環境省も利権官庁になったのか
高木信行
1.発注契約の93%が特定業者と結ぶ随意契約
〜NHKの情報公開請求で判明〜
ご覧になった方もおられると思うが、NHKテレビが4月4日と5日の2日間にわたり、環境省の随意契約問題を大きく報じた。環境省が発注する契約の93%が特定業者と結ぶ随意契約であり、中央省庁に原則として求められている競争入札がほとんど行われていない実態が明らかになった──というものである。
◇相手業者の半数は公益法人
その6割余りは環境省OBの天下り先
実は、環境省は、庁から省に格上げになってから“利権官庁”としての性格を強めているといわれている。また、自然再生推進法制定で自然再生事業の主務官庁となり、カネのかかる大きな公共事業を手がけるようになったことも、環境省の“変質”につながっているようだ。
行政が契約を結ぶ場合は、業者との癒着をなくして契約額も低く押さえるため、原則として競争入札の実施が義務づけられている。それなのに、環境省が発注する契約は、実に93%が特定業者との随意契約である。業者の半数は公益法人であり、その6割余りに環境省のOBが天下っているとのことである。
◇事業拡大に伴い、天下り先のファミリー企業が増加
〜所管庁の業務を独占的に請け負い、多額の利益〜
これは他の省庁や多くの自治体もやっていることである。たとえば郵政省について、こんな指摘がされている。
《郵便・郵貯・簡保の郵政3事業の拡大に伴って、郵政官僚の天下り先となるファミリー企業もその数を増やしてきた。その際、資金面で大きな役割を果たしてきたのが、郵政省が所管する公益法人だ。他省庁の公益法人と同様、公益を掲げて税の優遇措置を受けながら、実際は所管庁の業務に関係する仕事を独占的に請け負い、多額の利益を上げているところも多い》(東京新聞取材班『破綻国家の内幕』角川文庫)
環境省も、そんな利権官庁に成り下がったということだろう。
以下は、随意契約問題を報じたNHKニュースの内容である。
《NHKニュース、2006年4月4日放送》
環境省 93%が随意契約
環境省が発注する契約の93%が、特定の業者と結ぶ随意契約だったことがわかり、中央省庁に原則として求められている競争入札が、ほとんど行われていない実態が明らかになりました。専門家は「随意契約は談合と同じ弊害をもたらし大きな問題だ」と指摘しています。
NHKは情報公開制度を利用して、環境省が平成16年度までの5年間に行った、工事の発注や物品の購入など500万円以上の契約およそ3000件について調べました。
その結果、全体の93%が、特定の業者と結ぶ随意契約で、競争入札は7%しかありませんでした。年度別にみても、91%から98%と毎年ほとんどが随意契約で占められていました。
随意契約の相手の半数が公益法人で、その6割余りに環境省のOBが天下っていました。このうち、環境省のホームページの管理運営については、OBが天下っている法人に随意契約で発注され、毎年、仕事の内容が違うにもかかわらず、契約額は4年間、4920万円と同じ金額で、まったく変わっていませんでした。
中央省庁が契約を結ぶ場合、随意契約は、業者間で競争相手がいない場合など例外として認められているだけで、業者との癒着をなくし契約額も低く押さえるために、原則として競争入札の実施が義務づけられています。
これについて会計検査院の元局長で日本大学大学院の有川博教授は、
「随意契約が多くを占めているのは常識的には考えられない。随意契約が不適切に行われると、談合と同じ弊害をもたらすので大きな問題だ」
としています。
一方、環境省は、
「法律に照らしてすべて適切な契約と考えている。しかし、政府として契約のあり方を見直すことになっており、今後は、環境省も見直しを考えたい」
としています。
《NHKニュース、2006年4月5日放送》
環境省随意契約 会計検査院調査へ
環境省が発注した契約の93%が特定の業者と結ぶ随意契約で競争入札がほとんど行われていなかった問題で、会計検査院は、環境省の契約のしかたに問題がある可能性が高いとして調査に乗り出す方針を固めました。
この問題は、平成16年度までの5年間に環境省が発注した500万円以上の契約、3000件のうち93%が随意契約となっていたものです。会計法では、中央省庁が契約を結ぶ際には業者との癒着をなくし、契約額も低く押さえるために、原則として競争入札の実施を義務づけていますが、環境省では7%しか競争入札が行われていませんでした。
これについて会計検査院は、随意契約は業者間で競争相手がいない場合など例外として認められているだけで、こうしたケースが90%を超えることは通常考えられないとして調査に乗り出す方針を固めました。
会計検査院は、契約のしかたに問題がある可能性が高いとして、環境省から資料の提出を求め、契約1件1件について随意契約の必要があるのかや、契約額が高くなっていないかなどについて調査するものとみられます。
また、去年の会計検査院法の改正で官庁の契約先にも調査ができるようになったことから、会計検査院は環境省が随意契約を結んでいた公益法人などからも資料の提出を求め、不透明な契約の実態を解明する方針です。
2.ホームページ運営費の年4920万円はかかりすぎ
〜競争入札にすべき〜
4日の放送は、「環境省のホームページの管理運営については、OBが天下っている法人に随意契約で発注され、毎年、仕事の内容が違うにもかかわらず、契約額は4年間、4920万円と同じ金額で、まったく変わっていませんでした」としているが、これはいったいなんだろうか。
ホームページの管理運営にどうして年4920万円もかかるのか。それも、毎年同じ金額というのだから驚きである。
同省のホームページと同程度のものを、自前でつくっている市民団体もあるようだ。どうみても、年間4920万円はかかりすぎだと思う。税金のムダづかいである。もし、環境省がホームページの管理運営を競争入札にかけたら、おそらく500万円以下で引き受ける業者やNPOなどがいくつもでてくるのではないだろうか。環境省はホームページの管理運営などを競争入札にかけるべきだ。
3.自然再生事業を食い物にし、甘い汁を吸う?
〜天下り法人が受託業務を関係業者に“丸投げ”〜
環境省が主務官庁となって推進する自然再生事業について、小島望氏(北海道教育大学岩見沢校非常勤講師=当時)は、かつてこう指摘した。
《私は、従来通りのやり方で強引に事業を進め自然を破壊する一方で、破壊された自然を再生するという行政の姿勢に矛盾を感じてきた。しかし、どちらも「市民のためにではなく、省益を中心に考えている』という根本からきており、実は矛盾していないことがようやくわかってきた。彼らが求めているのは自然の「再生」ではなく、省益の「最盛」なのである》
《国交省は、従来のような強引な事業方針の行き詰まりと公共事業費の削減から、新しい事業を開発し、全国的に展開したいものと思われる。対して、国交省とはあつかう事業の数、規模、予算ともに比較にならないほど小さい環境省は、公共事業の予算枠を増やしていくことで、天下り団体の確保と整備をしたいものと思われる。つまり、国交省は新たな工法の開発とその普及、環境省は事業予算の獲得がねらいであるという公算が強い》(『週刊金曜日』2002年10月18日号)
小島氏は、「環境省は、公共事業の予算枠を増やしていくことで、天下り団体の確保と整備をしたいものと思われる」「環境省は事業予算の獲得がねらい」と言っているが、その後の展開をみるとズバリである。
たとえばフリーライターの岩田薫氏(全国環境保護連盟代表)は、『週刊金曜日』で環境省の姿勢をきびしく批判している。
以下は、その抜粋である。(小見出しは引用者がつけさせてもらった)
以上である。
《『週刊金曜日』2005年2月4日号》
自然再生推進法に巣喰う
環境省の新たな“官益法人” =抜粋=
全国環境保護連盟 代表 岩田 薫(フリーライター)
2002年に成立した自然再生推進法。環境省を中心に自然再生事業を展開しようとするものだ。当初から利権化が懸念されていたが、案の定、甘い汁を求める輩が出没し始めた。
◎天下り法人が不明朗な“丸投げ”
任意団体の「自然環境共生技術フォーラム」に関しては、環境省の受託事業を設立された初年度から2年間にわたって多額に受注していることもわかっている。
これは、フォーラムの桜井潔事務局長が私たちの調査に述べたもので、それによると、02年度環境省の自然再生事業基本調査を2000万円の予算で受託し、同じく03年度にも同額で受託したとのことである。
任意団体が、これだけの事業費を受託するのは、きわめて異例である。ちなみに、フォーラムは、03年度に同じ環境省から「自然景観地における登山道整備マニュアル」作成業務を400万円で受託してもいる。
ところが、意外なことが判明した。そもそも、これらの事業は、環境省OBの天下り財団である財団法人国立公園協会が環境省から受託したものだったのである。同協会研究センター長の上野孜氏が証言する。
「自然再生事業基本調査業務は、環境省の自然再生事業の一環として当協会が受託しました。事業費は02年度が2499万円、03年度が2499万6924円です。これをフォーラムに再委託したわけです。自然景観地における登山道整備マニュアル作成業務は、環境省の自然環境整備課の業務を受託したもので、03年度の事業費が393万7500円でした。これもフォーラムに再委託したのです」
ようするに受託事業の“丸投げ”である。
◎環境省は、OBを利益誘導団体に送る悪しき慣習に手を染めてしまった
ここで「自然環境共生技術フォーラム」とはいかなる団体なのか、検証してみたい。フォーラムが設立されたのは、02年8月23日である。年会費20万円の資金を集め、環境省大臣官房審議官の臨席も得て作られた。会員としてあげられている中に一般市民や環境NPOはまったくおらず、清水建設株式会社、三共共同建設コンサルタント株式会社など、造園会社、ゼネコン、コンサルタント会社あわせて96社が名を連ねている。
パンフに載っている役員(会長、理事など)は28人いるが、そのうち明らかになっただけでも11人が省庁のOB(つまり天下り)である。大学の先生で役員に名を連ねる者は、理事の北大大学院教授の中村太士氏など全部で5人いる。
フォーラム設立のきっかけは02年に「自然再生推進法」が成立したこと。造園会社等がフォーラム会員の大多数を占める実態が、利益誘導という団体の真の目的を裏付けている。
環境省自然環境局といえば、私たち環境NPOにとって、これまで自然保護政策を実行する聖域であり、パートナーともいえる役所であった。
ところが、その聖域までもが、OBを利益誘導団体に送る悪しき慣習に手を染めてしまったのだ。
前述の「自然環境共生技術フォーラム」は、04年7月1日付で環境大臣より社団法人となることの認可を正式に得た。社団法人としての名は「自然環境共生技術協会」という。役員、会員とも、フィーラムの時のメンバーがほぼそのままスライドした。
正会員95、産所個人会員……の計99の会員は、コンサル、造園会社、ゼネコンで占められ、天下り役人たちもそのまま理事に留任した。
私たちは、あまりにも露骨な官益法人の新設を許可もないよう小池大臣に再三申し入れたが、無視された。
◎自然再生事業は、官界と業界の癒着による新たな利益分配づくり
環境省における新たな利益誘導団体の問題は、公共事業の今後を考える上できわめて重要な問題をはらんでいるといえるだろう。
本来、自然再生推進法を制定する過程では、環境NPOからの提言も踏まえ、国会での審議を含め相当の議論をしてきた経緯がある。その際の主な論点の中には、「自然再生などという口当たりの良い言葉を持ち出しても、行きづまった公共事業の看板のかけかえになるだけではないか」という率直な疑問の声があった。
こうした声に対し、環境省など役所側は、「だからこそ、地域で自然保護に取り組む地道なNPOと一緒に推進していく体制を法的にも明確に作り、透明性を確保するのだ」などと私たちに説明してきた。
けっきょくフタを開けてみれば、官界と業界の癒着による新たな利益分配作りの構図が出来ており、国民はやはり騙(だま)されたわけだ。
社会的に公平であるべき学識経験者までも、官益法人側が抱え込んでしまった点は、問題の根が深い。
このままいけば、各地で自然再生に取り組むNPOや学者たちは、遠からず、お役所や官益法人に都合の良いところだけつまみ食いされ悲鳴をあげざるを得なくなる日がやってくるに違いない。何とも問題だ。
《『週刊金曜日』2006年1月6日号》
やっぱり環境省の天下りに食い物にされた自然再生推進法 =抜粋=
全国環境保護連盟 代表 岩田 薫(フリーライター)
本誌05年2月4日号で特集した環境省の新たな「官益法人」である「社団法人・自然環境共生技術協会」。本誌は官僚と業界との癒着の構造を指摘したが、天下り団体への優遇は続いている。
◎環境省OBに利益還流
この件で、さらに取材を進めたところ、興味深い事実をつかんだ。
2004年度の「自然再生事業基本調査」について、受託額の流れを調べたところ、社団法人の86の会員企業の一つ、パシフィックコンサルタンツ(株)ほかに研究委員会名目で丸投げされていたことが、複数の証言者の話から判明した。同社は、社団法人の副会長が代表取締役社長をつとめている企業だ。
パシフィックコンサルタンツ(株)といえば、省庁の利権に絡んだ企業として、何度も名前が浮上してきた“有名”な会社だ。国土交通省のダム事業でおざなりの環境調査をして批判されたり、防衛庁の辺野古沖環境アセスメントで環境団体に暴力を振るい訴えられる事件など、悪名高き企業だ。
私たちは、環境省情報公開室を介して、今回の受託事業の成果物を閲覧した。『04年度自然再生事業基本調査・報告書』がそれである。約300ページの分厚い報告書だが驚くことに、本文の3分の2 を占める「全国の自然再生事業」として紹介されている事例が、各地の環境NPOや自然再生協議会などの手でそれぞれのホームページ等に載せられた活動報告の丸写しなのである。
各事例にはホームページからの引用である旨及び出典先も明記されておらず、2394万円の国の予算を使ったにしては、お粗末な実態と言える。いったいこの調査のどこが「社団しかできない調査なので、随意契約」なのか。先の環境省職員は、私たちの指摘に無言だった。
◎仕事をしていない社団法人に多額の業務委託
〜自然再生推進法が掲げる理想とはほど遠い実態〜
私たちは、東京・西新橋にある社団法人の事務所を訪ねてみた。雑居ビルの事務所には、事務局長の桜井潔氏と女性事務員しかおらず、何とも殺風景だった。
ほとんど仕事らしい仕事をしていないことは事務所の風景が何より示している。自然再生推進法が掲げるNPOと協同して事業を進めるという理想とは、まったくほど遠い業界団体の実態を見る気がした。
私たちは、環境省の小池百合子大臣に宛て、行政不服審査法に基づく同社団法人の許可取り消しを求める異議申立書を05年7月20日提出した。残念ながら「却下」の通知が来たので、2月12日付で審査請求書を提出した。これも、「却下」の決定がなされた時は、行政訴訟を提起する考えだ。私たちは、今後も追及の手を緩めるつもりはない。
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こうしてみれば、環境省が利権官庁に成り下がったことは明らかだと思われる。今後の動向に注目したい。
(2006年4月)
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