本所次郎著
『夢を喰らう〜大テーマパークの騒動記』
木下 博
・著 者:本所次郎 ・書 名:夢を喰らう 〜大テーマパークの騒動記〜 ・発行所:徳間文庫 ・価 格:571円
この本は、東京ディズニーランド建設のいきさつを小説にしたものである。三番瀬(正確には三番瀬周辺海域)の埋め立てがどういう目的によっておこなわれたか、さらには、埋め立てで三井不動産などがいかに莫大な利益をあげたかということを見事にえぐっている。
ちなみに、三番瀬円卓会議がまとめた「三番瀬の歴史」(「三番瀬再生計画案」の一部)や『三番瀬の変遷』(全118ページ)は、こうした埋め立ての核心部にまったくふれていない。これらは“アンコの入っていない温泉饅頭”というべき代物である。
●埋め立て地転売で巨利を得ることが真の目的
〜大型遊園地づくりはサシミにツマ〜
さて、東京ディズニーランド関連用地の埋め立ては、「船橋ヘルスセンター方式」による儲けをもくろむものだった。つまり、「大型遊園地の建設」をうたい文句にして三番瀬をつぎつぎと埋め立て、転売でボロ儲けを図るというものである。
同書はこう書いている。
「矢沢(朝日土地興業の丹沢社長のこと)が船橋沿岸10万坪を埋め立て、その土地の一部に昭和30年(1955年)開業したばかりの『船橋ヘルスセンター』は、都市型観光開発のさきがけとして興隆をきわめ、矢沢は時代の寵児となっていた。埋め立ては無から有を生じる『利権』であることを、矢沢は身をもって知っている」その朝日土地興業と三井不動産、京成電鉄の3社が1960年、「株式会社オリエンラルランド」を設立した。目的は、大型遊園地「ディズニーランド」の建設をうたい文句にして「自社埋め立て」を千葉県に認めさせ、造成後はその転売で巨利を得るというものだった。埋め立て面積は260万坪(約860ヘクタール)という巨大なものである。しかし、「ディズニーランド」の建設は大ウソであって、まったくやる気がなかった。
同書はこう書いている。
「埋立地を、住宅地やビル用地として分譲し、儲ければいいじゃないか、というのが高垣の発想である。松坂不動産の井戸英俊も、同じ考えだ。レジャー事業は当たり外れが多く、やはり土地の分譲が埋め立て事業の主体だ。県や町が提唱する大型遊園地づくりは、あくまでサシミにツマだった」松坂不動産は三井不動産、井戸英俊は江戸英雄のことである。
●川上知事の強硬措置で東京ディズニーランド建設が実現
浦安漁民との漁業補償交渉も、千葉県ではなく「オリエンタルランド」がおこなった。漁民への接待工作は派手におこなわれた。東京の一流料亭で飲めや歌えの大騒ぎがつづいた。そして、浦安漁民はついに、1戸当たり800万円の支払いと引き換えに漁業権を全面放棄した。
埋め立て工事が終わると、三井不動産などは、埋め立て地の一部を転売しつづけ、その土地ころがしでボロ儲けをつづけた。三井不動産は260万坪すべてを転売するつもりだった。だから、三井不動産は、米国ディズニー社とのディズニーランド誘致交渉をたびたび妨害した。
同書はこう書いている。
「松坂不動産は故意にデージー(ディズニー社のこと)側に断らせて、この事業をつぶすつもりだ。だから合意した業務提携に、いまさらながら難クセをつけ、デージー側を怒らせている」しかし、川上紀一千葉県知事(当時)は、この三井不動産の姿勢に激怒した。そして、川上知事は同社関連会社の許認可事務をすべてストップするという措置をとった。
同書は次のように記している。
「(知事は)ついに伝家の宝刀を抜いた。松坂不動産から県に申請の出ている一切の許認可事務にストップをかけたのである。松坂不動産は、浦安や検見川をはじめ千葉県で多くの事業を抱えていたため、この事務手続きの停止処分は痛かった。再三、陳情したが、川北(川上知事のこと)の怒りは収まらず、このいやがらせは5カ月間にわたって続いた」とうとう三井不動産は音をあげ、ディズニーランドの建設を認めた。
●「5千万円ニセ念書事件」のウラ
しかし、三井不動産は、自社のボロ儲けを妨害した川上紀一知事に報復する。それが「5千万円ニセ念書事件」だった。一部マスコミの協力も得、ニセ念書をもちだして川上知事を退任に追いつめた。
同書はこう書いている。
「岡野は、『念書事件』は深田剛、久保山健二、そして菅田派県議の集まりである『房州会』を実質的に取り仕切る松倉三次らが仕組んだことを知っている。それは川北を失脚させ、千葉県内の利権を取り戻すことを目的とした行為に他ならなかった」
「それが意図するものは、川北知事によって虐(しいた)げられてきた松坂不動産の利権の復活である」
◇ ◇
三番瀬の埋め立てや東京ディズニーランド建設にはこういうウラがあったのである。この本は、それをくわしく描いている。同書はフィクションの形をとっているが、書かれていることはほぼ事実といってよいと思う。
(2004年6月)
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