9年度の残土移動

      全国           4500万平方メートル
      うち千葉県       1700万平方メートル
      その内訳 県下のもの   850万平方メートル
           東京      600万平方メートル
           神奈川ほか   250万平方メートル
          (他県に搬出   40万平方メートル)



 千葉県は、なぜこのように他県の残土、産廃をひき受けなければならないのか。陸を通り、海を通り、千葉県の山野に残土は運び込まれる。千葉県の緑豊かな風土を荒らし、豊かな田野も残り少ない。
 98年8月30日、海上町では、海上、銚子、東庄の1市2町にまたがる産廃処分場にたいする反対の住民投票を行った。投票率は87.3%で、産廃設置反対は98%にものぼった。しかし、このことに対する知事の態度はあいまいである。
 “住民の環境をまもる”千葉県の目標はどこにいってしまったのだろう。住民に対して、そして県外の方々に対して恥ずかしくない答をだしてほしい。民主主義の基本にもとづき、地方自治の趣旨を大事にしてもらいたい。
 残土条例ができてよかったとは思っている。しかし、まだこれでよいとはいえない。これは国ぐるみの問題と思う。残土も産廃も減らしてゆきたいものである。

(1998年12月)



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