鳥獣管理・狩猟制度のありかたが検討される


富 谷 健 三



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 現在、鳥獣の保護管理や狩猟に関し用いられている法律で、鳥獣保護行政の基本となっている法律として「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」があります。この法律は、大正7年に制定された「狩猟法」を基に、鳥獣保護の条文を加え昭和38年に全面的に改正されたものです。
 その後、多少修正はされていますが、ほとんどがその当時のままで、時代の流れとともに現状にそぐわない部分が出てきています。そのため、環境庁では、平成9年6月から平成10年4月にかけ、日本鳥類保護連盟監事の飯村武氏を座長とする「鳥獣管理・狩猟制度検討会」を7回にわたって開催し、その検討結果を5月に発表しました。その主な内容は次のとおりです。


(1) 鳥獣保護事業計画の拡充

 特定の個体群の計画的な保護管理を適正に行う観点から、都道府県が策定する鳥獣保護事業計画の内容及び鳥獣保護事業計画に関する国の基準を拡充する。


(2) 特定の個体群の保護管理のための仕組みの創設

 鳥獣保護事業計画の下位計画として、都道府県による特定の個体群に着目した保護管理のための計画制度を創設する。また、この計画を実行するために必要な手段として、都道府県が主体となって対象とする鳥獣の捕獲制限の内容等を定めることができる仕組みを創設する。


(3) 国と地方の役割分担の見直し

 野生鳥獣の保護管理に、基本的に都道府県が主体性を持って取り組めるようにするという観点から、地方分権推進委員会による勧告を踏まえながら、役割分担を整理する。


(4) その他

 調査研究の推進、情報収集体制の整備、保護管理技術の振興、保護管理の担い手の育成、人と野生鳥獣との共存基盤の整備、そして、保護管理に関する意識啓発の推進を図る。


 この報告を受け、環境庁では、自然環境保全審議会野生生物部会に対し、「人と野生鳥獣との共存を図るため緊急に構ずべき保護管理方策」について諮問を行い、平成10年内に答申を受け、平成11年に法改正を実施する計画としています。
 野生鳥獣は、自然環境を構成する重要な要素であり、永く後世に伝えていくべき国民共有の財産であります。国土の狭い日本では人間活動と鳥獣の生活域は重複しており、人と野生鳥獣の共存を図っていく必要があるため、従来から鳥獣保護区の制定、捕獲規制、有害鳥獣駆除などが行われてきました。
 しかし、一部の野生鳥獣、特に大形獣類においては、天敵の減少、狩猟圧の低下、中山間地域の人間活動の低下などにより、地域的に個体数の増加が顕著となり、農林業被害はもとより、森林が崩壊するにいたるような生態系の攪乱をもたらすほどとなっています。
 これまで、人間生活、特に農林業に被害をもたらす野生鳥獣については、有害鳥獣駆除により対処してきました。しかし、全国一律の駆除体制で実施されてきたため、あまり有害性の検討もされず、実効がないまま年中行事のように行われてきました。
 こうしたことから、特定の地域において個体数の著しく増加した野生鳥獣について、科学的な知見に基づいた、その地域ごとの計画的な管理が不可欠となってきています。
 今回の法改正への検討では、個体数の少ない野生鳥獣の保護と、局地的に個体数の増加した野生鳥獣の管理について、保護と管理の仕組みを明確にし、しかも具体的に表現して提案しています。そして、全国一律ではなく、各地域に即した保護管理計画樹立の必要性が示されています。
 千葉県では、すでにニホンザルについて、これまでの調査研究に基づく科学的資料をもとに、県独自の保護管理計画を策定しました。そしてその計画にもとづき、関係市町村がそれぞれの立場で保護管理計画を立て、生息状況の変化と狩猟や有害鳥獣駆除の実績などから、総合的に県が個体数管理をしていくように計画されています。
 ニホンジカについても、現在、同様な計画づくりが進められています。
 これまで、市町村では被害だけを問題視して、その対策を講じることだけを考えてきましたが、この計画により、自分達の地域に生息するニホンザルの保護管理について、自分たち自身がどのように対峙していくかを真剣に考える必要が出てきました。
 こうした考え方は、これまで国に頼ってきた各都道府県自体にも求められるもので、今回の検討内容でも、全ての野生鳥獣について、その保護管理のあり方を明確に示す必要が示されています。  人と野生鳥獣が真の意味で共存していくためには、相互の生活を維持していくための一定の秩序をきめ、その秩序を越えて被害が発生した場合には、被害者が直接加害者を処罰していくことが必要となります。人が野生鳥獣を処罰するのと同じように、野生鳥獣によって人が処罰されることもやむを得ないことになります。
 かつては、基本となる秩序として、自然界共通の「自然の掟」がありました。現在では人が作った「法律」が秩序となっています。しかしそれは人が優位に立って考えた秩序であり、野生鳥獣の立場で考えられた秩序ではありません。
 今回の法改正への検討に関しては、野生鳥獣を個体数で管理することの是非、保護管理体制の中心を国から県に移行することの是非、農林業被害重視による狩猟規制解除の是非、などについて、いろいろな立場から賛否両論があるものと思います。また、法改正に便乗して、キツネやタヌキ、テン、イタチなどの毛皮獣の捕獲制限の解除、かすみ網を用いた駆除方法の解除など、野生鳥獣保護上極めて危険な法改正も組み込まれようとしています。今回は特に考慮されていませんが、観光目的等の餌付けによる野生鳥獣の家禽・家畜化、イノブタ、キョン、ハクビシン、アライグマなど持ち込まれたものの管理をどうするかなど、野生鳥獣をとりまく問題は山積しています。
 野生鳥獣を適正に保護管理するためには、少なくとも同じ生活域に住む住民が、自分達自身の宝物として真剣にとりくむことが重要で、人と野生鳥獣が共存し続けるためには、人の立場、利害関係からではなく、野生鳥獣の立場を十分考慮した法改正が行われることが望まれます。そのために、適正な法改正が行われるよう働きかけることが、私たち、自然環境、特に野生鳥獣に関心のあるものの使命といえるでしょう。

(1999年10月)







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