小櫃川河口干潟隣接埋め立て地
ホテル・大浴場建設で要望書
木更津市海岸に広がる東京湾最大の自然干潟「小櫃川河口干潟」(盤洲干潟の一部)に接する埋め立て地にホテル三日月(本社・勝浦市)が大浴場とホテルの建設計画を進めている問題で、千葉大学自然保護研究会は1999年9月20日、多量の温排水が干潟や生物相に与える影響などについて環境影響評価を行うことや、ホテル計画の再検討などを求める要望書を千葉県知事あてに提出しました。
以下は、要望書の内容です。
1999年9月20日
千葉県知事 沼 田 武 様
千葉大学自然保護研究会
小櫃川河口干潟に隣接するホテル建設計画について
千葉県の自然環境の保全と県民生活の向上にご尽力いただき、ありがとうございます。
小櫃川河口干潟は、東京湾に残されている数少ない広大な干潟です。そして、この干潟は千葉県内でも屈指の自然環境を保持しているといっていいでしょう。また、国際的にも渡り鳥の中継地としても重要で、国際的にも重要であるとの認識が高い場所です。
この小櫃川河口干潟は、千葉県として貴重な財産であるばかりでなく、世界的にも重要な意味を持ち、次の世代までこの良好な状態を保持していく義務があると考えます。そのためには、小櫃川河口干潟周辺の保全だけではなく、小櫃川流域全体の保全を検討する必要があります。これは、干潟の起源となる粒子・運搬物の確保という意味のほかに、流域全体の生態系の中にこの干潟を位置づけていく必要があるからです。このため、小櫃川に関わる開発と、河口部の環境改変はある程度広い範囲においてその影響を十分検討する必要があります。
現在、河口干潟に隣接してホテル建設計画があると聞いております。このホテル計画によってこの良好に保たれてきた環境が破壊される懸念があります。この場合、自然環境だけでなく、漁業環境や景観までもが大きな影響がある可能性があります。この事は千葉県民にとって大きな損失となりかねないことを意味しています。以上のことから、下記のように要望をいたします。
要 望 事 項
- 1日500トンという多量の温排水が干潟や生物相に与える影響については、十分な調査を行い、環境への影響予測と、漁業への影響予測を行ってください。
- 地下深部より地下水をくみ上げることによる地盤沈下が起こるかどうか、また、その影響について調査を行ってください。
- 高層建築物が渡り鳥に与える影響、建物の照明が生物に与える影響をを調査してください。
- この地の豊かな自然環境を未来へと引き継いで行くために、小櫃川の流域と河口周辺の保全計画を早急にまとめてください。その中で、ホテル計画を再検討してください。
* 小櫃川河口干潟はラムサール条約に準拠して保全していく必要があると考えます。
要望事項の理由について
東京湾の浅海域の9割は埋立によって消滅しています。その残った1割が小櫃川河口干潟(盤州干潟)、三番瀬、富津干潟などです。その中で1000haを超えるまとまった干潟・浅海域は盤州干潟と三番瀬だけとなってしまっているのはご承知の通りです。しかも、その中で東京湾の原風景ともいうべき姿を残しているのは盤州干潟のみといっていいでしょう。それは広大な干潟の背後に広がる湿地の広さです。盤州干潟には塩性湿地から葦原へと典型的な河口干潟の一連の植生と自然が残されています。この一連の変化自体が干潟の風景であり、生物が豊かであり多様である一因といえます。
このように豊かな自然環境であるがゆえに、渡り鳥が中継地として利用し、人にとっては良い漁場と楽しみの場となっています。ことに、世界的な関心が高いのは渡り鳥のボーダレスの行動範囲から来る、その生息環境の保全です。つまり、渡り鳥そのものの保護だけでなく、中継地、繁殖地の保全それ自体が非常に重要であり、国際的な湿地の保全が不可欠であるということです。これは、ラムサール条約の根幹的な考え方であるし、この条約では加盟国の条件を満たす湿地の保全が義務づけられていることを考え合わせると、この小櫃川河口干潟(盤州干潟)はラムサール条約に準拠して保全されるべき場所でしょう。
1.について
干潟に排出される温排水は、その冷たい海水との密度差から、海面に広がり密度成層を起こす可能性があり、これによって循環が妨げられます。また、この場合、攪拌が少ない場合は淡水の膜が薄く広く広がり、排水付近のみならず、干潟全体に大きな影響を与える可能性があります。これは、冬場の海苔量への影響が考えられ、温度変化に弱い海苔はその生産に大きな影響が出てると考えられます。
その他、温度と塩分濃度の変化に対して生態系の遷移も考えられます。生物相はある状態に適応した種がその生態系を形成します。海域においてその生物相を決定する大きな要因は塩分濃度、温度、水深といわれています。この事を考えれば、現在の生態系が遷移を起こす可能性が十分考えられます。
2.について
干潟の勾配は1/100から1/1000といわれています。この事を考えると、50cmの沈下によってその水際線は50mから500mも変動することとなります。この事は現在の動植物の生息環境がそれだけ移ることを意味していて、その移動速度についていくことのできないもの、その過程で繁栄する物が現れます。また、先ほど述べましたように、水深に依存して生物相が決定されますので、この点でも生態系に与える影響が考えられます。
3.について
高層建築物の渡り鳥に与える影響に関しては、谷津干潟、三番瀬で既に大きな問題となっています。谷津干潟と三番瀬を分断する湾岸道路の存在から、渡り鳥が橋脚に激突するといった事例が数多く報告されていいます。また、海辺の照明は生物の時間間隔、体内時計に重大な影響をもたらすといわれています。この二点により生物の生活用式が大きく変わる可能性があります。
4.について
先程から述べておりますとおり、小櫃川流域全体を考えてもその自然は他県に誇れる物であり、この素晴らしい流域環境あっての盤州干潟であり、河口から源流までの保全計画が非常に重要になっています。こうした、流域全体の保全は、流域全体の生態系の保全につながり、豊かな干潟の存続と、良好な河川環境を実現できることになります。次世代までこの千葉県最良の環境といてもいいこの地域を残していくためには是非流域保全という考え方が必要です。
この地の豊かな自然は貴重で、有用な物です。これ故、できるだけ良い形で残していくためには流域全体の保全計画が必要となります。その中でこのホテル計画はどう位置づけられ、どう評価されるべきものであるのかを検討していただきたいと思います。
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