田久保晴孝著
『三番瀬・四季の野鳥たち』
牛野くみ子
・著 者:田久保晴孝 ・書 名:三番瀬・四季の野鳥たち ・発行所:風濤社 ・価 格:1700円
田久保晴孝さんの写真集『三番瀬・四季の野鳥たち』が、このたび出版されました。これは、三番瀬保全に命をはっている田久保さんが、30年撮りためた6000枚の中から選りすぐりの何葉かをまとめた写真集です。
表紙を飾っているのは、“さあ! エサをとりにいこう”と、干潟で羽ばたいているコアジサシです。全体は春、夏、秋、冬の4部構成でなりたっています。ページをめくると、三々五々、潮の引いた干潟で人々がアサリを採っている姿を目にします。が、後方は幕張メッセ群、手前は倉庫群です。こんなにも埋め立てられてしまったのかと気づかされます。写真の横には、1976年の「全国干潟シンポジウム」千葉アピール文が載っています。「生命のゆりかご、三番瀬……貴重な自然環境と/海のある暮らしを/みんなの力で守りぬきましょう」とありますが、30年前も今もちっとも進歩してないことに驚きます。
春、カニやゴカイのたくさんいる干潟にスクッと立ったダイゼン。シギやチドリは南の国から渡ってくることが、説明により分かります。カルガモの親子のほほえましい写真。そして、オスに餌をねだるモズ。本当は田久保さんにおねだりをしているのでないの? 田久保さんは鳥の気持ちが分かるから、なんて思ってしまう写真です。
褐色の美しいオオソリハシシギ。そして、満潮時の5月の三番瀬。後方は浦安のビル群。前出の幕張メッセとともに、三番瀬は埋め立て地に囲まれていることがはっきり分かります。それでも、海の絵を眺めていると穏やかな気持ちになるのは、海がもつ懐の大きさでしょうか。
次に現れたのは、チュウシャクシギとメダイチドリ。干潟の表面は緑色のケイソウで覆われています。そんな細かい所まで写真に収まっています。干潟のもついろいろな表情が読みとれます。
ハマシギが無心に餌を採っています。キャプションは「長旅にそなえて」。そして、休息する何百という群。トウネンが「たくさん食べてシベリアまで飛ぶぞ」と意気込んでいます。思わずガンバレヨと言いたくなる写真です。
ページをさらにめくると、これはひどい! マテガイとシオフキの死骸の山。青潮で死んだようですが、一体どこにこんなにいたのかと思うほど。それほど三番瀬は豊かなのです。
ゴカイを引っぱり出しているメダイチドリ、大きなボラをのみこんでいるアオサギ。今では三番瀬のボスであるミヤコドリと三番瀬に渡ってくる鳥、とどまっている鳥。一羽一羽が実に生命力あふれて描き出されています。
なお、巻末には、水鳥たちの渡りのコースや、三番瀬の生き物、そして埋め立て計画の問題点などがくわしく書かれています。さきの9月県議会で堂本知事が埋め立て中止を表明しましたが、今後の課題にもふれています。
田久保さんの、三番瀬に生息する生き物への思いが実によく現れている一冊です。写真を見ながら、自分なりのキャプションを考えるのも楽しいでしょう。
(2001年10月)
このページの頭に戻ります
「書籍・書評」のページにもどります